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建築・リフォーム読了 約12

値引きしないリフォーム会社のつくり方——価格表に「削れる行」が無いという設計

値引きしないリフォーム会社とは、値引く気がない会社ではなく、価格表に「削れる行」を置いていない会社のことです。私たちが概算見積エンジン用に設計した標準価格表50行を数えたところ、工事の中身を1つも変えずに削れる行は出張諸経費の1行(全体の2%)しかありませんでした。逆に、必ず発生するのにオプション側に置かれている解体・処分費は本体の7.0〜8.4%あり、世間でいう「値引き幅」とほぼ同じ大きさでした。

価格表50行で削れるのは1行 — 処分費は本体の7〜8%という実データ

つまり値引き交渉は、営業トークではなく価格表の並びが呼び込んでいます。この記事では、自社の50行の実データと景品表示法の価格表示ルールから、「値引きしない」を無理なく通すための価格提示の設計をまとめます。

そもそも「値引き」の原資は、価格表のどこにあるのか

最初に、自分の価格表を開いて数えてほしいことがあります。工事の中身を1つも変えずに金額だけ下げられる行が、いくつあるかです。

私たちの標準価格表は50行あります。内訳は本体27行(9工事項目 × 標準・中級・高級の3グレード)、オプション21行、諸経費2行です。行の切り方の考え方はリフォームの単価表の作り方に書きました。

このうち諸経費は2行だけです。

金額単位性質
現場管理費工事小計の10%%工事小計に連動する従属行
出張諸経費1.5〜2.5万円独立して金額を持つ唯一の行

現場管理費は率の行なので、工事を減らせば自動で減りますが、工事を減らさずにここだけ削ることはできません(削れば管理業務そのものを値引いたことになります)。

残るのは出張諸経費の1行だけです。上限でも2.5万円。水回り5工事をすべて標準グレードで行うと本体は171〜249万円になるので、削れる行の上限は総額のおよそ1.5%です。

これは私たちのサンプル価格表の話ですが、構造は多くの会社で同じはずです。値引きに応じるかどうかは気持ちの問題ではなく、原資がどこから出るかという算数の問題です。

値引き交渉の入口は、必ず要る費用がオプション行にあること

もう1つ、数えて驚いた事実があります。必ず発生するのに「オプション」に置かれている行です。

私たちの表では、既存設備の解体・処分費を工事ごとにオプション側に置いていました。しかし交換工事である以上、既存のものは必ず外して捨てます。つまり「選べないオプション」です。

工事本体(標準グレード)解体・処分の行本体に対する比率
キッチン交換60〜85万円4〜7万円6.7〜8.2%
浴室(ユニットバス)68〜95万円6〜10万円8.8〜10.5%
トイレ交換15〜24万円0.5〜1万円3.3〜4.2%
洗面化粧台12〜20万円0.5〜1万円4.2〜5.0%
給湯器交換16〜25万円1〜2万円6.3〜8.0%
5工事の合計171〜249万円12〜21万円7.0〜8.4%

ここが重要です。「本体だけを見せた金額」と「実際に払う金額」の差が、そのまま7〜8%ある。世間で語られる値引き幅とほぼ同じ大きさです。

だから何が起きるか。他社が本体だけを大きく出し、処分費を後から足す見せ方をしていると、自社が最初から全部込みで出した金額は「高い会社」に見えます。そして施主は、その差を埋めるために値引きを求めます。値引き交渉の多くは、金額の差ではなく含まれる範囲の差から生まれています

外装工事だとこの差はさらに大きくなります。30坪の外壁塗装(標準・シリコン塗料・足場代込)は本体72〜93万円ですが、オプションの「コーキング打ち替え」は1行で15〜25万円です。本体を93万円と置けば16%、72万円と置けば35%。1行で総額の2〜3割が動きます

見積書のどこに何が書かれているかの読み方はリフォームの見積書の見方にまとめています。自社の書式を点検するときにも使えます。

「今なら◯万円引き」を書きにくい、法律上の理由

値引きをしない方針は、実は表示の面でも安全側に働きます。ここは一般記事があまり触れない論点なので、条文と公式ガイドラインで確認します。

まず景品表示法5条2号は、有利誤認表示をこう定めています。

商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの

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景品表示法5条2号(e-Gov)(新しいタブで開く)

