「No.1」「最強」を使う前に——景品表示法と個人開発の宣伝コピーの線引き
景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法・昭和37年法律第134号)とは、商品やサービスの宣伝で、実際より著しく良く見せる表示を禁じる法律です。不当表示は大きく3つ——品質を誤認させる「優良誤認」、取引条件を誤認させる「有利誤認」、内閣総理大臣が指定する表示(2023年10月1日からはステルスマーケティングを含む)。個人開発でも、事業として提供するサービスを宣伝する以上この枠の外にはいません。この記事では法律の要点を出典とともに整理し、AIにコピーを書かせる運用で実際に踏んだ落とし穴と、そこから作った公開前チェックを公開します。なお本記事は一般的な情報提供であり、個別の状況に対する法的助言ではありません。
不当表示の3つの型
景品表示法5条は、不当表示を次の3類型で定めています(出典: e-Gov法令検索・不当景品類及び不当表示防止法)。
- 優良誤認表示(5条1号): 商品・サービスの内容について、「実際のものよりも著しく優良であると示す」表示。性能・効果・品質の誇張がここに入ります
- 有利誤認表示(5条2号): 価格その他の取引条件について、実際より著しく有利だと誤認させる表示。二重価格や「今だけ」の乱用が典型です
- 指定告示(5条3号): 内閣総理大臣が個別に指定する表示。おとり広告や原産国の誤認表示などに加え、広告であることを隠した表示(ステマ)が2023年10月1日から対象になりました
3つに共通するキーワードは「著しく」です。言い回しの巧拙ではなく、その表示がなければ消費者の選択が変わっていたかが問われます。表示を作った側の意図や悪意は要件ではなく、うっかりでも不当表示は成立し得る——ここが実務上いちばん重要な点です。
「言ってはいけない」のではなく「根拠がないと言えない」
誤解しやすいのが、「No.1」や「業界最速」という表現そのものが禁止されている、という読み方です。禁止されているのは裏付けのない表示であって、表現の種類ではありません。
ここで効くのが不実証広告規制です。効果や性能を示す表示について、消費者庁は事業者に合理的な根拠資料の提出を求めることができ、提出できなければ不当表示とみなされます(景品表示法7条2項)。挙証の負担が事業者側にある設計です。
つまり実務の問いは「その一言を、いま第三者に説明できる資料はあるか」に尽きます。No.1を書くなら、何を母集団に・いつ・誰が調べたのかまで示せて初めて使える表現です。手元にあるのが自分の感覚だけなら、それは書けない一言です。
違反時の措置には、措置命令のほか売上額に応じた課徴金があります。2023年の改正法(2024年10月1日施行)では確約手続の導入や、優良誤認・有利誤認表示に対する直罰規定の新設が行われました。最新の運用は消費者庁の表示規制のページで確認するのが確実です。
個人開発でとくに危ないのは「他人に書かせた宣伝」
自分のLPは慎重に書いても、周辺で崩れます。個人開発で注意すべき経路は3つです。
- AIに生成させたコピー: 学習データに広告文が大量に含まれるため、頼んでもいない最上級表現が自然に混ざります
- アフィリエイトや紹介依頼: 第三者が書いた表示でも、内容を提供側が決められる立場にあれば、表示の主体は提供側と評価され得ます
- 自分のSNS投稿: 事業者本人の投稿は広告そのものです。「レビュー風」の書き方はステマ規制の観点で最も危うい形になります
共通するのは、書き手が誰かではなく、表示の内容を誰がコントロールできるかで責任が決まる点です。「外注先が勝手に書いた」は防御になりにくいと考えておくのが安全です。
AIにコピーを書かせて実際に起きたこと
私たちはブログ記事とSNS投稿の生成をAIに任せていますが、運用の初期に繰り返し起きたのが指示していない誇張の混入でした。プロダクトの説明を書かせると、「業界最高水準の」「完全自動で」「誰でも必ず」といった修飾が、与えていない事実として出力に紛れ込みます。もっともらしい文章ほど、読み返しても引っかかりません。
そこで対策を、プロンプトの言い回しではなく公開前のゲート側に置きました。ブログ運用規格には「誇張・根拠なき最上級表現を使わない」という条項が明文で入っており、これを満たさない原稿は公開キューに乗りません。生成物を信じてから直すのではなく、通す前に落とす設計です。
実際に使っている置換ルールは単純なものです。
- 「完全自動化」→ 自動化した工程と、手を入れている工程を両方書く(Claude Codeで開発を自動化した記事でも、人間が判断している箇所を本文で明示しています)
- 「無料で運用できる」→ どのサービスのどの枠を使い、何を超えると課金になるかまで書く(無料枠だけで本番運用する構成)
- 「安全です」「守られます」→ 具体的な措置の名前に置き換える(規約・プライバシーポリシーの記事と同じ方針です)
主観の形容詞を、検証できる名詞と数字に置き換える——やっていることはこれだけです。副次的な効果として、根拠を書ける記事しか出せなくなるので、結果的に中身が濃くなります。
公開前の5つのチェック
- 最上級・唯一性の語を全文検索する: 「最も」「No.1」「唯一」「業界初」。1件でもヒットしたら根拠資料の所在を書けるか確認します
- 効果・性能の断定を探す: 「必ず」「確実に」「〜が改善します」。個人差のあるものに断定を使っていないか
- 価格の条件を書く: 無料の範囲、課金が発生する条件、解約方法。有利誤認は価格まわりで起きます
- 広告だと分かるか: 事業者本人の投稿・依頼した紹介が、読者に判別できる形になっているか
- AI生成物は必ず人が読む: 事実を知っている人間が1回読む。ここを省くと1〜4は機能しません
よくある質問
Q. 無料アプリでも景品表示法の対象になりますか? 事業として供給しているサービスの表示であれば、対象になり得ると考えて設計するのが安全です。「無料だから広告規制は関係ない」という整理は成り立ちません。ただし個別の適用可否は事案によるため、判断に迷う場合は専門家に確認してください。
Q. 自分で計測した数字なら「No.1」と書いてよいですか? 書くなら、調査の主体・時期・対象範囲・比較方法まで表示に含める必要があります。合理的な根拠を示せない場合は不当表示とみなされ得ます(不実証広告規制)。自分の環境で1回測っただけの数値を市場全体の優位性として書くのは避けるべきです。
Q. AIが書いた文章の誇張も、開発者の責任になりますか? 表示を出したのは事業者なので、生成手段がAIであることは免責になりません。だからこそ、生成の指示ではなく公開前のチェックで止める仕組みが要ります。私たちが品質ゲート側に条項を置いているのはこの理由です。
#AI法律#個人開発#広告表現