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判例マンガ

秘稿、雑誌に載る — 「四畳半襖の下張」事件

刑法・憲法/最高裁判所第二小法廷 昭和55年(1980年)11月28日判決(昭和54年(あ)第998号)

文芸雑誌に掲載された戯作の『わいせつの文書』該当性と、その判断基準

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    昭和47年(1972年)、ある文芸雑誌の編集部。

    レイ『面白半分』という雑誌をご存じですか? 人気作家が毎号持ち回りで編集長を務める、ちょっと変わった企画の雑誌でした。

    みょうぶ作家が編集長を? おもしろそう!

    レイ7月号の編集長を任されたのは、ある人気作家です。ここでは『編集長(仮名)』と呼びますね。

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    その号に載せる原稿として、編集部はある『秘稿』に目をつけた。

    レイ作家・永井荷風が書いたと伝えられる戯作『四畳半襖の下張』。荷風自身は最後まで自分の作だと認めませんでしたが、国文学者らは文体から荷風の作だと判断していました。

    みょうぶ本人が認めてない作品を、雑誌に載せちゃうんだ。

    レイええ。昭和47年7月号に、その『秘稿版』が掲載されました。

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    掲載から間もなく、わいせつ文書頒布の疑いで捜査が始まった。

    編集長(仮名)まさか、これで起訴されるとは……

    レイ起訴されたのは2人。雑誌を出す会社の社長(仮名)と、その号の編集長(仮名)です。容疑は刑法175条、わいせつ文書頒布罪でした。

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    法廷では、こんな対立が起きていた。

    検察官性的な描写があまりに露骨だ。これは『わいせつの文書』にほかならない。

    弁護側荷風という文豪の作品だ。文学的な価値を無視して、わいせつと断じるのか!

    レイ表現の自由を定めた憲法21条と、刑法175条のわいせつ規制——このふたつが正面からぶつかった裁判だったんです。

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    法廷には、著名な作家たちが弁護側の証人として立った。

    みょうぶ作家が、作家を弁護するの?

    レイ文学の世界からの援護でした。それでも検察官は『文学的価値があっても、わいせつはわいせつだ』と主張を崩しません。

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    昭和51年(1976年)、東京地方裁判所。

    裁判長被告人両名を、有罪とする。社長(仮名)に罰金15万円、編集長(仮名)に罰金10万円を命じる。

    編集長(仮名)……納得できません。控訴します。

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    昭和54年(1979年)3月20日、東京高等裁判所。控訴棄却。

    レイ二審も、一審の判断をそのまま維持しました。

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    昭和55年(1980年)11月28日、最高裁判所第二小法廷。

    裁判長本件各上告を、棄却する。

    みょうぶ……有罪が、確定しちゃうんだ。

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    最高裁が示した『わいせつ』の判断基準は、こうだった。

    レイ性に関する描写の程度と手法、それが文書全体に占める比重、思想性との関連性、構成や展開、そして芸術性・思想性による性的刺激の緩和の度合い——これらを総合し、健全な社会通念に照らして判断すべきだとしたんです。

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    そのうえで、この作品そのものをどう見たか。

    レイ性的交渉の場面を扇情的に、露骨かつ詳細に描いた部分が、文書の『中枢』を量的にも質的にも占めている。文芸的・思想的価値を考慮に入れても、主として読者の好色的興味にうったえるものだ——そう判断されました。

    みょうぶ文学的な価値があっても、それだけじゃ救われないんだ。

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    この判決は、23年前のある先例を受け継いでいた。

    レイ『徒らに性欲を興奮・刺激させ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する』——これはチャタレー事件が示した基準です。四畳半事件は、そこに『どう判断するか』という具体的な物差しを書き足したんです。

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    刑法175条は、いまも生きている。

    レイ刑法175条は、わいせつの文書、図画その他の物を頒布し、販売し、又は公然と陳列した者を処罰する規定です。どこまでが表現の自由で、どこからが規制の対象か。その境界は、インターネットの時代になっても問われ続けています。

    みょうぶ半世紀前の裁判が、今につながってるんだね。

この判例のポイント

この事件の核心は『文学的価値があるかどうか』と『わいせつかどうか』を、別々の問いとして切り離さなかった点です。弁護側は荷風という文豪の作品であることを強調しましたが、最高裁は『文芸的・思想的価値を考慮に入れても』なお、性的描写が文書の中枢を占めているならわいせつにあたる、という立場を取りました。芸術性は、わいせつ性の判断材料のひとつではあっても、それだけで免罪符になるわけではないのです。

判断の物差しは5つに整理できます。①性に関する描写の程度と手法、②その描写が文書全体に占める比重、③文書に表現された思想等と描写との関連性、④文書の構成や展開、⑤芸術性・思想性による性的刺激の緩和の程度。この5つを総合したうえで『主として読者の好色的興味にうったえるものか』を、その時代の健全な社会通念に照らして判断する——これが四畳半事件の枠組みです。

答案では、まず昭和32年のチャタレー事件が示した定義(徒らに性欲を興奮・刺激させ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの)を規範として掲げ、そのうえで四畳半事件が加えた5つの考慮要素を使って事実をあてはめる、という二段構えで書くと筋が通ります。『芸術性があるから無罪』『性描写があるから有罪』という単純な二択で書くと、総合判断という枠組みそのものを書き漏らすことになるので注意してください。

会話は読みやすさのための脚色です。実際に起訴・有罪判決を受けた編集長・社長の名はすべて仮名とし、判決文に登場する実名は使っていません。永井荷風は作品の原作者として広く知られる歴史上の人物であり、事件を特定するために実名で記載しています。事実関係と数値は判決文および関連報道の認定にもとづいています。