判例マンガ
全部削除、では済まなかった — 家永教科書裁判
憲法/最高裁判所第三小法廷 平成9年(1997年)8月29日判決
高校日本史教科書の検定で、文部大臣が付した修正意見のうち一部に「看過し難い過誤」があったとして、国家賠償法上違法とされた事件
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高校で使う教科書は、文部省の検定に合格しなければ発行できない。
レイ歴史学者の篤郎(仮名)は、高校用の日本史教科書『新日本史』を書いていました。
みょうぶ検定って、誰かがチェックするってこと?
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昭和58年度の改訂検定。篤郎(仮名)は、教科書にある記述を書き加えようとした。
篤郎(仮名)ハルビン郊外に、七三一部隊という細菌戦部隊があった。数千人を捕らえ、生体実験を加えた——これを書く。
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文部省の調査官は、修正意見を付けた。
D調査官七三一部隊のことは、まだ信用に堪える学問的研究が発表されていない。時期尚早だ。全部削除しなければ合格にはできない。
篤郎(仮名)全部削除……!?
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修正意見に従わなければ、教科書として発行できない。
レイ修正意見は、ただの助言ではありません。従わない限り不合格とする、法的拘束力のある処分です。
篤郎(仮名)書かせてもらえないのか。
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篤郎(仮名)は記述を全部削除し、検定に合格させた。そのうえで、国を訴えた。
篤郎(仮名)これは文部大臣の裁量権の濫用だ。国家賠償を求める。
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最高裁が最初に確認したのは、検定制度そのものの合憲性だった。
レイ検定に不合格でも、一般図書としてなら出版できます。だから憲法21条2項が禁じる『検閲』にはあたらない、とされました。
みょうぶ検定の仕組みそのものはOKなんだ。
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でも、文部大臣の判断には歯止めがある。
レイ教育内容への国の関与は認められる。でも、その裁量の行使に『看過し難い過誤』があれば違法になる——これが物差しです。
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最高裁判所第三小法廷。平成9年8月29日判決。
裁判長七三一部隊の記述についての修正意見には、裁量権の範囲を逸脱した違法がある。
篤郎(仮名)……認められたのか。
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一方、同じ訴訟で争われた他の3箇所の修正意見は、いずれも適法とされた。
レイ『朝鮮人民の反日抵抗』『日本軍の残虐行為』『沖縄戦』の記述をめぐる修正意見は、裁量の範囲内だと判断されました。
みょうぶ七三一部隊だけが、違法になったんだ。
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なぜ七三一部隊だけが違法とされたのか。
レイ検定の時点ですでに、七三一部隊に関する文献・資料は36点ありました。作家の著作『悪魔の飽食』も、旧隊員の供述・米軍資料・ハバロフスク軍事裁判記録・学術論文・現地取材という複数の裏付けを持っていたんです。
レイ部隊の存在と生体実験という大筋は、学界ですでに定説化していた。それを『時期尚早』として全部削除させたことに、看過し難い過誤がある——そう判断されました。
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国に対し、40万円の支払いが命じられた。
レイ昭和55年度検定分20万円、昭和58年度検定分20万円。合わせて40万円と、昭和59年2月11日からの遅延損害金です。
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15人の裁判官のうち、意見は一致しなかった。
レイある裁判官は、朝鮮人民の反日抵抗や日本軍の残虐行為の記述も違法だと反対意見を述べました。逆に、七三一部隊についても違法ではないとする反対意見もありました。
みょうぶどちらの方向にも、意見が分かれたんだ。
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この判決は、提訴から32年に及んだ家永教科書裁判、三次にわたる訴訟の最後の到達点だった。
レイ国家賠償法1条、憲法26条・21条。検定制度そのものは合憲としつつ、個別の判断には歯止めをかける——その筋道を示した判決です。
みょうぶ仕組みは認める。でも、使い方は見る。宇奈月温泉事件と、ちょっと似てるね。
レイいいところに気づきましたね。
この判例のポイント
この事件のポイントは「検定制度は合憲」という大枠と、「個別の裁量判断は違法になりうる」という歯止めが、ひとつの判決のなかに同居していることです。検定そのものを争う土俵と、個々の修正意見の当否を争う土俵は、別のものとして整理されています。
最高裁は訴訟で争われた4箇所の修正意見を同じ基準で検討しながら、七三一部隊の記述についてだけ違法と判断しました。分かれ目になったのは、検定当時の学説状況です。文献の数や性質、学界での定説化の程度という、具体的な事実の積み重ねによって結論が変わっています。
答案での書き方としては、まず検定制度そのものの合憲性(検閲該当性・教育内容への国の関与の可否)を論じ、それを前提としたうえで、個別の修正意見が裁量権の範囲を逸脱しているかを、検定当時の学説状況や資料の有無という具体的事実にあてはめて検討する、という二段構えで書きます。制度の合憲性と個別処分の適法性を混同しないことが大切です。
会話は読みやすさのための脚色です。教科書の著者は仮名(篤郎)とし、文部省の調査官は判決文の原文表記(D調査官)に合わせています。事実関係と数値は判決文(最高裁判所第三小法廷 平成9年8月29日判決・民集51巻7号2921頁)の認定にもとづいています。
出典
- 最高裁判所第三小法廷 平成9年8月29日判決(家永教科書裁判第三次訴訟)民集51巻7号2921頁
- 日本国憲法21条・26条(新しいタブで開く)