判例マンガ
585円の差額 — ライブドア事件
金融商品取引法/最高裁判所第三小法廷 平成24年(2012年)3月13日判決
有価証券報告書の虚偽記載が発覚したあとの株価暴落は、どこまで『虚偽記載のせい』として賠償を求められるか
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2000年代前半。東京証券取引所マザーズ。IT企業「ライブドア」は、M&Aと株式分割を繰り返して急成長していた。
レイ筆頭株主で代表取締役だった大地(仮名)さんは、ITベンチャーの代表格として、メディアに引っ張りだこでした。
みょうぶ時代の寵児って感じね。
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平成16年9月期(第9期)の連結決算。実際は、約3億1278万円の経常赤字だった。
レイでも、関東財務局長に提出された有価証券報告書には、まったく違う数字が書かれていました。
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自社株の売却益37億6699万6000円を売上に計上(本来は認められない)。さらに、F社への架空売上7億円、G社への架空売上8億8000万円を上乗せ。
レイこうして、経常利益は『50億3421万1000円の黒字』として、連結損益計算書に記載されました。
みょうぶ3億円の赤字が、50億円の黒字に……!? 桁がぜんぜん違う!
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平成18年1月16日夜。東京地検特捜部が強制捜査に着手した。
検察官金融商品取引法違反——偽計、風説の流布の容疑がある。
レイ1月23日、大地(仮名)さんを含む役員らが逮捕されました。その数日前、検察官は記者クラブに、単体決算で約14億円の粉飾があった旨を伝えています。
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市場は、かつてない混乱に陥った。
レイ株価は、強制捜査直前の1月16日の終値696円から、翌17日には制限値幅下限の596円に。18日には個人投資家の売り注文が殺到し、東証は史上初めて全銘柄の取引を停止しました。
みょうぶ全銘柄!? ライブドア1社の話じゃなかったの!?
レイ1月24日には終値176円まで暴落。4月14日、ついに上場廃止となりました。
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株を買っていた投資家たちが、損害賠償を求めて提訴した。
投資家側代理人虚偽記載が公表される前後で、株価は1株あたり585円も下がっている。この差額を、まるごと賠償してほしい。
会社側代理人値下がりの大半は、強制捜査の衝撃や代表者の逮捕、連日の報道のせいだ。虚偽記載そのものによる値下がりは、ごく一部にすぎない。
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ここには、2つの難しい問いがあった。
レイひとつ目。検察官が記者に伝えた内容は『単体決算』の粉飾でしたが、有価証券報告書に書かれていたのは『連結決算』の粉飾でした。中身が完全には一致しない開示で、法が求める『公表』があったと言えるのか。
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もうひとつの問い。
レイふたつ目。株価の下落には、虚偽記載の発覚そのものだけでなく、強制捜査、代表者の逮捕、上場廃止への動き、メディアの連日報道——いろいろな要因が絡み合っています。どこまでが『虚偽記載のせい』と言えるんでしょう。
みょうぶ確かに……全部まとめて『会社のせい』にしていいのか、って話だよね。
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最高裁判所第三小法廷、平成24年3月13日判決。
レイまず『公表』について。検察官は、金融商品取引法21条の2にいう『権限を有する者』にあたる、としました。そして、検察官が開示した情報は、取引所市場での評価の誤りを明らかにするに足りる基本的事実にあたるから、正確な真実の数字まで開示していなくても『公表』にあたる、と判断しました。
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そして、値下がりの範囲について。
レイ『虚偽記載等によって生ずべき値下り』とは、虚偽記載と相当な因果関係のある値下がりのすべてを含む——最高裁はそう述べました。
レイこれほど重大な虚偽記載が発覚すれば、強制捜査や代表者の解任、株価の暴落、連日の報道が起きることは、通常予想される事態だ。だから、それらによる値下がりも、虚偽記載と相当因果関係がある、と。
みょうぶ『虚偽記載がなければ、この騒動自体が起きなかった』ってことだもんね。
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こうして、最高裁は投資家側の請求をおおむね認める方向で判断した。
レイ会社側が『このぶんは虚偽記載と関係ない値下がりだ』と個別に立証できない限り、公表前後の株価差額のほぼ全体が、賠償の対象になるという結論です。
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この判決は、虚偽記載の責任の重さを、あらためて示した。
レイ金融商品取引法21条の2は、有価証券報告書に嘘を書いた会社に、無過失でも損害賠償責任を負わせる規定です。その責任は、嘘そのものだけでなく、嘘が発覚したあとに市場で起きる混乱まで含めて問われる——それが、この判決の意義です。
みょうぶ『黒字です』のひとことが、ここまで大きな代償になるんだ……
この判例のポイント
この事件で区別しておきたいのは、堀江氏個人が問われた刑事裁判(有価証券報告書の虚偽記載罪・偽計取引罪)と、ここで取り上げた最高裁判決が、別の手続きだという点です。この最高裁判決は、株を買っていた投資家(機関投資家)が会社を相手に起こした民事の損害賠償請求事件で、金融商品取引法21条の2の解釈が正面から争われました。
判断の骨格は2つに整理できます。①検察官による報道機関への情報開示も、同法21条の2第2項にいう『公表』にあたること(真実の正確な数字まで開示されていなくても、市場の評価の誤りを明らかにするに足りる基本的事実の開示で足りる)。②同項にいう『値下り』とは、虚偽記載と相当因果関係のある値下がりのすべてを含み、虚偽記載の発覚にともなって通常起こりうる強制捜査・報道・株価混乱による値下がりも、ここに含まれること。
答案で金融商品取引法21条の2の論点が出たら、まずこの規定が民法709条の特則として投資家の立証責任を緩和したものだという位置づけを示し、そのうえで『公表』の意義、推定規定(第2項)と減額規定(第5項)の関係、値下がりの範囲という順に規範を立て、事実へのあてはめは『虚偽記載がどれほど重大だったか』『発覚後の混乱が通常予想される事態だったか』を軸に書くと筋が通ります。
会話は読みやすさのための脚色です。人物名はすべて仮名で、事実関係と数値は判決文(最高裁判所第三小法廷 平成24年3月13日判決)の認定にもとづいています。