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判例読了 約11

薬事法違憲判決をわかりやすく — 「安全のため」を最高裁が事実で検査した日

薬事法違憲判決は、法律の規定そのものを最高裁が憲法違反と断じた、戦後2例目の判決です。最高裁は昭和50年4月30日の大法廷判決で、薬局の開業に距離制限を課していた薬事法6条2項・4項を「憲法二二条一項に違反し、無効である」としました。「国民の健康を守るため」という立法の説明を、最高裁が事実のレベルまで下りて検査し、崩したことに、この判決の本当の重みがあります。薬局距離制限事件とも呼ばれます。

安全のためを最高裁が検査した日 — 薬局距離制限を違憲とした判決を解説

事件の基本情報

項目内容
裁判所最高裁判所大法廷
判断昭和50年(1975年)4月30日 判決・破棄自判(裁判官全員一致)
事件番号昭和43年(行ツ)第120号
事件名行政処分取消請求事件
判例集民集29巻4号572頁
争われた法令薬事法6条2項・4項(26条2項が準用)+広島県条例「薬局等の配置の基準を定める条例」

何が起きたのか

広島県内でスーパーマーケットなどを経営していた会社が、昭和38年6月25日、自社の店舗で医薬品を販売する許可を県知事に申請しました。申請が受理されたのは同年7月11日。ところがその翌日から、改正薬事法が施行されます。新しく加わった許可条件が、設置場所の「配置の適正」——いわゆる距離制限でした。

具体的な基準は県の条例に委ねられ、既存の薬局からおおむね100メートル離れていることが求められました(この数値は判例解説による事実で、判決文自体には条例の数値の認定はありません)。昭和39年1月27日、県知事は「配置の基準に適合しない」として不許可処分を出します。

会社はこの処分の取消しを求めて提訴しました。一審の広島地裁は会社側を勝たせますが、その理由は「申請時ではなく処分時の基準で判断したのは違法」という手続の理由で、憲法判断には立ち入りませんでした。二審の広島高裁では逆転。薬局等の店舗は「多分に公共性を有する施設」であり、偏在や乱立を防ぐ規制には理由があるとして、法令は合憲とされます。

そして舞台は最高裁大法廷へ。申請から、実に12年目の決着でした。

最高裁は何を言ったのか

職業は「食べていく手段」だけではない

判決はまず、憲法22条1項が保障する「職業」の意味から説き起こします。

職業は、人が自己の生計を維持するためにする継続的活動であるとともに、分業社会においては、これを通じて社会の存続と発展に寄与する社会的機能分担の活動たる性質を有し、各人が自己のもつ個性を全うすべき場として、個人の人格的価値とも不可分の関連を有するものである

生計の手段であり、社会の中での役割分担であり、そしてその人がその人らしくあるための場所でもある——だからこそ憲法は職業選択の自由を基本的人権として保障した、という筋道です。そのうえで、保障の範囲は職業を「選ぶ」自由にとどまらず、選んだ職業を「営む」自由(職業活動の自由)まで及ぶとしました。

ただし、職業の自由は規制されやすい

もっとも判決は、職業が本質的に社会的な活動であることから、職業の自由は「それ以外の憲法の保障する自由、殊にいわゆる精神的自由に比較して、公権力による規制の要請がつよく」働くとも述べています。規制の目的も強さも千差万別なので「一律に論ずることができず」、規制の目的・必要性・内容と、制限される自由の性質・程度とを比較考量して慎重に決めるほかない、というのが判決の立場です。

許可制は「強力な制限」だから、条件が重くなる

そこで判決は、許可制という規制の型に着目します。

一般に許可制は、単なる職業活動の内容及び態様に対する規制を超えて、狭義における職業の選択の自由そのものに制約を課するもので、職業の自由に対する強力な制限である

営業時間や売り方を縛る「やり方」への規制とは次元が違い、そもそも仕事を始めさせない——入口を閉ざす規制だからです。したがって合憲というためには、①原則として、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であること、そして②その規制が経済政策のためではなく、自由な職業活動がもたらす弊害を防止する消極的・警察的な措置である場合には、より緩やかな制限(職業活動の内容・態様への規制)では目的を十分に達成できないと認められることが必要だとしました。

判決は本件の距離制限を、「主として国民の生命及び健康に対する危険の防止という消極的、警察的目的のための規制措置」と認定しています。つまり、②の重い条件がかかる側だ、ということです。

