判例マンガ
一日遅れた送達 — 郵便法違憲判決
憲法・国家賠償法/最高裁判所大法廷 平成14年(2002年)9月11日判決
郵便業務従事者の故意・過失による損害について国の賠償責任を免除・制限していた郵便法の規定は、憲法17条に違反するか
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平成10年(1998年)4月。郵便配達員が運ぶのは、手紙だけではない。
レイ今日は、郵便配達のミスが最高裁まで届いた事件です。
みょうぶ郵便配達のミス……それだけで裁判に?
レイ『特別送達』という、訴訟手続き専用の郵便があるんです。裁判所の命令や通知は、これでしか届けられません。
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誠(仮名)が社長を務めるX社は、浩二(仮名)に対して確定判決を持っていた。
レイX社は浩二(仮名)に対し、1億3969万円あまりの支払いを命じる確定判決を得ていました。
誠(仮名)払ってもらわねば困る。だが、本人は一向に応じない。
レイそこでX社は、そのうち7200万円を請求債権として、浩二(仮名)の財産を差し押さえることにしました。
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平成10年4月10日。神戸地方裁判所尼崎支部に、債権差押命令の申立て。
レイ狙いは3つ。銀行預金、給与、そして借りている部屋の敷金返還請求権です。裁判所はその日のうちに差押命令を出しました。
みょうぶあとは相手の銀行や会社に届けば、差押え成立……だよね?
レイそう、届けば。
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命令は、特別送達として郵便局員の手に託された。
レイ4月14日正午、浩二(仮名)の勤務先には、きちんと送達されました。
レイところが——B銀行塚口支店への送達は、同じ日には届かなかったんです。
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郵便局員が、特別送達郵便を銀行の郵便受けに誤って投函していた。
みょうぶえ、郵便受け!? 特別送達って、ちゃんと手渡しするものじゃないの?
レイ本来は受取人に確認して渡すべきものです。それが気づかれないまま、翌15日午前11時になってようやく届きました。1日の遅れです。
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その1日のうちに、浩二(仮名)は動いた。
浩二(仮名)……まだ差し押さえられていない。今のうちに。
レイ14日のうちに、浩二(仮名)はB銀行の口座に残っていた787万3533円を、全額引き出してしまいました。
みょうぶ1日遅れただけで、差押えが空振りに……
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X社は国を訴えた。
誠(仮名)郵便局員の過失で、取れるはずだった金が取れなくなった。国に賠償してもらう。
レイ国家賠償法1条1項にもとづく請求です。けれど、ここに立ちはだかる法律がありました。
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郵便法68条・73条(当時)。
レイ当時の郵便法は、書留郵便や特別送達の事故について、国の賠償責任を大きく免除・制限していたんです。
レイ理由は郵便事業の特殊性——全国あまねく、安い料金で、公平に届ける。その仕組みを守るための制度とされていました。
みょうぶでも、それだとミスがあっても誰も責任を取らないってこと?
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一審・二審(大阪高裁)は、いずれもX社の請求を退けた。
レイ郵便法の規定は憲法に違反しない、だから請求も認められない——大阪高裁までは、そう判断されました。
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最高裁大法廷 平成14年9月11日。
裁判長原判決を破棄し、大阪高等裁判所に差し戻す。
みょうぶ破棄!? 逆転したの?
レイはい。ただし『X社の勝ち』と決まったわけではなく、『審理をやり直せ』という差し戻しです。
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最高裁が見たのは、免責の範囲そのものだった。
レイ書留郵便については、郵便業務従事者の故意や重大な過失による損害についてまで国の責任を免除する部分は、行き過ぎだと判断されました。
レイ憲法17条は『公務員の不法行為により損害を受けたときは、国にその賠償を求めることができる』と定めています。免責には合理的な限度があるんです。
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そして、特別送達はさらに重く見られた。
レイ特別送達は訴訟手続きに使われる郵便です。受け取る側には、ほかに送達を受ける手段がありません。
レイだから特別送達については、軽い過失であっても国の責任を免除する部分まで、憲法17条に違反すると判断されたんです。
みょうぶ書留より、もっと厳しい基準が適用されたんだ。
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この判決のあと、郵便法は改正された。
レイ平成14年12月、郵便法は改正され、国が賠償責任を負う範囲が広げられました。
レイ法律で国の賠償責任を免除・制限できる限度を、最高裁が初めて具体的に示した判決です。
この判例のポイント
この事件でおさえるべきは、『国家賠償責任を法律で免除・制限すること自体は、ただちに違憲ではない』という前提です。郵便法68条・73条も、全部が無効とされたわけではありません。無効とされたのは、免責の範囲のうち、書留郵便では故意・重過失、特別送達ではそれに加えて軽過失にまで免責が及ぶ部分でした。
違憲判断の決め手は、①免責の目的(郵便事業の全国均一・低廉なサービスの維持)に照らした必要性と、②侵害される利益の性質・程度のバランスです。書留郵便と特別送達とで結論の重さが違うのは、特別送達が訴訟手続きに不可欠で、受送達者に代替手段がないという特殊性があったためです。
答案では、まず郵便法の免責規定が憲法17条の射程にどう関わるかを確認したうえで、『免責・制限を認める目的の正当性』『その目的を達成する手段としての免責の合理性・必要性』を、侵害される権利利益の性質や侵害の態様(故意・重過失か軽過失か)ごとに分けて検討する順序を踏みます。一律に『違憲』『合憲』と結論づけず、免責の範囲を書留と特別送達とで書き分けることが得点のポイントです。
会話は読みやすさのための脚色です。登場人物の名前はすべて仮名で、事実関係と数値(1億3969万円・7200万円・787万3533円・4月14日/15日)は、裁判所の判決全文および台湾司法院が公開する日本国最高法院裁判翻訳(同判決の事実部分の翻訳)にもとづいています。
出典
- 最高裁判所大法廷判決 平成14年9月11日(平成11年(オ)第1767号・民集56巻7号1439頁)(新しいタブで開く)
- 日本国憲法17条(新しいタブで開く)
- 郵便法68条・73条(平成14年改正前。判決文中の引用による)
- 国家賠償法1条1項(新しいタブで開く)