建設業の見積書、有効期限は何日にすべきか——民法523条が課す「撤回できない」拘束
建設業の見積書の有効期限に、法律で決まった日数はありません。ただし期限を書くこと自体には法的な意味があり、その向きは業者にとって片側だけ有利ではありません。民法523条が「承諾の期間を定めてした申込みは、撤回することができない」と定めているからです。この記事では条文の実文と、私たちが概算見積エンジン「メヤス」を開発するなかで下した設計判断から、日数の決め方と期限切れの扱いを整理します。


「有効期限は法律で決まっていない」の、その先
見積書に有効期限を書く義務を定めた法律はありません。多くの解説記事はここで終わります。問題はその先で、書かない場合に何が起きるか、書いた場合に自社が何を引き受けるかは民法の「申込みと承諾」のルールが決めています。
前提を1つ。契約は申込みと承諾で成立し、書面は成立の要件ではありません(民法522条)。有効期限は「紙の賞味期限」ではなく、申込みがいつまで生きているかを区切るものです。
民法523条——期限を書くとは「その間は撤回しない」と約束すること

条文の実文はこうです(e-Gov 民法(新しいタブで開く)より引用)。
承諾の期間を定めてした申込みは、撤回することができない。ただし、申込者が撤回をする権利を留保したときは、この限りでない。 2 申込者が前項の申込みに対して同項の期間内に承諾の通知を受けなかったときは、その申込みは、その効力を失う。
2項は「期限が過ぎれば効力を失う」という業者に有利な側面です。しかし1項は逆向きで、期間内は撤回できない、つまり資材が値上がりしても自分から引っ込められません。「30日」と書くことは、30日ぶんの価格変動リスクを自社で持つという意味になります。
ただし1項にはただし書きがあります。撤回する権利を留保しておけば、この拘束は外れます。「資材価格の改定があった場合は再見積とさせていただきます」の一文は、法的にはこの留保にあたります。
期限を書かないほうが、リスクは読めなくなる
「書かなければ自由」ではありません。民法525条1項は、期間を定めない申込みについて、承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは撤回することができないと定めています。
問題は「相当な期間」に日数がない点です。記載なしは拘束を消すのではなく、拘束の終わりを曖昧にする選択になります。価格変動が大きい工種ほど、書かないほうがリスクは読めません。
期限切れの見積に発注が来たら
民法524条は「申込者は、遅延した承諾を新たな申込みとみなすことができる」と定めています。受けるか出し直すかを選べるのは業者側です。
| 見積書の書き方 | 根拠条文 | 期間中の撤回 | 期間経過後 |
|---|---|---|---|
| 有効期限を書く | 民法523条 | できない(留保があれば可) | 申込みは効力を失う |
| 有効期限を書かない | 民法525条 | 「相当な期間」までできない | 終わりが不明確なまま続く |
| 期限後に承諾が届いた | 民法524条 | — | 新たな申込みとみなすことができる |
なお、見積書が常に民法上の「申込み」にあたるとは限りません。渡し方によっては、契約を誘うだけの表示(申込みの誘引)と評価される場合もあります。自社の様式は弁護士など専門家への確認をおすすめします。
期限とは別に、建設業法(新しいタブで開く)20条4項は、注文者から請求があったときは材料費等を記載した見積書を契約成立までに交付しなければならないと定めています。期限を短くしても内訳の要求からは逃れられません(見積書の見方)。
何日にすべきか——「価格表の更新周期」から逆算する
一般的な相場から決めるのは順序が逆だと考えています。有効期限は、自社の価格表をどれくらいの頻度で書き換えるかで決まるからです。期限が更新周期より長いと、古くなった単価に自社が縛られた状態が生まれます。
- 自社の価格表(または仕入先の単価表)を、実際に何か月ごとに書き換えているか調べる
- その周期より短い日数を、有効期限の上限にする
- 変動が大きい工種は、さらに短くするか再見積の留保を1文添える
- 決めた日数と文言を様式に固定し、担当者ごとにばらつかせない
単価が実際に動いているかは、日本銀行が毎月公表している企業物価指数など(新しいタブで開く)で確認できます。周期を決める材料は、体感より公表統計のほうが安定します。
概算見積に有効期限を持たせなかった理由

メヤスは自社サイトに置く概算見積シミュレーターですが、この画面に有効期限は表示していません。理由は標準価格表を作った時点で分かりました。
用意した標準価格表は50行あり、そのうち49行が「下限・上限」の幅を持っています。幅の中央値は下限比で+60%(最小+22.2%・最大+200%)でした。
つまり概算の出力は1点の金額ではなく幅です。幅には「この金額で30日間お約束します」と固定できる対象がありません。平均値に潰す案もありましたが、それは成立しない金額を「30日有効」と見せることになります。
結果として、期限を出すのは正式見積の側だけになりました。自社サイトに概算見積を置きたい会社様は、メヤス(新しいタブで開く)で仕組みと導入方法をご覧いただけます。
よくある質問
見積書に有効期限を書かないと違法ですか
違法ではありません。記載を義務づけた法律はないためです。ただし民法525条の「相当な期間」が適用され、いつまで撤回できないのかが不明確になります。
有効期限が切れた見積書で契約してもいいですか
問題ありません。民法524条により、期限後に届いた承諾は新たな申込みとみなすことができます。金額や条件に変更がなければ、再発行せず契約に進んでも差し支えありません。
有効期限は何日にするのが一般的ですか
法律に定めがないため、「一般的な日数」を根拠に決めることはおすすめしません。自社の価格表の更新周期より短い日数にするのが実務上の目安です。期間中に資材が値上がりしても原則として撤回はできない(民法523条1項)ため、再見積の留保を1文入れておくとその拘束を外せます。
まとめ
- 見積書の有効期限に法律で決まった日数はありませんが、期限を書くと民法523条により期間内は撤回できず、過ぎれば効力を失います。再見積の留保を1文入れれば、期間内の拘束は外せます。
- 期限を書かなくても民法525条で「相当な期間」は撤回できず、拘束の終わりが曖昧になるだけです。期限後に届いた承諾は、民法524条により新たな申込みとみなすことができます。
- 日数は相場からではなく、自社の価格表の更新周期より短く決めます。メヤスの概算は幅で出るため有効期限を表示せず、期限を出すのは正式見積の側だけにしました。
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#メヤス#見積#AI法律