判例マンガ
ビラ一枚の線引き — 堀越事件
憲法・刑法/最高裁判所第二小法廷 平成24年(2012年)12月7日判決
休日に、公務員であることを明かさず政党の機関紙を配った行為は、国家公務員法の禁じる「政治的行為」にあたるか
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2003年(平成15年)、衆議院議員総選挙の年。舞台は東京・目黒の社会保険事務所。
レイこの事務所で、年金の相談に応じていた職員がいました。
みょうぶ年金の窓口の人?
レイはい。1日に20〜25人ほどが訪ねてきて、年金の受給や見込額について相談を受ける。コンピュータの記録を調べて、回答する仕事です。
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この職員(春木(仮名))は、相談業務を担当する係長。管理職ではなく、判断の余地もない職務だった。
レイ年金の支給の可否を決めるのも、支給額を変えるのも、この人の権限ではありません。
みょうぶ決められることは、ほとんどないんだ。
レイ回答は、コンピュータに残っている記録に基づくもの。人事や監督の権限も、与えられていませんでした。
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2003年10月から11月にかけて、休日に3回。都内の100か所以上の郵便受けに、党の機関紙などを入れて回った。
レイ配ったのは、日本共産党の機関紙と、党を支持する文書。
レイ勤務先の施設は使わず、公務員の肩書きも出さず、無言で郵便受けに入れていたそうです。
みょうぶそれでも、捕まっちゃうの?
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起訴。第1審は、有罪を言い渡した。罰金10万円、執行猶予2年。
レイ第1審は、国家公務員法違反として有罪にしました。
春木(仮名)……休みの日に、ビラを配っただけなのに。
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控訴審は無罪。検察官が、最高裁に上告した。
レイ控訴審は、この配布に罰則を当てはめることは、憲法21条1項・31条に違反すると判断して、無罪にしました。
レイ争点は、『政治的行為』とは何か。そして、その禁止は合憲なのかどうか。
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公務員は『全体の奉仕者』。では、政治活動は全面的に禁じてよいのか。
みょうぶ公務員は国民全体のために働くんだから、政治には関わらないほうがいいよね?
レイ憲法15条2項は『すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない』と定めています。
レイ一方、政治活動の自由は、憲法21条1項の表現の自由。どこまで禁止できるかが、この事件の難しさです。
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最高裁は、まず『政治的行為』の範囲を絞った。
レイ『政治的行為』とは、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが、観念的なものにとどまらず、現実に起こり得るものとして実質的に認められるもの。
みょうぶおそれがあれば、いいんじゃなくて『実質的に』認められること?
レイそう。抽象的な危険では足りない、ということです。
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そのうえで、禁止の規定は合憲とされた。ただし、対象は限られる。
レイ規制の目的は、行政の中立的な運営を守り、それに対する国民の信頼を保つこと。その目的は正当です。
レイ禁止されるのは『実質的なおそれ』がある行為に限られる。だから、過度に広い規制とはいえない、と判断しました。
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『おそれ』があるかは、一つの事情だけでは決まらない。全体で見る。
レイ見るのは、管理職かどうか、職務に裁量があるか、勤務時間の内か外か、国や職場の施設を使ったか、公務員の地位を利用したか、団体の活動か、公務員と分かる態様か、などです。
みょうぶチェックリストみたい。
レイこの要素を一つずつ挙げて、本件に当てはめるのが基本です。
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春木は、管理職ではない。仕事に裁量もない。配布は休日で、職場の施設も、公務員の肩書きも使わなかった。
レイ団体の活動でもなく、無言で郵便受けに入れただけ。これらの事情を合わせると、職務の中立性を損なう『実質的なおそれ』は認められない。
レイだから、この配布は禁止の構成要件に当たらない、というのが結論です。
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同じ『政治的行為』でも、1974年の猿払事件は、郵便局員のポスター掲示を合憲として処罰を認めていた。
みょうぶ同じ規制なのに、結論が違う?
レイ猿払事件は、その事案を前提にした判断でした。堀越事件の判決は、その規制を『実質的なおそれ』がある行為に限って読んだ、と整理されています。
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2012年(平成24年)12月7日。最高裁は、検察官の上告を棄却した。全員一致の判決。
裁判長本件上告を棄却する。
春木(仮名)……やっと、終わった。
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この判決の要点は、『政治的行為』を、実質的なおそれがあるものに限って読むこと。
レイ根拠は、国家公務員法102条1項と、人事院規則14-7。表現の自由は、憲法21条1項で守られています。
みょうぶ一枚のビラにも、理由がいるんだね。
レイその理由を一つずつ確かめるのが、この判例の読み方です。
この判例のポイント
この判決でおさえるべきなのは、『政治的行為』を『職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるもの』に限って読んだこと、そして、行為者の地位・職務・行為の態様を個別に見て、そのおそれを判断したことです。禁止の規定そのものは合憲とされたうえで、個々の行為が禁止の対象に当たるかが問われました。
判断の材料は、管理職かどうか、職務に裁量があるか、勤務時間の内か外か、国や職場の施設を利用したか、公務員の地位を利用したか、団体の活動か、公務員と認識される態様か、の七つに整理できます。この事件では、そのいずれもが『おそれ』の方向には働かなかった。
答案では、まず国家公務員法102条1項の『政治的行為』を、『実質的なおそれ』という規範として示し、規定の合憲性を判断します。そのうえで、上の七つの事情を一つずつ挙げて、本件に当てはめる。最後に、構成要件に当たるかどうかを結論として明示します。判例は合憲性の確認と構成要件の判断を分けて書いているので、答案でもこの二段の順序を崩さないことが大切です。あわせて、猿払事件が当該事案を前提とした判断だったことに触れると、論述に深みが出ます。
人物は仮名にしています。事実関係と数値は判決文の認定にもとづいています。
出典
- 最高裁判所第二小法廷 平成24年12月7日判決(平成22年(あ)第762号 国家公務員法違反被告事件) 判決全文(新しいタブで開く)
- 裁判所 判例情報(事件番号・判示事項・裁判要旨)(新しいタブで開く)
- 国家公務員法 第102条(政治的行為)(新しいタブで開く)
- 日本国憲法 第21条(新しいタブで開く)
- 最大判昭和49年11月6日(猿払事件) 刑集28巻9号393頁 ※平成24年判決中の引用による