判例マンガ
法律が裁かれた日 — 尊属殺重罰規定違憲判決
憲法/最高裁判所大法廷 昭和48年(1973年)4月4日判決
尊属殺人罪(刑法200条)の法定刑を死刑・無期懲役のみに限ったことは、憲法14条1項の法の下の平等に違反するか
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最高裁判所大法廷。法律そのものが、憲法という尺度で裁かれようとしていた。
レイ今日は、刑法の条文そのものが違憲とされた判決です。
みょうぶ条文そのものが違憲? 事件じゃなくて、法律が裁かれたの?
レイはい。昭和48年、最高裁判所大法廷の判決です。
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被告人の女性は、14歳のころから実父による性的な虐待を受けていた。
レイ逃げようとしても連れ戻され、実父との間に5人の子をもうけるに至りました。
みょうぶ5人って……どれくらいの間、そんな生活が続いたの?
レイ判決文は『10余年間、夫婦同様の生活を強いられ』たと認定しています。
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やがて彼女は、職場で出会った男性との結婚を望むようになった。
雪乃(仮名)今度こそ、ちゃんとした家庭を持ちたい……
レイところが実父は、これに激しく反対しました。
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父は暴力と脅迫、事実上の監禁で、関係を断とうとした。
辰造(仮名)お前は儂のものだ。よそへなど行かせん。
雪乃(仮名)もう、限界だった……
レイ追い詰められた末に、彼女は実父を殺害し、その場で自首しました。
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彼女に適用されたのは、当時の刑法200条——尊属殺人罪だった。
レイ『自己又ハ配偶者ノ直系尊属ヲ殺シタル者ハ死刑又ハ無期懲役ニ処ス』。
みょうぶ死刑か無期懲役だけ? 選べる幅がないの?
レイ普通殺人罪(刑法199条)なら当時、3年以上の有期懲役という選択肢もあり、執行猶予を付けられました。200条には、それがありません。
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争点は、親を殺した場合だけ特別に重く罰することが、法の下の平等に違反しないか、だった。
みょうぶ親を大事にしましょう、ってそれ自体は悪いことじゃないよね?
レイそこが今日いちばん難しいところです。目的が立派に見えても、手段が行き過ぎていれば違憲になり得る——それがこの事件の問いです。
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下級審の判断は、割れた。
レイ第一審の宇都宮地裁は、200条を違憲と判断し199条を適用、執行猶予をつけました。
レイところが控訴審の東京高裁は200条を合憲としたうえで酌量減軽のみ、懲役3年6月の実刑としたんです。
みょうぶ同じ事件なのに、結論が全然違う……
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昭和48年4月4日。最高裁判所大法廷は、上告審の判断を下した。
裁判長原判決を破棄する。
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最高裁は、まず立法目的そのものについて述べた。
レイ『尊属に対する尊重報恩は、社会生活上の基本的道義というべく……刑法上の保護に値する』。
レイつまり、親を敬い恩に報いることを刑法で特に保護すること自体は、不合理な差別とはいえない、という判断です。
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しかし、手段については——
レイ『尊属殺の法定刑を死刑又は無期懲役刑のみに限つている点において、その立法目的達成のため必要な限度をはるかに超え……著しく不合理な差別的取扱いをするものと認められ、憲法14条1項に違反して無効である』。
みょうぶ目的はいいけど、罰の重さが行き過ぎてた、ってことか。
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刑法200条は無効となり、最高裁は普通殺人罪(刑法199条)を適用した。
レイ心神耗弱を理由に刑を減軽し、結論は懲役2年6月、執行猶予3年です。
みょうぶ一審とほぼ同じ結論に、最高裁も戻ってきたんだ。
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15人の裁判官の意見も、一枚岩ではなかった。
レイ多数意見8名は『目的は合理的、手段が違憲』。6名の意見は、尊属を特別扱いすること自体に踏み込んで疑問を示しました。そして下田裁判官1名は、200条は合憲だとする反対意見でした。
みょうぶ結論は同じ違憲でも、理由づけは三つに分かれてたんだね。
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この判決によって、日本の裁判所は初めて法律の規定そのものを違憲と判断した。
レイ憲法14条1項——『すべて国民は、法の下に平等であって……差別されない』。
レイただし条文の削除は、平成7年(1995年)の刑法改正まで、判決から22年かかりました。
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違憲判決と、条文が消えるまでの22年間。
みょうぶ判決が出ても、すぐには条文が消えないんだ……
レイ違憲審査権は『適用しない』ことはできても、条文を削るのは国会の仕事です。それも、この事件が教えてくれることのひとつです。
この判例のポイント
この判決でおさえるべきは「目的と手段を分ける」という審査の型です。尊属を敬い恩に報いるという立法目的そのものは、最後まで否定されていません。否定されたのは、その目的を実現する手段——法定刑を死刑と無期懲役だけに限り、執行猶予を構造上不可能にしたこと——でした。
判断の材料は二段階に整理できます。①立法目的に合理性があるか(尊属への尊重報恩は社会生活上の基本的道義として保護に値する)、②その目的を実現する手段が必要な限度を超えていないか(死刑・無期懲役のみに限定し、普通殺人罪(199条)の法定刑と比べて著しく不均衡)。目的が合理的でも、手段が均衡を欠けば違憲になる、というのがこの判決の骨格です。
答案では、まず区別の存在を指摘し、合理的根拠の有無を検討する枠組みを示したうえで、目的の検討→手段の検討という順序で書きます。いきなり「重すぎるから違憲」と書くと、何と比較して重すぎると評価したのか(普通殺人罪の法定刑との比較)が読み手に伝わりません。15人の裁判官の意見が多数意見・意見・反対意見の3つに分かれたことも、理由づけの違いとして触れておくと評価されます。
会話は読みやすさのための脚色です。被告人・父の人物名はすべて仮名で、事実関係と数値は判決文の認定にもとづいています。
出典
- 最高裁判所大法廷 昭和48年4月4日判決(尊属殺重罰規定違憲判決・刑集27巻3号265頁)
- 日本国憲法14条1項(新しいタブで開く)
- 刑法199条(新しいタブで開く)
- 刑法200条(平成7年削除)