判例マンガ
再審の扉 — 白鳥事件
刑事訴訟法/最高裁判所第一小法廷 昭和50年(1975年)5月20日決定
再審開始の要件「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」の判断に『疑わしきは被告人の利益に』の原則が及ぶとされた事件
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昭和27年(1952年)。国内では、武装闘争方針をとる勢力と、これを取り締まる警察とが鋭く対立していた。
レイ舞台は、北海道・札幌です。
みょうぶなんだか物々しい空気ね……
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1月21日、午後7時42分ごろ。札幌市内の路上で、警察の警備課長が拳銃で撃たれた。
レイ撃たれたのは一雄(仮名)さん。札幌市警の警備課長でした。発射されたのは2発。
みょうぶ犯人は、捕まったの……?
レイ引き金を引いたとされる実行犯は、ついに特定されないまま行方不明になりました。
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警察は、日本共産党の非合法活動との関連を疑った。
レイ逮捕されたのは、実行犯ではなく、地区委員会の委員長だった国治(仮名)さんです。
みょうぶえ、撃っていない人が捕まったの?
レイ『共謀共同正犯』——実行犯と共謀して殺害を企てた、という容疑です。第一審判決は、国治さんが実行担当者を選び、拳銃を持たせ、動静を探らせたと認定しました。
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1957年、札幌地裁は無期懲役。1960年、札幌高裁は懲役20年。1963年、最高裁が上告を棄却し、有罪が確定した。
国治(仮名)わしは、やっていない……
レイ国治さんは一貫して無罪を主張し続けました。有罪確定後も、再審請求という形で。
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再審請求審で、弁護側は新しい鑑定書を提出した。
レイ有罪の決め手のひとつは、現場近くで見つかった『証拠弾丸』2個でした。新証拠は、『その弾丸が19か月から27か月も土中に埋まっていたとは考えにくい』『被害者の体内から出た弾丸と同じ拳銃から発射されたとは言い切れない』という内容です。
みょうぶえ、証拠そのものが怪しいってこと!?
レイ弁護側は、捜査機関による証拠の細工すら疑わせる、とまで主張しました。
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再審請求は棄却され、異議申立ても退けられた。国治さんは最高裁に特別抗告した。
弁護人この新証拠だけで、有罪の土台は崩れるはずだ。無罪を言い渡すべき明らかな証拠にあたる。
検察官証拠弾丸の価値が多少揺らいだとしても、積み重なった間接事実の全体を見れば、有罪は揺るがない。
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ここで裁判所が向き合ったのは、ひとつの大きな問いだった。
レイ刑事訴訟法435条6号は、再審が認められる場合として『無罪を言い渡すべき明らかな証拠をあらたに発見したとき』を挙げています。でも、『明らかな証拠』って、どれくらい明らかなら足りるんでしょう。
みょうぶ『疑わしい』じゃ足りなくて、『明らか』じゃなきゃいけないんだ……ハードル高そう。
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確定判決には重みがある。それでも、もう一度疑っていいのか。
レイ刑事裁判の大原則に『疑わしきは被告人の利益に』があります。でもこれは、有罪か無罪かを決める最初の裁判の話。一度確定した判決を覆す再審の場面にも、同じ原則が及ぶのか——そこが争われたんです。
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最高裁判所第一小法廷、昭和50年5月20日決定。
裁判長本件抗告を棄却する。
国治(仮名)……また、だめなのか。
レイ最高裁は、新証拠が証拠弾丸の証明力をある程度減らすことは認めました。それでも、ほかの間接事実を総合すれば、有罪認定を覆すところまではいかない——という結論でした。
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しかし、この決定は、ひとつの重要な物差しを示した。
レイ『無罪を言い渡すべき明らかな証拠』とは、確定判決の事実認定に合理的な疑いをいだかせ、その認定を覆すに足りる蓋然性のある証拠をいう。そして、その証拠だけを単独で見るのでなく、他の全証拠と総合的に評価して判断する——これが判断方法です。
レイそのうえで、最高裁ははっきり言いました。『この判断に際しても、疑わしいときは被告人の利益に、という刑事裁判における鉄則が適用されるものと解すべきである』と。
みょうぶ確定したあとの裁判でも、疑わしきは被告人の利益に、が生きてるんだ……!
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国治さん自身の再審は、開かなかった。けれど、この物差しは、ほかの扉を開けていった。
レイこの決定のあと、財田川事件、免田事件、松山事件、島田事件——死刑が確定していた4つの事件で、相次いで再審が始まり、無罪が言い渡されました。
みょうぶ自分は救われなかったのに、ほかの人を救う道を開いたんだ……
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この法理は、いまも再審のあらゆる場面を支えている。
レイ刑事訴訟法435条6号——有罪の言渡を受けた者に対して無罪を言い渡すべき明らかな証拠をあらたに発見したときは、再審を請求できる、という規定です。
レイ『白鳥決定』と呼ばれるこの判断枠組みは、いまも再審事件のたびに引用され続けています。
この判例のポイント
この事件でまず押さえたいのは、最高裁が国治さん(村上国治氏)の無罪を直接認めたわけではない、という点です。特別抗告は棄却され、有罪判決はそのまま維持されました。この決定が持つ意味は、個別の結論ではなく、『再審の入口をどう判断するか』という手続きのルールを示したことにあります。
判断の骨格は3段階に整理できます。①『無罪を言い渡すべき明らかな証拠』とは、確定判決の事実認定に合理的な疑いをいだかせ、その認定を覆すに足りる蓋然性のある証拠をいうこと。②その明白性は、新証拠だけを単独で見るのではなく、もしその証拠が確定判決の裁判所の審理中に提出されていたら同じ認定に至ったかという観点から、他の全証拠と総合的に評価して判断すること。③その判断に際しても、再審開始のためには確定判決の事実認定に合理的な疑いを生ぜしめれば足りるという意味で、『疑わしきは被告人の利益に』の原則が適用されること。
答案で刑訴法435条6号の論点が出たら、いきなり『新証拠があるから再審開始』と結論に飛びつかず、上の3段階の規範をまず正確に書き、そのうえで新証拠が確定判決の認定にどう影響するか、総合評価してもなお合理的な疑いが残るかを、あてはめで検討する順序を守ることが大切です。
会話は読みやすさのための脚色です。人物名はすべて仮名で、事実関係と数値は決定文(最高裁判所第一小法廷 昭和50年5月20日決定)の認定にもとづいています。