「観念上の想定にすぎない」——立法事実の審査

ここからがこの判決の白眉です。県側の説明はこうでした。薬局が集まりすぎる→競争が激しくなる→経営が苦しくなる→設備や薬の管理がおろそかになる→質の悪い薬が出回る。だから距離を空けて競争そのものを防ぐ、と。

最高裁は、この因果の鎖を事実のレベルで一つずつ点検しました

競争の激化―経営の不安定―法規違反という因果関係に立つ不良医薬品の供給の危険が、薬局等の段階において、相当程度の規模で発生する可能性があるとすることは、単なる観念上の想定にすぎず、確実な根拠に基づく合理的な判断とは認めがたい

さらに追い打ちがあります。薬事法にはもともと、品質の規制、罰則、許可の取消し、立入検査といった行為そのものを縛る仕組みが揃っており、それが「励行、遵守されるかぎり、不良医薬品の供給の危険の防止という警察上の目的を十分に達成することができるはずである」。監視の人手が足りないというなら、競争の激しい一部地域に絞って重点的に監視を強化する方途もありえないではない、とも述べています。より緩やかな手段で足りる、ということです。

もう一つの目的とされた「薬局のない地域の解消」についても、距離制限でその効果をどこまで期待できるかは大いに疑問であり、「目的と手段の均衡を著しく失する」と退けられました。

結論はこうです。

薬局の開設等の許可基準の一つとして地域的制限を定めた薬事法六条二項、四項(これらを準用する同法二六条二項)は、不良医薬品の供給の防止等の目的のために必要かつ合理的な規制を定めたものということができないから、憲法二二条一項に違反し、無効である

法律の規定そのものを無効とする「法令違憲」。尊属殺重罰規定違憲判決(最大判昭和48年4月4日)に次ぐ、歴史上2例目でした。判決の約2か月半後、薬事法6条2項〜4項は法改正で削除されています。

同じ距離制限でも、合憲だった判例がある

この判決の3年前、最高裁は別の距離制限を合憲としていました。小売市場事件(最大判昭和47年11月22日・刑集26巻9号586頁)です。そこでの基準は、驚くほど緩やかなものでした。

立法府がその裁量権を逸脱し、当該法的規制措置が著しく不合理であることの明白である場合に限つて、これを違憲として、その効力を否定することができる

誰が見ても明らかにおかしい場合だけ違憲にする——「明白の原則」と呼ばれる考え方です。小売市場の距離制限は、経営基盤の弱い小売商を共倒れから守るための中小企業保護政策の一環であり、目的に「一応の合理性」があり、手段も「著しく不合理であることが明白であるとは認められない」として合憲とされました。

薬事法判決自身、この小売市場判決を引用したうえで「右判決において示された法理は、必ずしも本件の場合に適切ではない」と区別しています。生命・健康を守る消極目的の規制と、経済政策のための積極目的の規制とでは、裁判所の審査の厳しさが違う——この整理は後に規制目的二分論と呼ばれるようになりました。

ただし注意が必要です。「二分論」は学説が判例を整理して付けたラベルであって、判決自身がこの言葉を使ったわけではありません。しかも、酒類販売の免許制を「著しく不合理でない限り」合憲とした判決(最三小判平成4年12月15日)のように、二分にきれいに乗らない後続判例もあります。二分論が判例のルールと言い切れるかは、いまも論争のある場所です。

なお、距離の規制そのものが常に許されないわけではありません。公衆浴場の距離制限は昭和30年に最高裁が合憲とし、平成の初めにも合憲判断が続きました。近年も、風俗案内所を学校などの近くで禁じる県の条例が合憲とされています(最一小判平成28年12月15日)。目的と、事実と、手段の組み合わせ次第で答えは変わる——一件ずつ検査するのが憲法の作法です。

答案ではどう書くか

憲法の答案には決まった骨格があります。①問題となる権利の特定 ②その権利は憲法で保障されるか ③規制は制約しているか ④その制約は正当化されるか(審査基準の定立) ⑤目的と手段のあてはめ、の五段です。

①特定 — 本件距離制限は、会社の「薬局等を開設する自由」を侵害し、憲法22条1項に違反しないか。権利は「営業の自由」と抽象的に言うのではなく、事案に即して特定します。

②保障 — 条文の文言は「職業選択の自由」。その趣旨は、職業が生計の手段であると同時に社会の役割分担であり、人格的価値と不可分に結びつく点にあります。この趣旨からすれば、どこで開業するかの選択も保障に含まれます。