「通常価格◯◯万円→今なら△△万円」のような見せ方は、二重価格表示と呼ばれます。消費者庁の不当な価格表示についての景品表示法上の考え方(新しいタブで開く)(価格表示ガイドライン・PDF)は、比較対照価格に使う「過去の販売価格」について、こう書いています。

商品の同一性は、銘柄、品質、規格等からみて同一とみられるか否かにより判断される。

さらに、その価格が「最近相当期間にわたって販売されていた価格」といえるかの判断基準として、次のように述べています。

一般的には、二重価格表示を行う最近時(最近時については、セール開始時点からさかのぼる8週間について検討されるものとするが、当該商品が販売されていた期間が8週間未満の場合には、当該期間について検討されるものとする。)において、当該価格で販売されていた期間が当該商品が販売されていた期間の過半を占めているときには、「最近相当期間にわたって販売されていた価格」とみてよいものと考えられる。ただし、前記の要件を満たす場合であっても、当該価格で販売されていた期間が通算して2週間未満の場合、又は当該価格で販売された最後の日から2週間以上経過している場合においては、「最近相当期間にわたって販売されていた価格」とはいえないものと考えられる。

ここから読み取れることを、リフォームに当てはめてみます。

このガイドラインは、「同一の商品」が存在し、その商品に過去の販売実績があることを前提に組み立てられています。8週間・過半・2週間という基準も、同じ商品を継続して売っていた記録があってはじめて計算できます。

ところがリフォーム工事は、同じキッチンの型番でも、現場の下地・搬入経路・給排水の位置で数量も手間も変わります。「銘柄、品質、規格等からみて同一」といえる工事を、過去8週間にわたって同じ金額で売っていた記録は、作りにくいのが実情です。

なお「値引きはしません」と方針を掲げること自体には、この論点はかかりません。書いていないことが問題になるのではなく、書いた比較対照価格の根拠が問題になるからです。

値引きしない代わりに、何を出すか

「値引きしません」だけでは商談は前に進みません。断る代わりに出すカードを、あらかじめ用意しておきます。

値引きを求められたときの4手
  1. 総額を「幅」で先に出す。最初の提示が1点だと、その1点だけが交渉の的になる
  2. 含まれるもの・含まれないものを同じ画面に並べる。金額の差ではなく範囲の差だと分かれば、比較の会話に戻せる
  3. 減額ではなく「減工事」を提案する。グレードを1段下げる/工事を分けて時期をずらす/選べるオプションを外す、の3択で出す
  4. 断るときは、価格表の行の名前で説明する。「この処分費は必ず出ます」「現場管理費は工事小計の10%なので、工事が減れば一緒に減ります」と、行を指して話す

3番の「減工事」が要です。値引きと減工事は、施主が払う額が同じでも中身がまったく違います。

値引きで下げる

  • 総額だけが下がる
  • 原価はそのまま、利益から引かれる
  • 次回も同じ期待が持ち込まれる
  • 「最初の数字は確定ではない」と学習される

中身を変えて下げる

  • 何が減ったのかが行で分かる
  • 原価と一緒に下がる
  • 次回は仕様の会話から始まる
  • 「最初の数字は確定」と学習される

施主の側から見た値引き交渉のタイミングについてはリフォームの値引き交渉はいつが正解かに別途書きました。相手が何を考えて言い出しているかを知っておくと、断り方が変わります。

なぜ「1点で出す」と必ず的になるのか(心理学の視点)

リフォームは、人が一生に数回しか買わない商品です。日用品と違って、自分の中に相場のものさし(参照価格)を持っていない状態で商談に入ります。

このとき、最初に提示された1つの数字が、その人にとって唯一の参照点になります。行動経済学でいうアンカリングです。参照点が1つしかないと、施主にできる評価は「その数字が高いか安いか」だけになり、判断材料が無いまま「とりあえず引いてもらえるか試す」という行動に落ち着きます。

