リフォームで契約書なしは大丈夫か——書面がなくても契約は成立します
リフォーム工事は、契約書なしでも契約が成立します。民法が「契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない」と定めているからです。つまり書面がない状態は「まだ何も決まっていない」のではなく、決まった内容を誰も証明できない状態です。

一方で建設業法19条1項は、工事の請負契約について16項目を書面に記載し、相互に交付しなければならないと定めています。この記事では条文の実文と、私たちが概算見積エンジン用に作った標準価格表50行の実データ(工事名だけで書面がないと、金額は中央値3.0倍に開きます)から、いま何を残せばよいかを整理します。
契約書なしでも、契約は成立してしまうのか
成立します。契約が成立する条件は書面ではなく、申込みと承諾という意思のやりとりだからです。
契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。
(出典: 民法 第522条(新しいタブで開く)・e-Gov法令検索)

玄関先で「では、これでお願いします」と言い、業者が「承知しました」と答えた時点で、原則として契約は成立しています。書面は成立の条件ではなく、あとから中身を確かめるための記録です。
だから契約書がない状態で本当に困るのは、「契約したかどうか」ではありません。何を、どの等級で、いくらで頼んだのかが、双方の記憶にしか残っていないことです。
建設業法19条は「業者だけ」の義務ではない
19条1項の主語は「建設工事の請負契約の当事者」です。つまり請け負う側だけでなく、注文する側(施主)も名宛人に含まれています。
建設工事の請負契約の当事者は、前条の趣旨に従つて、契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。
(出典: 建設業法 第19条(新しいタブで開く)・e-Gov法令検索)
条文には「相互に交付」と書かれています。多くの解説はこれを業者側の義務としてだけ紹介しますが、法律の建て付けとしては双方が書面を作って渡し合うことを前提にしています。ですから「先方が作らないから」で終わらせる必要はなく、施主の側から書面を求めるのは、法が想定している行動そのものです。
書くべき16項目は、次のとおり法律に列挙されています。
| 号 | 書面に記載する事項 |
|---|---|
| 1 | 工事内容 |
| 2 | 請負代金の額 |
| 3 | 工事着手の時期および工事完成の時期 |
| 4 | 工事を施工しない日・時間帯を定めるときは、その内容 |
| 5 | 前金払・出来形部分への支払を定めるときは、その時期と方法 |
| 6 | 設計変更・着手延期・中止があった場合の工期/代金の変更と、その算定方法 |
| 7 | 天災など不可抗力による工期変更・損害の負担と、その算定方法 |
| 8 | 物価等の変動による工事内容/代金の変更と、その算定方法 |
| 9 | 工事で第三者が損害を受けた場合の賠償金の負担 |
| 10 | 注文者が資材の提供や機械の貸与をするときは、その内容と方法 |
| 11 | 完成を確認する検査の時期・方法と、引渡しの時期 |
| 12 | 工事完成後の請負代金の支払の時期・方法 |
| 13 | 契約不適合を担保すべき責任や保証保険の措置を定めるときは、その内容 |
| 14 | 履行遅滞など債務不履行の場合の遅延利息・違約金 |
| 15 | 契約に関する紛争の解決方法 |
| 16 | その他、国土交通省令で定める事項 |
同じ19条の2項は、これらの内容を変更するときも書面で相互交付すると定めています。つまり「あとで変わった分」も書面の対象です。
契約書がないと、金額のどこが決まらないのか
工事の名前だけでは金額は決まりません。私たちの価格表で数えると、等級(グレード)が書かれていないだけで、金額の幅は中央値で3.0倍に開きます。
私たちはリフォーム会社向けの概算見積シミュレーター「メヤス」を開発していて、検証用の標準価格表を50行持っています。内訳は本体27行(9つの工事項目 × 標準・中級・高級)、オプション21行、諸経費2行です。行の切り方の考え方はリフォームの単価表の作り方に書きました。
