リフォームの追加工事トラブルを防ぐ——契約時に決めておくこと
リフォームの追加工事トラブルは、追加が出てから交渉するのではなく、契約の時点で「追加が出たときの決め方」を書いておくことで大きく減らせます。建設業法19条1項6号は、設計変更があった場合の請負代金の額の変更と、その算定方法を、請負契約書に記載すべき事項として挙げています(出典: e-Gov 建設業法(新しいタブで開く))。私たちはリフォーム会社向けの概算見積シミュレーターを開発していますが、自社の標準価格表50行を数え直すと、追加工事になりやすい「オプション」21行は上限が下限の2.00倍(中央値)で、本体工事28行の1.43倍よりはっきり幅が広いことが分かりました。この記事では、その幅の正体と、契約・見積の側でどう手当てするかを事業者目線で整理します。

なぜ追加工事は「着工後」に揉めるのか
リフォームには、見積の時点でどうしても見えない部分があります。壁の中の下地(石膏ボードの裏の骨組み)、床下、浴室の土台などは、解体して初めて状態が分かるためです。
現地調査を丁寧にすれば追加は減りますが、ゼロにはできません。揉める原因は金額の大きさそのものより、「聞いていない」という手続きの問題であることが多いです。だとすれば、防ぎ方も手続きの側にあります。
追加になりやすい項目は、価格表の段階ですでに幅が2倍広い
私たちが概算エンジン用に作った標準価格表(50行・2026年8月時点のサンプル)を、上限÷下限の比率で集計しました。結果は次のとおりです。
| 区分 | 行数 | 上限÷下限の中央値 | 最大 |
|---|---|---|---|
| 本体工事(キッチン・浴室・外壁塗装など) | 28行 | 1.43倍 | 1.8倍未満 |
| オプション(解体・処分・下地補修など) | 21行 | 2.00倍 | 3.00倍 |
比率が最大の3.00倍だったのは4行だけで、そのうち3行が「開けてみないと分からない」項目でした。具体的には、浴室の土台・下地補修(5〜15万円)、クロスの下地補修(1〜3万円)、床の下地の補修・調整(2〜6万円)です。
価格表の該当行には、私たち自身が次の但し書きを入れていました。
解体後の土台腐食等の補修(状態により変動)
つまり、追加工事の芽は契約より前、価格表を作る段階ですでに「幅」として現れています。この幅を平均値に潰して1つの数字にすると、そこで情報が消えます。なお上の数値は自社サンプルの集計であり、地域・仕様・築年数で変わります。相場の断定ではありません。
追加工事の「決め方」は、契約時に書いておく法定の記載事項です
建設業法19条1項は、「建設工事の請負契約の当事者は」契約の締結に際して16項目を書面に記載し、署名または記名押印をして相互に交付しなければならない、と定めています。その6号がこれです。
当事者の一方から設計変更又は工事着手の延期若しくは工事の全部若しくは一部の中止の申出があつた場合における工期の変更、請負代金の額の変更又は損害の負担及びそれらの額の算定方法に関する定め
読みどころは末尾の「算定方法」です。追加が出たときの金額を先に決めろとは書かれていません。決め方を先に書け、という構造になっています。
さらに同19条2項は、契約内容のうち1項の16項目にあたるものを変更するときも、変更の内容を書面にして相互に交付しなければならないとしています。3項では、相手方の承諾を得れば電子的な方法でもよいとされています。
「追加は口頭で合意して進める」という進め方は、少なくとも条文が想定している姿ではありません。書面の相互交付は、施主を守ると同時に、業者が後から代金を説明できる根拠にもなります。
「契約前に通知する」制度はあるが、リフォームの典型例は対象外に読めます
近年の改正で、建設業法には20条の2という条文が入りました。工期や請負代金の額に影響を及ぼす事象が発生するおそれがあるときは、請負契約を締結するまでに相手方へ通知する、という枠組みです。
ところが、その「事象」は建設業法施行規則(新しいタブで開く)13条の16で限定的に列挙されています。
- 注文者から業者への通知(1項): 地盤の沈下、地下埋設物による土壌の汚染その他の地中の状態に起因する事象/騒音・振動その他の周辺環境への配慮が必要な事象
