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判例読了 約6

構成要件に該当したら、原則として違法で有責 ― 違法性・責任を長々と論じない作法

刑法の答案で、構成要件該当性を認定したあと、違法性と責任の章に何を書けばいいか迷ったことはありませんか。

該当すれば原則、違法で有責 — 違法性・責任を厚く書くべき場面を判例で解説

結論から言うと、構成要件に該当する行為は、原則としてそのまま違法であり、そのまま有責です。だから答案でも、事実関係に違法性阻却事由・責任阻却事由をうかがわせる事情が出てこない限り、違法性・責任の章を長々と論じてはいけません。

結論 ― 阻却事由が出てこない限り、違法性・責任は一文でよい

刑法の犯罪論は、構成要件該当性→違法性→責任の三段階で組み立てます。しかし三段階すべてを同じ密度で論じるわけではありません。構成要件に該当する行為は、特別な事情がない限り、そのまま違法であり、そのまま有責である、というのが体系の前提になっています。答案では、事実関係に正当防衛(刑法36条)や心神喪失(同39条)のような阻却事由をうかがわせる事情が出てこない限り、「違法性阻却事由は特に見当たらない」「責任阻却事由もない」という一文で足ります。逆に、事実の中にそうした事情があるときだけ、そこを厚く書きます。

なぜ「原則として違法・有責」なのか

構成要件は、条文が定める犯罪類型に当てはまるかどうかを判定する枠組みであると同時に、違法で有責な行為の型を切り出したものでもあります。殺人罪や窃盗罪の条文に当てはまる行為は、通常は違法かつ有責であることを織り込んで構成要件が定められています。だから、行為が構成要件に該当したという時点で、その行為はいったん違法であり有責であると推定されます。

この推定をひっくり返すのが、違法性阻却事由と責任阻却事由です。刑法35条は「法令又は正当な業務による行為は、罰しない」と定め、36条1項は「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない」(正当防衛)、37条1項は「自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は……罰しない」(緊急避難)と定めます。責任の側では、39条1項が「心神喪失者の行為は、罰しない」、41条が「十四歳に満たない者の行為は、罰しない」と定めています。これらの事情が事実関係に現れて初めて、違法性・責任の章で立ち止まって検討する必要が生じます。何も現れなければ、推定は覆らないまま結論に進んでよいのです。

書きすぎると何が起こるか

反対の失敗もあります。事実に阻却事由をうかがわせる事情が何もないのに、違法性の章で「一般的に違法性とは何か」という定義論を書き連ねたり、責任の章で「本件では特に責任を阻却する事情はない」を何行にもわたって説明したりする答案です。採点者から見ると、これは論点がどこにあるかを答案自身が示せていないというシグナルになります。構成要件該当性の当てはめに紙幅を割き、違法性・責任は事情が現れたところだけ厚く書くというメリハリが、犯罪論の三段階を理解している証拠として読まれます。

このメリハリが実際に必要になった例が、最高裁昭和62年3月26日第一小法廷決定(勘違い騎士道事件、刑集41巻2号182頁)です。空手三段の被告人が、酔って尻もちをついた女性を助けようとして、そばにいた男性を「女性に暴行を加えている」と誤解し、相手の防御の構えを殴りかかる動作と誤信して回し蹴りを当て、死亡させた事案です。この事案では、被告人が「相手からの侵害があると信じていた」という事情が出てくるため、違法性の章で正当防衛(刑法36条1項)の成否を、責任の章で誤想防衛の成否を、それぞれ立ち止まって検討しなければなりません。最高裁は「本件回し蹴り行為は、被告人が誤信したBによる急迫不正の侵害に対する防衛手段として相当性を逸脱していることが明らかである」としたうえで、傷害致死罪の成立を認め、刑法36条2項により刑を減軽した原判断を正当としました。

もしこの事案で「侵害があると誤信していた」という事実が出てこなければ、違法性・責任の章は一文で終わっていたはずです。事実がそこにあったからこそ、厚く書く必要が生じました。分量を決めているのは事案の側であり、答案の書き方の好みではありません。

答案ではどう書くか

違法性・責任の書き方
  1. 構成要件該当性を先に認定する ― 行為・結果・因果関係・故意などの要素を、事実に当てはめて認める
  2. 違法性阻却事由をうかがわせる事情がないか、事実を見渡す ― 正当防衛(36条)・緊急避難(37条)・正当行為(35条)のような主張が事実に現れているかを確認する
  3. 事情が無ければ「違法性阻却事由は認められない」と一文で置く ― 現れていれば、その阻却事由の要件に沿って厚く検討する
  4. 責任阻却事由も同じ手順で扱う ― 心神喪失(39条)・責任年齢(41条)・誤想防衛のような事情の有無を確認し、無ければ一文、あれば厚く書く

この配分自体が、採点者に「どこが論点か」を答案の構成で示すことになります。

受験生向けの一言

構成要件該当性を認定したら、違法性・責任の章に移る前に、事実の中に阻却事由をうかがわせる事情があるかどうかをまず確認しましょう。なければ「阻却事由は認められない」と一文で流し、構成要件該当性の当てはめに紙幅を使う。あれば、その章だけを厚く書く。この配分の判断自体が、犯罪論の理解を示す答案の技術です。

動画で見る

勘違い騎士道事件を題材にした「レイの法廷」第2話では、正当防衛・過剰防衛・誤想防衛・誤想過剰防衛の分かれ目を扱っています。

答案の書き出しの型を扱った回として、刑法の答案は「誰の・どの行為に・何罪か」から始まる、の記事もあわせてどうぞ。勘違い騎士道事件そのものの解説はこちらの記事にまとめています。

よくある質問

Q. 違法性阻却事由・責任阻却事由は、答案で必ず一つずつ検討しないといけませんか?

事実に何もうかがわせる事情がなければ、正当防衛・緊急避難・心神喪失などをひとつずつ列挙して否定する必要はありません。「違法性阻却事由・責任阻却事由は特に見当たらない」とまとめて一文で足ります。

Q. 「原則として違法・有責」というのは、どの条文に書いてあるのですか?

条文に直接その言葉があるわけではありません。刑法35条・36条・37条(違法性阻却事由)、39条・41条(責任阻却事由)が、構成要件に該当する行為の違法性・責任を例外的に否定する規定として置かれていること自体が、構成要件該当性がいったん違法性・責任を推定させる仕組みになっていることを示しています。

Q. どの事情が出てきたら、違法性・責任を厚く書くべきですか?

事実関係の中に、相手からの侵害・危難・意識障害・年齢など、刑法35条から41条までが定める阻却事由の要件に触れる事情が現れたときです。勘違い騎士道事件のように「侵害があると誤信していた」という事情が出てくれば、違法性・責任のどちらも立ち止まって検討する必要があります。

Q. 阻却事由の検討を書き忘れると、どのくらい減点されますか?

事実に阻却事由をうかがわせる事情があるのに検討していない場合は、論点落ちとして相応の減点になり得ます。一方、事情が何もないのに検討を省いたことは減点の対象になりません。減点を避けるべきは「事情があるのに気づかない」ことであり、「事情がないのに書かない」ことではありません。


本記事は、公開されている決定文にもとづく一般的な解説であり、法的助言ではありません。個別の事案については弁護士等の専門家にご相談ください。

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#レイの法廷#コラム#刑法#違法性阻却事由