MVPの機能の絞り方——27機能で計画したアプリを、ベータ公開の前に削ぎ落とした記録
MVP(最小限の製品)の機能の絞り方でいちばん効いたのは、「この機能は、使う人の毎日の流れ(コアループ)に乗っているか」という1つの問いでした。私たちは自己研鑽アプリ「先勝」を、2026年5月に27機能のMVPとして計画しました。実際に作ってみると画面は迷路のようになり、2026年6月6日に大きく削ぎ落としています。この記事では、何をどれだけ削ったかを実数で公開し、そこから作った「削る手順」と「削ってはいけないもの」を残します。

結論:MVPの機能は「足りるか」ではなく「迷わせないか」で絞る
MVPという言葉を広めたリーンスタートアップの提唱者エリック・リースは、MVPを「チームが最小の労力で、顧客について検証された学びを最大限に集められる、新製品のバージョン」と定義しています(出典: Wikipedia「Minimum viable product」(新しいタブで開く))。大事なのは「最小の労力」より「学びを集められる」の方です。
機能が多すぎると、使った人が迷い、どの機能が効いたのかが分からなくなります。つまり学びが集まらないMVPになります。
計画の時点で「全部が必須」になっていた
先勝のMVP機能リストは、2026年5月10日に確定版v3としてまとまりました。中身は Must(必須)25・Should(あった方がよい)1・Could(できれば)1 の合計27機能です。
問題は、25個がすべて「必須」に分類されていたことです。人生の迷い方を5段階に分け、どの段階の人にも居場所を作ろうとした結果、段階ごとに機能が増えました。リストを改訂するたびに、v2で3つ、v3でさらに3つの必須機能が足されています。
数字にすると、ずれはもっとはっきりします。
| 項目 | 計画時の数字 |
|---|---|
| 機能数 | 27(うち必須25) |
| スケジュール | 12週間(84日) |
| 工数の見積もり合計 | 約145〜220日分 |
見積もりの合計が、そもそもスケジュールに収まっていませんでした。計画を楽観的に見てしまう心理については見積もりが毎回外れる理由の記事で詳しく書いています。
「全部必須」になるのは、分類の方法が悪いというより、判断の物差しが「この機能を欲しい人はいるか」だったからです。欲しい人は、どの機能にも必ずいます。
2026年6月6日に何を削ったか(実数)
作り進めた結果、画面の入口が増えすぎていました。実際に触った側からも「ごちゃごちゃしている」「まだ削いでほしい」という声が出て、6月6日に削ぎ落としをまとめて行いました。開発ログ上の改善ループ(小さな変更の1回分)で言うと、r1133〜r1191 の範囲です。
変えた場所と数字は次のとおりです。すべて自分たちの開発ログからの実数です。
| 削った場所 | 削る前 | 削った後 |
|---|---|---|
| スマホ下部のタブ | 6 | 5 |
| 「もっと」メニューの項目 | 24 | 10 |
| ホームの初回チェックリスト | 8 | 4 |
| ホームを開くたびに走る件数集計(非コア機能の分) | 4本 | 0本 |
| 無料の導線で自動的にAIを呼んでいた箇所 | 3 | 0(既定でオフ) |
いちばん大きかったのは、計画では必須4機能を割り当てていた「育成キャラクター」をやめたことです。代わりに、記録するほど位が上がる「段位」(浪人→足軽→武者→侍大将→武将→軍神)を主役にしました。経験値の仕組みはそのまま使えたので、作り直しは最小限で済んでいます。

削る基準は「毎日の流れに乗っているか」
削ぎ落としの前に、先勝の毎日の流れを1文に書き出しました。「軍略(人生設計)を描く → 陣中日記(日々の記録)を書く → 段位が上がる → 盟友(仲間)と励まし合う」です。
そのうえで、全機能をこの流れに「乗る」「乗らない」で仕分けました。性格診断、AIコーチとの対話、グループ参加、五事レーダー(5つの軸の自己評価)は、どれも作り込んだ機能でしたが、流れの外にあったためメニューから外しています。
この物差しの良いところは、「欲しい人がいるか」と違って、答えが1つに決まることです。流れに乗らない機能は、どれだけ良くできていても、初めて使う人を迷わせる入口になります。選択肢が多いと人が選べなくなる理由は選択のパラドックスの記事で解説しています。
仲間機能は「軽くして残した」
盟友(ユーザー同士のつながり)は、消すかどうかで迷った機能です。結論は「価値観の近い人を見つけて、いいねで励まし合う」だけを残し、重いSNSにはしない、でした。
そのとき、公開プロフィールのフォロワー数とフォロー中の数の表示は撤去しています。アプリの芯にある「比べるなら、昨日の自分とだけ」と、人数を見せて比べさせる仕組みがぶつかっていたからです。機能を丸ごと消すか残すかの二択ではなく、芯とぶつかる部分だけを外すという削り方もあります。
AI機能は「原価が勝手に動くか」で見直した