この50行を、今回は「書面に何が書かれていないと金額が確定しないか」という目で数え直しました。まず、工事項目だけを決めて等級を書かなかった場合に残る幅です。
| 工事項目 | 等級を書かないときの幅 | 上限÷下限 |
|---|---|---|
| 洗面化粧台 | 12〜58万円 | 4.83倍 |
| 給湯器交換 | 16〜65万円 | 4.06倍 |
| トイレ交換 | 15〜55万円 | 3.67倍 |
| 床(フローリング) | 1.5〜5.0万円/畳 | 3.33倍 |
| キッチン交換 | 60〜180万円 | 3.00倍 |
| 浴室(ユニットバス) | 68〜185万円 | 2.72倍 |
| 屋根塗装 | 0.9〜2.1万円/坪 | 2.33倍 |
| クロス(壁紙)張替 | 0.11〜0.22万円/㎡ | 2.00倍 |
| 外壁塗装 | 2.4〜4.6万円/坪 | 1.92倍 |
9項目の倍率を並べると、中央値は3.00倍でした(最小1.92倍・最大4.83倍)。「キッチンを新しくする」という合意だけでは、60万円の話にも180万円の話にもなり得るということです。
決まらない要素は等級だけではありません。数え直すと、書面がないときに宙に浮く層は4つありました。
- 工事項目(何を触るか)——ここは口頭でもだいたい一致する
- 等級(どのグレードか)——書かないと中央値3.0倍の幅が残る
- オプション(付けるか外すか)——21行すべて等級欄が「共通」で、選んだ記録が別に要る
- 数量(何㎡・何坪・何畳か)——50行のうち数量を掛ける行は12行(24%)ある
3つ目のオプションが、実際にはいちばん揉めます。私たちの表でキッチン交換のオプションは3行あり、解体・処分が4〜7万円、キッチンパネル張りが6〜9万円、吊戸棚の交換が4〜8万円です。合計すると14〜24万円で、本体の標準グレード60〜85万円に対して16〜40%にあたります。
ここが書面にないと、「入っていると思っていた」と「聞いていない」がそのまま金額差になります。しかも解体・処分は交換工事なら必ず発生するのに、表の上ではオプション側に置かれています。
4つ目の数量も見落とされがちです。クロス張替は1㎡あたり0.11〜0.22万円という単価の行なので、単価が同じでも面積が書かれていなければ総額は決まりません。50行のうち、数量を掛けて初めて金額になる行は12行(24%)ありました。
諸経費も連動します。私たちの表では現場管理費が「工事小計の10%」という率の行なので、工事が増えれば諸経費も自動で増えます。増えた分の根拠を示せるのは、この率が書面にある場合だけです。追加工事そのものの防ぎ方はリフォームの追加工事トラブルを防ぐにまとめました。
契約書がないと違反になるのか——罰則ではなく監督処分
19条そのものに罰金の規定はありません。行政による監督処分の入口になる、というのが正確な位置づけです。
建設業法28条1項は、許可を受けた建設業者がこの法律の規定に違反した場合に、国土交通大臣または都道府県知事が必要な指示をすることができると定めています。指示に従わないときは、同条3項で1年以内の営業停止を命じることができます。
一方で、許可を受けていない業者に対する28条2項のルートは、「工事を適切に施工しなかったために公衆に危害を及ぼしたとき」と「請負契約に関し著しく不誠実な行為をしたとき」の2つに絞られています。書面を作らなかったこと自体が、そこに名指しされているわけではありません。
だから結論は「違法だから安心」ではなく、自分の記録は自分で作るになります。
いま書面がない状態から、何を残すか
すでに話が進んでいても遅くはありません。変更や追加が出るのは、たいていこれからだからです。
- 合意した内容を自分の言葉でメールに書き、業者に送って返信をもらう
- 工事名だけでなく等級と型番を書く(同じ工事名に3倍の幅がある)
- オプションを「付ける/付けない」で1行ずつ列挙する
- 数量(㎡・坪・畳)と単価を分けて書く
- 変更が出たときの決め方を1行入れる(19条1項6号にあたる部分)
すでに見積書を受け取っているなら、それ自体が有力な記録です。どこを読めばよいかはリフォーム見積書の見方にまとめました。見積・相場まわりの記事はリフォーム見積の総まとめから辿れます。