だから私たちは、標準価格表の現場管理費を除く49行すべてに下限と上限を持たせ、平均1点に潰しませんでした。理由は2つあります。

1つは、幅を平均に潰すと、その丸めの判断がふたたび担当者の頭の中に戻ってしまうこと。もう1つは、幅で出すと参照点が2つになり、「なぜこの幅なのか」という会話に移せることです。「上限側になるのは解体してみて土台の補修が要る場合です」と説明できれば、話題は金額から工事の中身に移ります。

もう1つ、値引きに応じた側が支払うコストがあります。その場の1件は取れますが、「この会社の最初の数字は確定ではない」という学習を相手に残します。同じ施主からの追加工事、その施主が紹介した次のお客様にも、同じ期待が持ち込まれます。値引きは、今回の利益だけでなく、次回の商談条件も一緒に売っている行為です。

まとめ

値引きしないリフォーム会社をつくる作業は、営業のトークを鍛えることではなく、価格表を数え直すことから始まります。

  • 削れる行がいくつあるか数える。私たちは50行中1行(上限2.5万円・総額の約1.5%)でした
  • 必ず発生する費用をオプションから本体へ動かす。私たちの表では解体・処分費が本体の7.0〜8.4%を占めていました
  • 含まれるもの・含まれないものを金額と同じ画面に置く
  • 「通常価格→特別価格」の表示は使わない。リフォームでは「同一の商品」の過去販売価格を示しにくい
  • 断るときは行の名前で説明し、減額でなく減工事の3択を出す

なお、この記事に出てくる金額はすべて自社サンプル価格表の概算の幅であり、正式なお見積りや契約金額ではありません。実際の金額は現地の状態と仕様によって変わります。概算と正式見積の位置づけの違いは概算見積と正式見積の違いに、見積・相場まわりの記事は見積・相場の一覧にまとめています。

自社サイトに概算見積の入口を置きたいリフォーム会社様は、メヤス(新しいタブで開く)で、この価格表がそのまま「含まれるもの・含まれないもの」つきの画面になった状態をご覧いただけます。

よくある質問

Q. 「当社は値引きをしません」とホームページに書いてもいいですか?

方針の表明自体に問題はありません。景品表示法が問うのは、書いた比較対照価格に根拠があるかどうかであり、値引きをしないと書くことではないからです。ただし「業界最安値」「他社より必ず安い」のような比較の断定は別の論点になるので、根拠を示せない表現は避けてください。

Q. 値引きを断ったら失注しませんか?

断ることと、代案を出さないことは別です。私たちの整理では、断るときにグレードを1段下げる・工事を分けて時期をずらす・選べるオプションを外す、の3択を同時に出します。総額を下げる要望自体には応えているので、話が止まりにくくなります。それでも金額だけが決め手のお客様は、値引きに応じても次の1社に抜かれます。

Q. 端数を切るのも値引きになりますか?

1,234,500円を123万円と表示するような端数処理は、実務上よく行われます。ただし社内で基準を決めずにその場で切ると、担当者ごとに切る額が変わり、結局は属人的な値引きと同じことになります。切るなら「千円未満は切り捨て」のように、価格表と同じレイヤにルールとして書いてください。

Q. 「今なら10万円引きキャンペーン」は違法ですか?

違法かどうかは個別の事案で判断されるものなので、ここでは断定できません。ただし消費者庁の価格表示ガイドラインは、比較対照価格に使う過去の販売価格について「同一の商品」であることと、直近8週間のうち過半の期間その価格で販売されていたことを判断の目安に挙げています。現場ごとに仕様が変わるリフォーム工事では、この記録を用意しにくい点に注意が必要です。

Q. 値引きの代わりにサービス工事を付けるのはどうですか?

金額は守れますが、原価は出ていきます。しかも見積書に載らないので、後から「何をいくら分サービスしたか」が社内に残りません。付けるなら、オプション行として金額を書いたうえで「今回はこの行を当社負担」と明示するほうが、価格表の一貫性を壊しません。行の設計については見積の属人化を解消する価格マスターの作り方も参考にしてください。

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#メヤス#リフォーム#心理学