計画時、先勝の最大の差別化は「抽象的な目標を、AIが具体的な行動に落とす機能」でした。ところが監査すると、無料の導線で、ページを開くだけでAIを呼ぶ箇所が見つかりました。朝のメッセージと7日間の総評の2箇所に加え、毎日ユーザーごとにAIで「今日の一手」を作るカードがありました。
この状態だと、使う人が増えるほど、こちらの意図と関係なくAIの利用料が増えていきます。無料で使えるMVPとしては危うい設計でした。
そこで、自動でAIを呼ぶ処理は既定でオフにし、時間帯や今日の記録の有無から決まる「ルールで作る文面」に置き換えました。AIのコードは消さずに残し、利用者が自分でボタンを押したときだけ動くようにしています。無料枠で運用するときのお金の境界は無料枠だけで本番運用する構成の記事にまとめています。
削る手順:いきなり消さず、2段階で扱う
実際にやった順番を、再現できる形にするとこうなります。
- 毎日の流れ(コアループ)を1文で書く
- 全機能を、その流れに「乗る/乗らない」で仕分ける
- 乗らない機能は、まずメニューと初回案内から外す(URLとコードは残す)
- 使う人が増えると原価が勝手に増える処理を止める
- 隠したまま戻す理由が出ない機能は、コードごと消して理由を記録する
3番で「まず隠す」にしたのは、消したあとに必要だと分かると、戻すのに手間がかかるからです。実際、6月6日の時点ではナビから外した画面の多くを、URLで直接開けば使える状態のまま残しました。
隠しっぱなしにした失敗
ただし、隠したまま放っておくと別の問題が起きます。2026年7月17日、陣中日記をすばやく保存するボタンが、保存しても経験値も連続記録も付かない状態だと分かりました。そのボタンは、どの画面にも表示されないまま、コードだけが残っていたものです。
放っておけば、いつか誰かが表示を戻したときに「記録したのに連続記録が切れた」という不具合になっていました。7月23日にボタンと保存処理を合わせて 190行を削除しました。判断は、開発の作業リストの冒頭に書いてある「迷ったら足すより削る」に沿っています。
隠すのはあくまで途中の段階です。戻す理由が出ないまま時間がたった機能は、消すところまでやりきる。これが、この失敗から足した決まりです。
過去の手間が惜しくて消せなくなる心理はサンクコスト効果の記事で扱っています。
削ってはいけないもの
削ぎ落としと同じ時期に、逆に足した・固めたものもあります。
削ってよいもの
- 流れの外にある便利機能(診断・対話・グループ)
- 読み込み中に出す豆知識
- ユーザー同士の人数比べ
- 自動で動くAIの文面
削ってはいけないもの
- ログインと権限(他人のデータが見えない仕組み)
- アカウントを自分で削除できる機能
- 特定商取引法の表記・プライバシーポリシー
- 課金状態を本人が書き換えられない設計
右側は、どれも「あとから足すと、それまでのデータや約束を直す必要が出るもの」です。受託開発会社のアクシアも、MVPで削らない方がよい機能として「あとから足せないもの(権限・個人情報・記録・お金)」を挙げています(出典: 株式会社アクシア「MVP開発の費用と削り方」(新しいタブで開く))。
私たちの記録でも、削ぎ落としの直後に行った監査で、招待機能の権限の穴や、他人の最大値が表示されてしまう不具合を直しています。機能を減らした分、残った土台を固める時間が取れたというのが実感です。
よくある質問
Q. MVPの機能はいくつくらいが目安ですか? 決まった数はありません。私たちの場合、数を目標にすると「どれを残すか」で迷い続けました。「毎日の流れに乗っているか」で仕分けると、数は結果として決まります。先勝では削ぎ落とし当時、よく使う入口がスマホ下部の5タブと、メニューの10項目に収まりました。
Q. MoSCoW分析(Must/Should/Could/Won'tで分ける方法)だけでは足りませんか? 分類そのものは役に立ちますが、物差しが「欲しい人がいるか」のままだと、ほとんどが必須に入ります。私たちは27機能のうち25個が必須になりました。分類の前に「毎日の流れを1文で書く」工程を入れると、必須の数が現実的になります。
Q. 削った機能を「使っていた」と言われたらどうしますか? だからこそ、まずメニューから隠して、URLとコードは残す段階を挟みます。戻す理由がはっきり出たら表示を戻し、出なければ消します。消したときは、何を・なぜ消したかを記録に残すと、後から同じ議論を繰り返さずに済みます。
Q. AI機能はMVPに入れない方がいいですか? 入れること自体は問題ありません。気をつけるのは、画面を開くだけでAIを呼ぶような「使う人が増えると原価が勝手に増える」作りです。私たちは、利用者が自分でボタンを押したときだけAIが動く形にし、それ以外はルールで作る文面に置き換えました。
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#開発の裏側#個人開発#プロダクト設計#先勝