判例マンガ
登記一件、五十円の重さ — 群馬司法書士会事件
憲法/最高裁判所第一小法廷 平成14年(2002年)4月25日判決
強制加入団体である司法書士会が、震災復興支援のため会員から特別負担金を徴収する総会決議は、司法書士会の目的の範囲内の行為として許されるか
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司法書士になるには、司法書士会に入らなければならない。
レイ司法書士法で決められた、入会が強制される団体なんです。
みょうぶ選べないの?
レイええ。だからこそ、会のお金の使い方には、慎重さが求められます。
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平成7年(1995年)1月、阪神・淡路大震災。
レイ兵庫県司法書士会も、大きな被害を受けました。
みょうぶそれで、群馬の司法書士会が?
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群馬司法書士会は、総会で復興支援拠出金3000万円の寄付を決めた。
レイ原資は、会員から徴収する『復興支援特別負担金』。登記申請1件につき50円を、3年間。
みょうぶ1件50円……小さい額だね。
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ある会員は、この決議に納得できなかった。
正吉(仮名)俺は反対したのに、決議に従って負担金を払わされるのか。
レイ判決文では、この人を『上告人』と呼びます。彼は、裁判に訴えました。
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正吉さんの主張は、こうだった。
正吉(仮名)寄付をするかどうかは、本来、一人ひとりの思想・信条の自由に関わる話だ。
正吉(仮名)それを多数決で押しつけるのは、司法書士会の目的を超えているし、会員としての協力義務の限界も超えている。
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似た事件が、すでにあった。
レイ平成8年の南九州税理士会事件。税理士会が政治団体に寄付するための特別会費決議は、無効とされていました。
みょうぶじゃあ、今回も無効なんじゃないの?
レイそこが、今日いちばん難しいところなんです。
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強制加入団体にも、活動していい範囲がある。
レイ会の目的を遂行するのに必要な範囲でなら、他の司法書士会への協力や援助も、本来の活動に含まれます。
レイでも、会員の思想・信条に関わることまで多数決で強制していいかは、別の問題です。
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平成14年4月25日。最高裁判所第一小法廷。
裁判長上告を棄却する。
正吉(仮名)なぜだ……南九州税理士会の件と、何が違うんだ。
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最高裁が見たのは、まず『目的の範囲』。
レイ大震災という規模と緊急性を考えれば、3000万円の寄付は、司法書士会どうしの提携・協力として、目的の範囲を逸脱しない。
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次に見たのは、『会員に負担を強いていい限界』。
レイ1件50円。登記の報酬は平均2万1000円ほどですから、その0.2%強にすぎません。
レイそしてこれは、政治団体への寄付のように、会員の思想・信条や支持する立場に直結するものではない――そう判断されたんです。
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南九州税理士会事件とは、ここが違った。
みょうぶ同じ『強制加入団体のお金の話』なのに、結論が逆なんだ。
レイ政治団体への寄付は、会員の政治的な立場を強いることになる。でも、震災復興への寄付は、会員の思想や信条を害するとまでは言えない。そこで線引きが分かれたんです。
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この判決が示したのは、1本の線だった。
レイ司法書士会の目的と、強制加入団体に許される活動範囲。その線は、お金の使い道の『性質』によって変わる。
みょうぶ同じ強制加入でも、何に使うお金かで話が変わるんだね。
レイそうです。八幡製鉄事件、南九州税理士会事件、そしてこの群馬司法書士会事件――『目的の範囲』をめぐる判例は、少しずつ線を引き直してきたんです。
この判例のポイント
この判決の判断は二段構えです。①まず、復興支援拠出金3000万円の寄付が、司法書士会という強制加入団体の『目的の範囲内』の行為かどうか(震災の規模と緊急性から、範囲内と判断)。②次に、そのための負担金徴収が、会員の協力義務の限界を超えていないかどうか(金額の小ささと、思想・信条に直結しないという性質から、限界内と判断)。どちらか一方だけでは結論に届かない構成になっています。
南九州税理士会事件(政治団体への寄付目的の特別会費決議を無効とした判例)と比べると分かりやすくなります。あちらは『政治団体への寄付』という、会員の政治的立場そのものを強いる使途だったため無効。本件は『震災復興への寄付』という、会員の思想・信条に直結しない使途だったため有効。同じ『強制加入団体が多数決でお金を集める』という構造でも、お金の使い道の性質によって結論が分かれています。
答案では、強制加入団体が会員に負担を課す場面の論証を二段階で書くのが型になります。第一段は団体の目的の範囲内かどうか(八幡製鉄事件の『目的の範囲』論と同じ枠組み)、第二段はその範囲内の行為であっても会員の協力義務にはなお限界があるかどうか(南九州税理士会事件が示した思想・信条の自由との衝突)です。本件を書く際は、金額の大小だけでなく『その支出が会員の思想・信条や政治的立場に直結する性質かどうか』を判断の軸として示すと、南九州税理士会事件との異同を説明できます。
会話は読みやすさのための脚色です。登場する会員の名前は仮名で、事実関係と結論は判決の記載にもとづいています。なお、この事件については裁判所の判決全文PDFに直接は到達できず、複数の独立した法学系資料を突き合わせて事実を確認しました。
出典
- 最高裁判所第一小法廷 平成14年4月25日判決(群馬司法書士会事件)
- 司法書士法14条2項・19条(司法書士会の目的・強制加入)
- 最高裁判所第三小法廷 平成8年3月19日判決(南九州税理士会事件・比較判例)