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判例読了 約6

刑法の答案は「誰の・どの行為に・何罪か」から始まる ― 論点から書き始めてはいけない理由

刑法の答案、何から書き始めればいいのか迷ったことはありませんか。

論点から書き始めるな — 誰の・どの行為に・何罪かを判例で解説

結論から言うと、いきなり論点(因果関係の基準、故意の有無など)を論じてはいけません。答案の最初の一文で書くべきは、「誰の、どの行為について、何罪の成否を検討するのか」です。論点は、その後に持ち出す道具にすぎません。

結論 ― 論点の前に「誰の・どの行為に・何罪か」を書く

刑法の犯罪論は、行為者ひとりのひとつの行為ごとに、構成要件該当性→違法性→有責性の順で組み立てます。逆に言えば、「誰の、どの行為を検討しているか」が定まらないうちは、構成要件のどの要素が問題になるかも定まりません。論点(因果関係、故意の錯誤、共犯関係など)は、特定の行為者の特定の行為を、特定の構成要件に当てはめる過程で初めて意味を持ちます。だから、論点そのものから書き出すと、採点者には「これは誰の、どの行為についての話か」が伝わらないまま議論が進んでしまいます。

なぜこの順番が必要なのか

理由は単純で、刑法は行為者の行為ごとに罪責を検討する法律だからです。刑法各則の条文(たとえば傷害致死罪を定める刑法205条)は、「人の身体を傷害し、よって死亡させたは」という形で、行為の主体と行為そのものを名指しします。行為者が複数いたり、ひとりの行為者に複数の行為があったりすると、条文をどの行為に当てはめるのかを先に決めなければ、構成要件該当性の検討自体が始められません。

論点は、この当てはめの途中で生じる「解釈が割れる部分」の名前にすぎません。的を絞らずに論点の一般論から書き始めると、答案のどの部分がどの行為への当てはめなのかが、書いている本人にも採点者にも見えなくなります。

書かないと何が起こるか ― 大阪南港事件を例に

この順番の重要性がよく分かる例が、最高裁平成2年11月20日決定(第三小法廷・刑集44巻8号837頁)です。学説上「大阪南港事件」と呼ばれていますが、この地名は決定文には出てきません。あくまで講学上の通称です。

事実関係はこうです。被告人は洗面器の底や皮バンドで被害者の頭部を殴打し(以下「第1暴行」とします)、被害者は意識を失いました。被告人はその後、被害者を車で運んで放置しますが、その間に何者か特定されない第三者が角材で被害者の頭部をさらに殴打しています(以下「第2暴行」とします)。被害者は翌日死亡しました。

ここで問題になるのは、被告人が第1暴行について傷害致死罪(刑法205条)の責任を負うか、という一点です。ところが、死亡までの間に第2暴行という別の行為者による別の行為が挟まっています。因果関係の議論は、この「第1暴行と死亡との間に法的な因果関係が認められるか」という問いに答えるためのものです。

最高裁の決定文はこう述べています。

犯人の暴行により被害者の死因となった傷害が形成された場合には、仮にその後第三者により加えられた暴行によって死期が早められたとしても、犯人の暴行と被害者の死亡との間の因果関係を肯定することができ、本件において傷害致死罪の成立を認めた原判断は、正当である

つまり最高裁は、被告人の第1暴行について、第三者の第2暴行が介在してもなお、被告人の第1暴行と死亡との因果関係は否定されない、と判断しました。この一文が答えているのは、あくまで「被告人の、第1暴行についての、傷害致死罪の成否」という一点です。

もし答案がいきなり「因果関係の判断基準は……」と書き始めていたら、採点者には、それが被告人の第1暴行についての論述なのか、正体不明の第三者の第2暴行についての論述なのかが分かりません。行為者と行為を2種類抱えた事案では、この書き出しの欠落がそのまま答案の意味不明化に直結します。逆に言えば、先に「被告人の第1暴行について、傷害致死罪の成否を検討する」と一文で置いてしまえば、続く因果関係の議論は迷いなく読めるようになります。

答案ではどう書くか

書き出しの型
  1. 誰の行為か特定する ― 行為者が複数いる事案では、まず名前(被告人・共犯者・第三者など)を挙げる
  2. どの行為かを一文で切り出す ― 一人に複数の行為があるときは「第1暴行」「第2暴行」のように呼び名をつけて区別する
  3. 何罪の何条の構成要件かを仮に置く ― 「傷害致死罪(刑法205条)の成否を検討する」のように、条文名まで書く
  4. そのうえで論点を書く ― 因果関係や故意の有無は、この枠の中でだけ意味を持つ

この型は長い前置きではありません。多くの場合、答案の最初の1〜2行で足ります。むしろ、この1〜2行を省くと、後段の論点の議論がどれだけ正確でも、採点者にはどの行為への当てはめか伝わらないという損をします。

受験生向けの一言

答案の書き出しで「誰の、どの行為について、何罪の成否を検討するか」を一文で明示すると、採点者は以降の論述をどの行為への当てはめとして読めばよいかが分かります。逆にこれを書かずに論点の一般論から入ると、行為者や行為が複数ある事案ほど、途中で「これは誰の、どの行為の話か」を採点者に迷わせてしまいます。答案の第一文は、論点の説明ではなく、検討対象の宣言に使いましょう。

動画で見る

大阪南港事件を題材にした回は現在制作中で、まだ公開していません。公開済みの回はレイの法廷から見られます。同じく答案の型を扱った回として、勘違い騎士道事件の記事もあわせてどうぞ。

よくある質問

Q. 論点の内容が正しければ、書き出しを省いても減点されませんか?

書き出しがなくても、事案がシンプルで行為者・行為がひとつしかなければ大きな減点にはなりにくいです。ただし行為者や行為が複数ある事案では、どの行為への当てはめかが読み手に伝わらず、論述の正確さが評価されにくくなります。

Q. 行為者がひとりしかいない事案でも、この書き出しは必要ですか?

行為がひとつしかない単純な事案では、書かなくても実害は小さいです。ただし複数の行為や複数の犯罪(観念的競合・併合罪など)を検討する答案では、行為ごとに区切って書く習慣をつけておくと、行為が増えたときに崩れません。

Q. 「誰の・どの行為に・何罪か」は答案のどこに書くのですか?

多くの場合、各犯罪の検討に入る冒頭、つまり論点を書き始める直前の1〜2行です。長い前置きにする必要はなく、「被告人の第1暴行について、傷害致死罪の成否を検討する」のように一文で足ります。

Q. 大阪南港事件は、結局どういう結論になったのですか?

最高裁は、被告人の第1暴行と被害者の死亡との間の因果関係を認め、傷害致死罪の成立を認めた原判断を正当としました。第三者による第2暴行が死期を早めた可能性があっても、その一事だけでは因果関係は否定されない、という判断です。


本記事は、公開されている決定文にもとづく一般的な解説であり、法的助言ではありません。個別の事案については弁護士等の専門家にご相談ください。

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#レイの法廷#コラム#刑法#答案作成