判例マンガ
半分の森 — 森林法違憲判決
民法・憲法/最高裁判所大法廷 昭和62年(1987年)4月22日判決
持分2分の1以下の共有者から共有物の分割請求権を奪う森林法186条が、憲法29条2項に違反して無効とされた事件
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山あいに広がる、ひとつの山林。持ち主は兄弟ふたり。
レイこの山林は、父から生前に半分ずつ贈与され、兄弟が共有登記していた森林です。
みょうぶ半分ずつ、ってことは、二人とも同じ持分ね?
レイそうです。兄の健一(仮名)も、弟の修(仮名)も、それぞれ2分の1ずつの持分を持っていました。
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ある日、兄は弟の反対を押し切って、山の木を切った。
修(仮名)兄さん、その木は、二人で守るって約束したじゃないか。
健一(仮名)山は俺の持ち分でもある。どう使おうと俺の勝手だ。
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修(仮名)は、山を分けてほしいと裁判所に訴えた。
レイ共有物は、民法256条1項によって、各共有者がいつでも分割を請求できるのが原則です。
みょうぶなら、分けてもらえばいいじゃない!
レイところが、ここで立ちふさがったのが森林法186条です。
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森林法186条。持分が2分の1以下の共有者には、分割請求を認めない。
みょうぶ2分の1以下って、修さんはぴったり半分じゃない。それで分割を断られるの?
レイそうなんです。持分が2分の1以下の共有者は、民法256条1項の分割請求権を行使できない、と定めていました。
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法律がねらったのは、森林を細かく分けさせないこと。
レイ理由は、森林経営の安定です。山を分けてしまうと、一区画が小さくなり、長い年月をかける森林の経営が続けにくくなる、という考えでした。
みょうぶなるほど、山を守るためなら分けさせない、と。
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でも、財産を持つ人の権利は、憲法29条で守られている。
レイ憲法29条1項は、財産権を侵してはならないと定めています。
レイ一方で2項は、財産権の内容は公共の福祉に適合するように法律で定める、とも定めています。つまり、規制は許される。ただし、その規制が公共の福祉に適合するかどうかが問われるんです。
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原審まで、森林法186条が適用され、修(仮名)の分割請求は退けられた。
修(仮名)法律に書いてあるからダメ、と言われても……納得いきません。
レイその納得いかなさを、最高裁まで持ち込んだのが、この事件です。
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最高裁判所大法廷。昭和62年4月22日。
裁判長主文。原判決中上告人敗訴の部分を破棄する。右部分につき本件を東京高等裁判所に差し戻す。
修(仮名)……勝った?
レイ分割請求を認めない部分が破棄されました。修さんの請求は、もう一度審理されることになったんです。
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判決が問題にしたのは、目的と手段の釣り合い。
レイ判決は、森林法186条の目的が森林経営の安定にあることは認めました。
レイそのうえで、共有森林を分けても、直ちに細分化するとは限らない。分割を一律に禁じるのは、目的を達成する手段として必要性も合理性もない、と判断したんです。
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分割の方法には、現物分割・価格の調整・一部だけの分割がある。
レイ民法258条は、現物で分ける方法を定めています。持分より多くの現物を取る人がいれば、差額を他の共有者に支払って調整することもできます。
みょうぶ全部を分けなくても、請求した人の持分の範囲だけ分けて、残りは共有のままにすることも?
レイ判決は、そうした方法も許される、と述べています。細分化を避ける手段は、ほかにもあるということです。
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法律は、財産権の制限として必要以上だった。
レイ判決の結論は、森林法186条は憲法29条2項に違反し、効力を有しない、というものです。
みょうぶ財産の制限にも、目的に見合った限度があるってことね。
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一人の裁判官は、反対の意見を書いた。
レイ香川保一裁判官は反対意見を書きました。森林は、共同で経営することに意味がある。分割の制限には理由がある、という立場です。
みょうぶ反対の意見があるのは、それだけ難しい問題だったのね。
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山は、分けられる。ただし、分け方は選べる。
レイ権利は、法律の名のもとでも、目的と手段が釣り合っていなければ、制限しすぎとして退けられる。これが、森林法違憲判決の教えです。
みょうぶ持分が半分なのに、分けてもらえないなんて……それはおかしいよね。
この判例のポイント
この事件でおさえるべきなのは、「財産権は法律で制限できる」と「その制限が合憲か」は別の問いだという点です。憲法29条2項は制限を予定していますが、制限は公共の福祉に適合していなければなりません。判決は、森林法186条がその目的に対して手段として合理性・必要性を欠く、と判断しました。
判断の材料は3つに整理できます。①規制の目的(森林の細分化を防ぎ、森林経営の安定を図ること)、②手段(持分2分の1以下の共有者の分割請求権を一律に否定すること)、③手段と目的の関係(共有森林は分割しても直ちに細分化するとは限らず、現物分割・価格調整・一部分割など別の方法もある)。この3点から、規制は必要な限度を超えると評価されました。
答案では、まず民法256条1項の分割請求権が共有者の権利であることを押さえ、そのうえで、森林法186条による制限が憲法29条2項に適合するかを、目的・手段・その釣り合いの順で検討します。いきなり「違憲」と書くと、規制の目的を評価する手順が抜けてしまいます。
会話は読みやすさのための脚色です。人物名はすべて仮名で、事実関係と判断は判決文にもとづいています。ただし、兄弟の具体的な経緯は判例解説の事案の紹介によるもので、判決書の事実欄では確認できていません。
出典
- 最高裁判所大法廷 昭和62年4月22日判決(昭和59年(オ)第805号・森林法違憲判決) 判決全文PDF(新しいタブで開く)
- 最高裁判所 判決情報ページ(事件番号・判示事項)(新しいタブで開く)
- 民法256条(共有物の分割請求)・民法258条(共有物の分割方法)
- 憲法29条(財産権)
- 森林法186条(旧 明治40年法 6条の経緯を含む。条文は判決文の引用による)