- 業者から注文者への通知(2項): 天災その他不可抗力により生じる主要な資機材の供給不足・遅延・価格高騰/特定の工種における労務の供給不足・価格高騰
「解体したら浴室の土台が腐っていた」は、地中の状態でもなければ天災でもありません。条文の列挙を読むかぎり、リフォームで最も多いタイプの追加工事は、この事前通知義務にはそのままは乗らないと読めます(個別のあてはめは所轄の行政庁や専門家にご確認ください)。
ここが実務上の分かれ目です。事前通知の制度に頼れない以上、事業者ができる手当ては19条1項6号の算定方法を契約書に書くことと、見積の段階で幅を見せておくことの2つに絞られます。「現地調査を丁寧に」で終わる一般論との違いはここにあります。
概算見積の画面で追加工事をどう扱ったか(開発の一次体験)
私たちがシミュレーターを設計したときに、実際に手が止まった論点を3つ挙げます。
1つ目は、オプション行を本体工事と分けて別枠で表示したことです。合算して1つの総額にすると、幅の広い項目が総額に溶けてしまい、あとから「どこがなぜ増えたのか」を説明できなくなります。
2つ目は諸経費でした。価格表50行のうち「現場管理費」の行だけは下限・上限が空欄で、単位が%(工事小計の10%)になっています。工事が増えれば管理費も連動して増えるという構造は、追加が出てから説明するより先に画面で見せたほうが誠実だと判断しました。
3つ目は表示金額の位置づけです。画面に出る数字は概算であり、正式な見積書や契約金額ではありません。幅を平均値に潰して1点の金額として見せると、実際より安く見える有利誤認につながるおそれがあるため、幅は幅のまま残しています。概算と正式見積の違いは概算見積と正式見積の違いに、期限の扱いは建設業の見積の有効期限にまとめています。
追加工事トラブルを防ぐ手順
- 見積段階で、幅の広い項目(解体後に判明する下地・土台の補修など)を別枠で見せる
- 契約書に、設計変更が生じた場合の請負代金の変更と算定方法を書く(建設業法19条1項6号)
- 追加が出たら、着工後であっても変更の内容を書面にして相互に交付する(同19条2項。承諾があれば電子でも可=3項)
- 金額だけでなく、工期の変更も同じタイミングで書面にする
- 説明した内容と現場写真を日付つきで残し、次回の価格表にその項目を反映する
追加工事は「起きないようにするもの」ではなく、「起きたときの決め方が先に決まっているもの」にできます。自社サイトで概算見積を先に提示し、幅のある項目を最初から見せておきたい会社様は、メヤス(新しいタブで開く)をご覧ください。
よくある質問
Q. 追加工事の金額に、あらかじめ上限を決めておくことはできますか。 上限や1件あたりの報告基準を契約で定めること自体は可能です。ただし建設業法19条1項6号が求めているのは金額そのものではなく算定方法の定めなので、上限だけを書いて算定方法を書かない形にならないよう注意してください。
Q. 口頭で合意した追加工事は、請求できないのでしょうか。 請求できるかどうかは個別の事情によるため、ここで断定はできません。ただし建設業法19条2項が変更内容の書面での相互交付を求めていることは事実で、書面がなければ合意の内容と時期を証明することが難しくなります。紛争になった場合の相談先としては、住まいるダイヤル(住宅リフォーム・紛争処理支援センター)(新しいタブで開く)があります。
Q. 現地調査を丁寧にすれば、追加工事はゼロにできますか。 減らすことはできますが、ゼロにはできません。壁の中や床下の状態は解体しなければ確認できず、私たちの価格表でも該当する補修項目は上限が下限の3倍の幅を持っています。ゼロを目標にするより、幅を最初から見せて説明可能にするほうが現実的です。
Q. 施主から「最初の見積と違う」と言われたときは、どう対応すべきですか。 まず、最初に渡した書面が概算だったのか正式な見積書だったのかを確認します。そのうえで、変更の内容と金額、工期への影響を書面にして相互に交付し、記録に残します。書面という共通の土台に戻すことが、結果的に早い解決につながります。
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