訪問販売なら、書面がないほうが解約の時間は止まっている
クーリング・オフの8日は、法律が定める書面を受け取った日から数え始めます。受け取っていなければ、まだ数え始めていない場合があります。
特定商取引法9条1項ただし書は、申込みの撤回等ができなくなる時期を「第五条第一項又は第二項の書面を受領した日(その日前に第四条第一項の書面を受領した場合にあつては、その書面を受領した日)から起算して八日を経過した場合」と定めています(出典: 特定商取引に関する法律 第9条(新しいタブで開く)・e-Gov法令検索)。
つまり訪問販売に当たる取引で法定の書面が交付されていなければ、8日はまだ動き出していないと読める場面があります。契約書がないことは、この一点だけは施主に不利には働きません。
- 9条2項: 撤回等は通知を発した時に効力が生じる(相手に届いた時ではない)
- 9条3項: 事業者は損害賠償や違約金を請求できない
- 9条7項: 工事で建物などの現状が変わっているときは、原状回復を無償で請求できる
- 9条8項: これらに反する、申込者に不利な特約は無効
ただし限界があります。自分から店舗に出向いて契約した場合など、訪問販売に当たらない取引には適用されません。どの類型に当たるかは事実関係で決まるので、消費者庁の特定商取引法ガイド(訪問販売)(新しいタブで開く)を確認し、判断が難しいときは窓口に相談してください。断り方そのものはリフォーム見積もりの断り方に整理しています。
どこに相談できるか
住宅の相談窓口として、住宅リフォーム・紛争処理支援センターの住まいるダイヤル(新しいタブで開く)が電話相談を受け付けています。契約や勧誘のトラブル一般は国民生活センター(新しいタブで開く)と、お住まいの地域の消費生活センターが窓口です。
相談するときは、金額の大小より日付と、誰が何と言ったかを時系列で書き出しておくと話が早く進みます。書面がない案件ほど、この時系列が唯一の記録になります。
自社サイトに概算見積の入口を置きたいリフォーム会社様は、メヤス(新しいタブで開く)もご覧ください。金額を先に開示しておくと、契約前の「聞いていない」が減ります。
よくある質問
Q. 契約書がないまま工事が終わってしまいました。もう何もできませんか?
書面がなくても契約は成立しているので、代金や仕上がりについて主張できなくなるわけではありません。手元の見積書、メッセージ、振込の記録、工事前後の写真がそのまま証拠になります。まずは時系列に並べ、住まいるダイヤル(新しいタブで開く)や消費生活センターに相談してください。
Q. 見積書にサインしただけでも契約書の代わりになりますか?
見積書は金額を示す書類で、建設業法19条1項が求める16項目をすべて備えているとは限りません。ただし、そこに署名して「これでお願いします」と伝えていれば、契約が成立したと評価される場面はあります。サインを求められたら、それが承諾の意思表示なのかを口頭で確認してください。
Q. メールやメッセージのやりとりは契約書になりますか?
19条3項は、相手方の承諾を得たうえで電子的な方法に代えることを認めています。ただし、これは決められた方式に沿った取り交わしを想定した規定なので、断片的なやりとりが自動的に契約書面になるわけではありません。証拠としての価値は高いので、消さずに残しておいてください。
Q. 少額の工事でも契約書は要りますか?
19条1項は金額でしぼった書き方をしていません。ただし、行政が動ける範囲は業者が許可を受けているかどうかで変わり、無許可業者への28条2項のルートは「著しく不誠実な行為」などに限られています。金額が小さいほど行政ルートは細くなると考えて、記録は自分で残すのが安全です。
Q. 「うちは昔から契約書を作らない」と言われました。断るべきですか?
断るかどうかは自由ですが、その一言は判断材料になります。19条1項は当事者双方に相互交付を求めているので、書面を出せない理由を説明できない会社は、変更や不具合が起きたときの決め方も持っていない可能性があります。まずは「メールで内容を確認させてください」と伝え、その反応を見てから決めてください。
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#メヤス#リフォーム#AI法律