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判例マンガ

笛とだ行進 — 徳島市公安条例事件

憲法/最高裁判所大法廷 昭和50年(1975年)9月10日判決

集団示威行進を規制する市条例の規定が罪刑法定主義(憲法31条)に反し不明確でないか、条例が道路交通法に違反しないかが争われた事件

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    1968年(昭和43年)12月、徳島市。師走の街を、デモ隊が行く。

    レイ今日の舞台は法廷劇場ではなく、徳島市の街路です。

    みょうぶ街路? 判例なのに道端が舞台なの?

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    青年労働者や学生ら約300名が、基地撤去などを訴えて集団示威行進をしていた。

    レイ行進は道路交通法にもとづき、警察署長の許可を受けていました。ただし条件つきです。

    みょうぶ条件?

    レイ『だ行進、うず巻行進、ことさらなかけ足又はおそ足行進、停滞、すわり込み、先行てい団との併進、先行てい団の追越し及びいわゆるフランスデモ等交通秩序を乱すおそれがある行為をしないこと』。

    みょうぶ長い……!

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    午後6時36分ごろ。先頭集団、約80名が動き出した。

    レイ新町橋西側の車道、幅いっぱい約8メートルを使って、だ行進が始まりました。

    浩二(仮名)そら、足並みそろえて——行くぞ!

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    浩二は隊列の外、先頭集団のすぐ近くにいた。

    浩二(仮名)(笛を吹き、両腕を前後に大きく振る)

    レイ判決文は、浩二さんが自らもだ行進をし、笛を吹き、両腕を前後に振って合図し、周りの行進者にだ行進をさせるよう刺激を与えた——と認定しています。

    みょうぶそれだけで犯罪になるの? 旗振りみたいなものじゃ……

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    同じ合図は、約35メートル先でも繰り返された。

    レイ起訴されたのは二つの罪です。ひとつは道路交通法違反。もうひとつは、徳島市公安条例3条3号『交通秩序を維持すること』違反をあおった、せん動の罪。

    みょうぶ条例のほうは、何がダメなの?

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    第一審は、ここで立ち止まった。

    レイ第一審・徳島地裁は、道交法違反は有罪としましたが、条例違反は無罪としたんです。

    みょうぶ無罪!? なんで片方だけ?

    レイ『交通秩序を維持すること』という文言だけでは、何をしたら犯罪になるのか具体的にわからない——罪刑法定主義に反し、憲法31条違反だと判断したからです。

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    罪刑法定主義とは、何が犯罪で、どんな刑が科されるかを、あらかじめ法律で定めておかなければならないという原則。

    レイ条文があいまいだと、何が処罰されるか国民にはわからず、取り締まる側の恣意にもゆだねられてしまう。だから『明確性』が要るんです。

    みょうぶたしかに『交通秩序を維持すること』だけじゃ、具体的に何がアウトか、ピンとこないかも……

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    控訴審・高松高裁も、第一審の判断を支持した。検察官は、最高裁に上告した。

    みょうぶ二回連続で無罪なんだ。これはもう決まりじゃない?

    レイところが、最高裁大法廷は違う結論を出すんです。

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    最高裁判所大法廷 昭和50年9月10日判決。

    裁判官原判決及び第一審判決を破棄する。被告人を罰金一万円に処する。

    浩二(仮名)……逆転、有罪か。

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    最高裁はまず、条例が道路交通法に違反しないかを検討した。

    レイ条例が国の法律に違反するかは、規制する対象や文言を見比べるだけでなく、それぞれの趣旨・目的・内容・効果を比較して、矛盾抵触があるかどうかで決める——これが最高裁の示した物差しです。

    みょうぶ道交法は交通秩序だけが目的。でも条例は、もっと広い『地方公共の安寧と秩序』が目的なんだね。

    レイその通りです。目的が違うので、同じ場面を規制していても矛盾はしない——条例は有効だと判断されました。

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    次に、条例の文言が不明確かどうか。

    レイ最高裁は、通常の判断能力を持つ一般人が、具体的な場合にその行為が規定にあたるかどうかを読みとれる基準があれば足りる、としました。

    みょうぶ絶対的に明確じゃなくても、OKなんだ。

    レイそして『交通秩序を維持すること』とは、ふつうに整然と行われるデモに伴う程度を超えて、ことさらに交通秩序を乱す行為を避けよ、という意味だと読みとれる——だから明確性を欠くとはいえない、としたんです。だ行進やうず巻行進は、まさにその典型だと。

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    この事件で試されたのは、事実関係そのものより「条文の言葉」だった。

    レイ憲法31条——『何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない』。この条文が、刑罰法規には明確な基準が要ると要求しているんです。

    みょうぶこの事件の『一般人が読みとれる基準かどうか』という考え方、どこかで聞いた気が……

    レイ『徳島市公安条例事件の基準』と呼ばれて、その後も不明確性が争われるたくさんの事件で使われ続けている物差しなんですよ。

この判例のポイント

この事件のポイントは二段構えです。①条例が国の法律に違反しないか(地方自治法14条1項)、②条例の文言そのものが罪刑法定主義・明確性の原則(憲法31条)に反しないか——性質の違う二つの問いが、同じひとつの条文をめぐって争われました。

最高裁が示した物差しも二つあります。条例と法律の抵触は「対象事項と文言の比較」だけでなく「趣旨・目的・内容・効果の比較」で判断すること。そして不明確性は「通常の判断能力を有する一般人が、具体的場合にその行為が規定にあたるかを読みとれる基準があるか」で判断すること。どちらも、この事件のあと数多くの判例で繰り返し引用されている基準です。

答案での書き方: 刑罰法規の文言が争われたら、いきなり「不明確だから違憲」と書かず、①規範定立(通常人基準)→②当てはめ(問題の文言が具体的に何を禁じていると読みとれるか)の順で書きます。条例と法律の抵触が問われたときも同様に、①趣旨・目的・内容・効果を比較する規範を立てたうえで②本件への当てはめを書く、という型を崩さないことが大切です。

会話は読みやすさのための脚色です。被告人の名はすべて仮名で、行為・数値・条文は判決文の認定にもとづいています。