リフォーム見積書の見方——「一式」「諸経費」「法定福利費」の3語で読み解く
リフォームの見積書は、総額ではなく「行の中身」から読むと早いです。見るべき行はほぼ決まっていて、「一式」「諸経費」「法定福利費」の3語を押さえれば、他社との差がどこから出ているかが分かります。そして内訳の分かる見積書は、注文者から請求があれば契約成立までに交付すべきものだと建設業法に書かれています。私たちはリフォーム会社向けの概算見積シミュレーターを作っている側なので、見積の行を作る立場から、この3語の正体を開示します。
見積書は「金額」より先に「行の数」を見る
見積書とは、工事の内容を項目に分け、それぞれに数量と単価を付けて合計した書類です。だから読むときの順番は、合計金額よりも先にどんな行が並んでいるかになります。
3社の見積を並べて総額が違うとき、原因は値引き幅の差ではないことがほとんどです。ある会社が持っている行を、別の会社が持っていない。あるいは同じ費用を違う行に入れている。それだけで総額は簡単に十数万円ずれます。
そこで、まず次の表の順に目を通してください。
| 行の名前 | 何を意味するか | 見るところ |
|---|---|---|
| ◯◯工事 一式 | 数量を書かずにまとめた行 | ㎡・箇所・台数を聞く |
| 仮設・足場 | その現場に1回だけかかる共通費 | 2回分になっていないか |
| 現場管理費 | その現場を回すための費用 | 何に対する何%か |
| 一般管理費 | 会社の運営費(本社経費) | 現場管理費と二重でないか |
| 法定福利費 | 職人の社会保険の会社負担分 | 値引きの対象にしない |
| お値引き | 総額の調整 | どの行から引いたのか |
金額の大小より、同じ費用が2か所に出ていないかを探すほうが、違いが早く見えます。
「一式」は違法ではない。ただし内訳は請求できる
「一式」と書かれていると不誠実に見えますが、それ自体が違反というわけではありません。数量を数えにくい工事(下地の補修、雑工事、諸経費のたぐい)では、実務上まとめて書くほうが実態に近いこともあります。
問題は、一式だけで見積書が構成されているときです。数量が無いと、他社と単価で比べることができません。「外壁塗装工事 一式 128万円」では、㎡単価が高いのか、塗る面積が大きいのかが判別できないのです。
このとき使える根拠が建設業法第20条(建設工事の見積り等)です。同条は、工事の種別ごとの材料費・労務費その他の経費の内訳や、工程ごとの日数を記載した見積書を作成するよう建設業者に求めたうえで、注文者との関係を次のように定めています。
建設工事の注文者は、建設工事の請負契約を締結するに際しては、当該建設工事に係る材料費等記載見積書の内容を考慮するよう努めるものとし、建設業者は、建設工事の注文者から請求があつたときは、請負契約が成立するまでに、当該材料費等記載見積書を交付しなければならない。
(出典: 建設業法 第20条・e-Gov法令検索)
ここでいう「注文者」には、工事を頼む施主も含まれます。つまり「内訳の分かる見積書をください」は、遠慮して言う頼みごとではありません。契約前に請求するのが、条文の想定する流れです。
私たちが概算エンジンに「一式」を1行も作れなかった話
ここからは、見積の行を作る側の話です。
私たちが提供している概算シミュレーターは、リフォーム会社ごとに工事項目の単価表を持ち、施主が入力した条件から金額を計算します。設計を始めたとき、標準サンプルの価格表に「一式」という行を置こうとして、置けませんでした。
理由は単純で、機械は「一式」を計算できないからです。金額を自動で出すには、すべての行が「数量 × 単価」か「前段の小計 × 率」のどちらかの形になっている必要があります。一式は、その両方の形を持たない行です。
その結果、価格表からは一式が消え、代わりに困ったことが起きました。現場で1回しか発生しない費用を、どの項目に持たせるかという問題です。外壁塗装と屋根塗装の両方に足場を含めると、施主が両方を選んだ瞬間に足場代が2回分足されてしまう(詳しくは屋根と外壁の同時塗装にまとめました)。
この作業を通して分かったのは、紙の見積書の「一式」は、担当者の頭の中にある調整を1行に押し込んだものだということです。悪意の産物ではなく、多くは経験の圧縮です。だからこそ、聞けば中身は出てきます。出てこない場合は、その担当者自身も根拠を持っていない可能性があります。
「諸経費」は2種類ある