③制約 — 距離制限は「場所を選べなくするだけ」にも見えます。しかし開業場所を奪われることは開業そのものの断念につながりえ、判決も「実質的には職業選択の自由に対する大きな制約的効果を有する」と評価しました。制約の形式ではなく実質を見るのが、評価の見せ所です。

④審査基準 — 基準は大きく三つに整理されます。厳格審査基準(目的が必要不可欠・手段が必要最小限度)、中間審査基準=厳格な合理性の基準(目的が重要・手段に実質的関連性)、合理性の基準(目的が正当・手段に合理的関連性、最も緩い形が明白の原則)。どれを選ぶかは機械的には決まりません。権利の性質と規制の態様から、理由を付けて選ぶ必要があります。本件なら、経済的自由だが人格的価値とも結びつく重要な権利であること、事前の許可制で職業選択そのものを閉ざす強力な態様であること、目的が生命・健康の保護という消極目的であること——これらを積んで、厳格な合理性の基準を導きます。

⑤あてはめ — 目的の審査と手段の審査を必ず分けて書きます。目的(不良医薬品から国民の生命・健康を守る)は重要な公共の利益で正当。手段は、適合性の点で「競争激化から不良医薬品へ」の因果に確実な根拠がなく、必要性の点でも行政監督の強化・地域を絞った重点監視という、より緩やかな代替手段がある。よって違憲、と結びます。

一つだけ、書き方の注意を。判決文そのものは「厳格審査」「中間審査」という言葉を使わず、比較考量を丁寧に積み上げる書き方をしています。判例の書き方と、答案の書き方は少し違う。答案では基準を先に立てて、規範とあてはめの形をはっきり見せる——この使い分けを意識してください。

よくある質問

Q. 薬事法違憲判決は、何が「違憲」とされたのですか

薬局などの開業許可の条件として距離制限(設置場所の配置の適正)を定めた、薬事法6条2項・4項(および同法26条2項が準用する部分)です。処分だけでなく法律の規定そのものが憲法22条1項に違反し無効とされました。これを法令違憲といいます。

Q. なぜ「史上2例目」と言われるのですか

最高裁が法律の規定そのものを憲法違反と判断した例が、それまで尊属殺重罰規定違憲判決(最大判昭和48年4月4日)しかなかったためです。処分や適用が違憲とされた例はありますが、法令違憲はきわめて限られています。

Q. 小売市場事件と何が違ったのですか

規制の目的です。小売市場の距離制限は経営基盤の弱い小売商を守る積極目的(経済政策)の規制と位置づけられ、「著しく不合理であることが明白な場合に限り違憲」という緩やかな審査で合憲とされました。薬事法の距離制限は生命・健康を守る消極目的(警察目的)の規制と認定され、より厳しい審査がかけられた結果、違憲となりました。

Q. 「規制目的二分論」は判例のルールなのですか

学説が判例を整理して付けた呼び方で、判決自身がこの言葉を使っているわけではありません。酒類販売の免許制など、二分にきれいに乗らない後続判例もあり、二分論が判例法理といえるかは学説上争いがあります。答案でも「学説の整理」として扱うのが安全です。

Q. いまも距離制限は残っているのですか

薬局の距離制限はこの判決を受けて廃止されました。ただし距離による規制自体がなくなったわけではなく、公衆浴場の距離制限は合憲判断が続いており、風俗案内所を学校などの近くで禁じる条例も近年合憲とされています。

動画で見る

この事件は「レイの法廷」第14話として、事件のドラマから判決文の読み解き、答案の書き方までを通しで解説しています。

  • 講義版(長編): https://youtu.be/Juv5_Qb2Tiw
  • ショート版: https://youtube.com/shorts/_1T8Ty1Nc5w
  • シリーズ一覧: レイの法廷

憲法が私人間にどう及ぶかを扱った回として、三菱樹脂事件の記事もあわせてどうぞ。


出典: 最高裁判所大法廷判決 昭和50年4月30日(民集29巻4号572頁)/ 最高裁判所大法廷判決 昭和47年11月22日(刑集26巻9号586頁)/ 憲法22条1項(e-Gov法令検索)

この判例を動画で見る

判例アニメ「レイの法廷」第14話薬事法違憲判決」。 事件の経過を物語で追い、答案の形まで通して話しています。

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#レイの法廷#判例#憲法#職業選択の自由