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判例マンガ

知り得たでは足りない — 取得時効と登記

民法/最高裁 平成18年1月17日判決

時効取得と背信的悪意者

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    国道11号線沿い。平成7年、鮮魚店を開くために土地を買った夫婦がいた。

    健一(仮名)ここに店を出そう。道路に面していて、立地はいい。

    レイところが銀行から、間口が狭いと指摘されます。

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    平成8年、夫婦は隣接する土地(52平方メートル)を80万円で買い足した。

    久子(仮名)これで間口が広がりますね。

    みょうぶ登記簿も確認して、ちゃんとお金を払って買ったんだ。何も問題なさそうだけど。

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    だが、その土地の大部分は、西隣の会社の建物への専用進入路として使われていた。

    レイ前々の持ち主が昭和48年3月からこの土地を自分の物と信じて使い始め、昭和61年に次の持ち主がコンクリート舗装、平成3年に西隣の会社が引き継いでいました。

    健一(仮名)……20年以上、ずっと『道』として使われていたのか。

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    会社側は、時効による所有権の取得を主張した。

    誠次(仮名)昭和48年から数えて20年、平成5年3月にはすでに時効が完成している。この土地はうちのものだ。

    久子(仮名)そんな……私たちは正式に登記を確認して買ったのに。

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    ここで確認しておきたい、時効と登記の原則。

    レイ民法162条は、20年(善意無過失なら10年)の占有で所有権を時効取得できると定めています。そして民法177条は、不動産の権利の変動は登記をしなければ第三者に対抗できないとする条文です。

    レイ判例はこの二つを、時効完成の前か後かで整理しています。完成前に権利を得た人には、占有者は登記なしで対抗できる。完成後に権利を得た人には、原則として登記が必要です。

    みょうぶ夫婦が土地を買ったのは平成8年。時効完成(平成5年3月)の後だ……。

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    原則どおりなら、登記を持つ夫婦が勝つはずだった。

    健一(仮名)撤去してほしい。この舗装は、うちの土地の上にある。

    誠次(仮名)応じられない。うちが時効取得した土地だ。

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    控訴審・高松高裁(平成16年10月28日判決)は、会社側の時効取得を認めた。

    レイ高松高裁は『調査をすれば時効取得の事実を容易に知り得た』として、夫婦側の請求を退けました。

    久子(仮名)調べれば分かった……それだけで、負けてしまうんですか。

  8. 8 / 12

    最高裁で問われたのは、この一点だった。

    みょうぶ『調べれば分かった』というだけで、登記を持つ人が負けちゃうの? それって、どこまでも遡れちゃわない?

    レイそこが、この事件の核心です。『知り得た可能性』と『現実に知っていたこと』は、法的にはまったく違う水準なんです。

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    最高裁第三小法廷。平成18年1月17日。

    裁判長原判決を破棄し、本件を高松高等裁判所に差し戻す。

    誠次(仮名)……破棄、差戻し?

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    最高裁が示した基準は、こうだった。

    レイ判決は『乙が、当該不動産の譲渡を受けた時点において、甲が多年にわたり当該不動産を占有している事実を認識しており、甲の登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情が存在するときは、乙は背信的悪意者に当たる』と述べました。

    レイさらに『少なくとも、乙が甲による多年にわたる占有継続の事実を認識している必要がある』とも述べています。

    みょうぶつまり、ただ『調べれば分かった』ではダメで、本当に『知っていた』ことが必要……。

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    高松高裁は『知り得た』の水準で判断していた。最高裁はそれを破棄した。

    レイ高松高裁の判断は、調査すれば分かる可能性があったという水準にとどまっていました。最高裁は、占有継続の事実を買主が現実に認識していたことまで必要だとして、原判決を破棄しました。

    健一(仮名)じゃあ、僕たちが本当に知っていたかどうかから、もう一度……。

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    紙の権利(登記)と、20年の暮らし。

    レイ民法162条1項・2項が時効取得を、177条が対抗要件を定めています。この事件は、完成前・完成後の原則に『背信的悪意者』という信義則上の例外を加えた一件です。

    みょうぶ登記があれば絶対安全、ってわけじゃないんだ。

    レイはい。登記だけに頼らず、現実に何を知っていたかが問われる場面がある——それがこの判例の一番の教えです。

この判例のポイント

この事件を理解する鍵は、時効完成の前後で第三者への対抗関係が変わるという大枠を先に押さえることです。完成前に権利を得た第三者には登記なくして対抗できる、完成後の第三者には原則として登記が必要——この原則があるからこそ、本件の『例外』が際立ちます。

最高裁が本件で加えたのは、原則をひっくり返す新しいルールではなく、『登記が必要』という原則の中に信義則の観点から限定を加えたものだという位置づけが重要です。背信的悪意者にあたるには、買主が占有継続の事実を『現実に認識していた』ことが必要であり、『調査すれば知り得た』という可能性の水準では足りません。

答案では、①民法162条の時効取得の要件を確認する、②起算点(占有開始時)から数えて時効完成の前か後かを特定する、③完成前なら登記不要・完成後なら原則登記必要という分岐に乗せる、④完成後の譲受人については背信的悪意者にあたらないか(占有の事実を現実に認識していたか、登記の欠缺の主張が信義に反するか)を事実に即して検討する、という順序で書くと筋が通ります。

会話は読みやすさのための脚色です。当事者の人物名はすべて仮名で、事実関係と判決文の引用部分は判決文の認定・原文にもとづいています。