諸経費という行が2つ並んでいて驚くことがありますが、性質の違う費用です。
ひとつは現場管理費で、その工事現場を運営するための費用です。現場監督の人件費、近隣への挨拶、車両費、産廃の管理などが入ります。工事の規模に連動しやすく、工事小計に対する率で計算されることが多い項目です。
もうひとつは一般管理費で、会社を存続させるための費用です。事務所の家賃、経理や事務の人件費、保険料などが含まれます。工事ごとに発生するわけではないので、全体に薄く配賦されます。
見るところは2つだけです。率が何%かと、何に対する率か。工事小計に対する10%と、材料費だけに対する10%では金額がまるで違います。率の項目がグレードを上げると自動的に増える仕組みについては、キッチンリフォーム費用の内訳で数字を追っています。
「法定福利費」は値引き交渉の対象ではない
見積書に「法定福利費」という行があると、何かの上乗せに見えるかもしれません。これは職人の社会保険(健康保険・厚生年金・雇用保険)の会社負担分です。
国土交通省は、この費用を見積書に内訳として明示する取り組みを進めています。同省の資料では、基本的な算出方法は「労務費総額 × 法定保険料率」と示されています(出典: 「法定福利費を内訳明示した見積書」作成手順・国土交通省)。
ここで正確に押さえておきたいのは、この内訳明示がもともと下請企業が元請企業に出す見積書を想定した仕組みだという点です(出典: 法定福利費を内訳明示した見積書の作成手順・国土交通省)。ですから、施主向けの見積書に必ずこの行があるとは限りません。
行があった場合の読み方はひとつです。そこを削ってくれ、とは言わない。削れば、現場に入る職人の社会保険料の原資が消えます。値引きを相談するなら、グレードや工事範囲の側で調整するのが筋の通ったやり方です。
数字が合わないときに聞く3つの質問
見積書を読んで引っかかったら、次の順に聞けば大体ほどけます。
- 「この一式の数量を教えてください」——㎡・箇所・台数が出れば、他社と単価で比べられます
- 「諸経費は何に対する何%ですか」——率と母数が分かれば、総額の差の理由が分かります
- 「この見積に含まれていない工事はありますか」——追加費用の芽は、含まれる範囲の外にあります
答えられない会社が悪いとは限りませんが、答えを持っている会社のほうが、着工後の追加が少ない傾向はあります。契約前の見積書に不安が残る場合は、公益財団法人 住宅リフォーム・紛争処理支援センターのリフォーム見積チェックサービスで建築士に無料で見てもらう方法もあります。
よくある質問
見積書が「工事一式 150万円」の1行だけでした。断るべきですか
すぐに断る必要はありませんが、内訳を請求してください。建設業法は、注文者から請求があったときは契約成立までに内訳を記載した見積書を交付すべきことを定めています。請求しても出てこない場合は、比較の材料が無いまま契約することになります。
諸経費は値引き交渉できますか
交渉自体は可能ですが、率を下げてもらうより工事範囲を調整するほうが現実的です。現場管理費は現場監督の人件費などの実費に近く、ここを削ると管理の手が薄くなる可能性があります。
法定福利費が書かれていない見積書は、社会保険に入っていない会社ですか
そうとは限りません。内訳明示の仕組みは主に下請から元請への見積書を想定したもので、施主向けの見積書では労務費に含めて出す会社もあります。気になる場合は、建設業許可の有無とあわせて確認してください。
相見積もりで総額を比べれば十分ではないですか
総額だけでは、含まれている工事の範囲が違うことに気づけません。安いほうが単に行を持っていないだけ、ということが起こります。比較は行単位で行い、何社に頼むかは相見積もりの適正数を参考にしてください。
Webの概算シミュレーターの金額と、届いた見積書の金額が違います
概算は入力された条件だけから計算した目安なので、現地の条件で変わります。差が出たときに見るのは差額そのものではなく、概算に入っていなかった行です。その行が何かを聞けば、金額が動いた理由が分かります。
自社サイトに概算見積を置きたい会社様へ: 「一式」を使わずに数量と単価で概算を出す仕組みは、メヤスの製品ページにまとめています。
本記事は一般的な情報提供であり、個別の工事金額・法的判断を示すものではありません。条文はe-Gov法令検索、法定福利費の算出方法は国土交通省の作成手順資料にもとづきます。
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