判例マンガ
鳥居はだれのものか — 空知太神社訴訟(砂川政教分離訴訟)
憲法/最高裁判所大法廷 平成22年(2010年)1月20日判決(平成19年(行ツ)第260号)
市有地を無償で神社施設の敷地として使わせる行為が、政教分離原則(憲法89条・20条1項後段)に違反するかどうかの判断基準
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北海道砂川市。国道沿いに、小さな神社が建っている。
レイ鳥居があって、祠があって、ふつうの神社に見えます。でも——この土地、実は市が所有しているんです。
みょうぶえ、市有地に神社があるの!?
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はじまりは明治25年(1892年)ごろ。地域の住民が、五穀豊穣を願って祠を建てた。
レイ明治30年(1897年)には神社として整えられ、天照大神の分霊が祭られました。地元の人たちが、代々守ってきた神社です。
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昭和23年(1948年)ごろ、隣の小学校の拡張計画で、神社は移転を迫られた。
D(仮名)儂の土地を、神社の移転先として使ってくれ。
レイ地元住民のD(仮名)さんが、自分の土地を提供したんです。そして昭和28年(1953年)、固定資産税の負担を解消するため、この土地を町に寄附しました。
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町は寄附を受け入れ、『祠などの施設のために無償で使わせる』と議決した。
みょうぶ無償で……それが、ずっと続いたの?
レイ昭和45年(1970年)には市の補助金で会館が新築され、鳥居も建て直されました。神社は、ごく自然に、市有地の上にあり続けたんです。
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いまも年3回、初詣・春祭り・秋祭りが行われている。
レイ氏子集団が祭りを取り仕切り、総代・世話役あわせて20人。近くの神社から宮司が呼ばれ、のぼりが立てられます。会館の使用料は年6万円払っていますが、土地の対価は一度も払っていません。
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この状態に、ひとりの住民が声をあげた。
住民(仮名)市有地を無償で神社に使わせ続けるのは、憲法の政教分離原則に反する! 使用貸借契約を解除し、撤去を求めるべきだ!
レイ地方自治法242条の2にもとづく住民訴訟です。『市が撤去を求めないのは違法だ』と訴えました。
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政教分離は、国と宗教を『完全に』切り離すという意味ではない。
みょうぶえ、そうなの? てっきり一切関わっちゃダメなのかと。
レイ文化財や観光資源として寺社を保護することもありますよね。国と宗教のかかわり合いには、いろんな形がある——だからこそ、どこからが『行き過ぎ』かを判断する物差しが必要なんです。
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一審・二審(札幌地裁・札幌高裁)は、ともに違憲と判断した。
レイ市が撤去請求をしないことは、財産管理を違法に怠るものだ——そう結論づけたんです。市は、最高裁に上告しました。
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平成22年(2010年)1月20日、最高裁判所大法廷。
裁判長当該宗教的施設の性格、無償提供に至った経緯、提供の態様、これらに対する一般人の評価等、諸般の事情を考慮し、社会通念に照らして総合的に判断すべきである。
レイそれまで使われてきた『目的効果基準』ではなく、もっと幅広い事情を総合的に見るという枠組みを、このケースのために示したんです。
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この基準を、事件にあてはめると——
レイ鳥居・地神宮・祠は一体として神道の神社施設。氏子集団は、憲法89条のいう『宗教上の組織』にあたる。そこに市が対価なく土地を使わせ続けているのは、特別の便益を与えていると評価されてもやむを得ない。
みょうぶ……違憲、ってこと?
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最高裁の結論は、ふたつに分かれていた。
レイ①この無償提供は憲法89条・20条1項後段に違反する——これは認めました。でも②『だから撤去しなければならない』とまでは言わなかったんです。
みょうぶ違憲なのに、撤去しなくていいの?
レイ撤去以外にも、土地を売る・貸すといった是正の方法がありうる。市にはその選択の余地がある、として札幌高裁に審理をやり直させたんです。
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差し戻し後、市は土地の一部・52平方メートルを氏子総代長に有償で貸す方法を選んだ。
レイ年額3万5000円ほどの賃料。鳥居と祠の敷地だけを区切って貸すこの方法は、のちに最高裁で『違憲状態を解消する手段として合理的だ』と認められました。
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この判決は、政教分離の『ものさし』を変えた一件として知られている。
レイ憲法89条と20条1項後段。『全か無か』ではなく、事情を総合して判断する——その後の政教分離訴訟の基本的な型になりました。
みょうぶ鳥居ひとつから、憲法の物差しが変わったんだ……
この判例のポイント
この判決の大きな意味は、政教分離が問題になる場面のすべてに同じ基準を使うのをやめた点にあります。昭和52年の津地鎮祭事件以来、国や自治体の行為が『宗教的活動』にあたるかどうかは『目的効果基準』(行為の目的が宗教的意義を持つか、効果が宗教への援助・助長になるか)で判断されてきました。しかし本件のような『公有地を無償で宗教施設に使わせ続ける』という財産提供型の事案では、最高裁はこの基準を使わず、施設の性格・無償提供に至った経緯・提供の態様・一般人の評価などの事情を総合的に考慮する、という新しい枠組みを示しました。
もうひとつ重要なのは、『違憲』と『撤去が必要』を切り離した点です。最高裁は無償提供そのものは違憲だと認めましたが、違憲状態を解消する方法は撤去に限らず、土地の譲渡・有償貸付けなど他の合理的な手段もありうるとして、具体的な是正手段の選択を自治体の裁量に委ね、審理を高裁に差し戻しました。実際にその後、市は土地の一部を有償で貸す方法を選び、この手段が合理的だと最高裁で認められています。
答案では、①政教分離原則は国と宗教のかかわり合いを一切禁じるものではないことを確認したうえで、②本件のような財産提供型の事案では目的効果基準ではなく総合考慮の基準を用いることを示し、③施設の性格・無償提供の経緯・提供の態様・一般人の評価という要素を事実にあてはめて違憲性を判断する、という順序で書くと筋が通ります。目的効果基準とこの総合考慮基準は適用場面が異なる点を書き分けられると、理解の深さが伝わります。
会話は読みやすさのための脚色です。登場する住民・提供者の名はすべて仮名とし、判決文の記号表記(D・Eなど)を踏まえつつ混同しないよう整理しました。事実関係と数値は判決文の認定にもとづいています。
出典
- 最高裁判所大法廷 平成22年1月20日判決(民集64巻1号1頁)(新しいタブで開く)
- 最高裁判所大法廷 昭和52年7月13日判決(津地鎮祭事件・民集31巻4号533頁)
- 日本国憲法20条1項・89条(新しいタブで開く)