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判例マンガ

「提出するため」の一行 — 前科照会事件

憲法/最高裁判所第三小法廷 昭和56年(1981年)4月14日判決

弁護士会照会に応じて区長が前科等を全て報告したことは、プライバシーの侵害として違法となるか

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    自動車教習所。実技コースで、指導員が生徒に指導している。

    レイ今日の主役は、ある教習所の技能指導員です。

    みょうぶ教習所? 判例っぽくないね。

    レイでも、ここから『前科を知られない権利』をめぐる判例が生まれるんです。

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    正夫(仮名)は、この教習所の技能指導員だった。会社との間で、地位保全の仮処分と解雇をめぐる争いが、京都地裁と中央労働委員会に係属していた。

    正夫(仮名)解雇は不当だ。撤回してもらう。

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    会社の依頼を受けた弁護士が、動いた。

    弁護士弁護士法23条の2に基づき、弁護士会を通じて照会します。

    レイ弁護士会照会——弁護士が所属弁護士会を通じて、官公署などに必要事項の報告を求める制度です。

    みょうぶ何を照会したの?

    レイ正夫さんの前科と犯罪経歴です。照会書に書かれた理由は『中央労働委員会、京都地方裁判所に提出するため』、それだけでした。

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    照会は京都弁護士会から伏見区役所、そして中京区役所へ回付された。

    みょうぶ区役所まで話が回っていくんだ。

    レイ前科は、選挙資格の調査などのために作られた犯罪人名簿に記録されています。区長は、それを管理する立場でした。

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    昭和46年6月4日、中京区長は回答した。

    区長道路交通法違反11犯、業務上過失傷害1犯、暴行1犯。以上を報告します。

    みょうぶ全部答えちゃうんだ……交通違反まで?

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    会社の幹部は、この回答を関係者の前で示した。

    社長(仮名)前科を隠していたな。経歴詐称だ。

    レイ同年7月21日、会社は経歴詐称を理由に、正夫さんを予備的に解雇しました。

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    正夫(仮名)は、プライバシーの侵害だとして訴えた。

    正夫(仮名)交通違反の前科まで、なぜ会社に知られなければならないんだ。

    レイここが難しいところです。弁護士会照会は、弁護士法という法律に基づく制度。区長は、法律上の手続きに応じただけ、ともいえます。

    みょうぶ法律に従っただけなら、違法にはならないんじゃない?

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    一審・二審の判断も分かれた。

    レイ第一審は、法律に基づく公的な照会だからプライバシー侵害ではないとして、請求を棄却しました。

    レイ控訴審は一転、前科等の公表は法令上の根拠や公共の福祉の要請がある場合に限られるとして、区長の行為を違法と認め、請求の一部を認めました。

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    昭和56年4月14日。最高裁判所第三小法廷は、上告を棄却した。

    裁判長上告を棄却する。

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    最高裁は、まず前科等の性質について述べた。

    レイ『前科及び犯罪経歴は人の名誉、信用に直接にかかわる事項であり』——前科のある人にも、それをみだりに公開されない法律上の利益がある、としました。

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    そのうえで、区長の対応を検討した。

    レイ前科等が訴訟の重要な争点で、他に立証方法がない場合には、照会への回答が許されることもあります。ただし『その取扱いには格別の慎重さが要求される』。

    レイ照会の理由は『提出するため』としか書かれていませんでした。それでも区長は、犯罪の種類も軽重も問わず、前科のすべてを漫然と報告した——これが『公権力の違法な行使』と判断されたんです。

    みょうぶ制度があることと、何でも答えていいことは、別なんだ。

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    最高裁が維持した原審の結論。

    レイ慰謝料20万円と弁護士費用5万円、合計25万円の支払いが認められました。解雇による損害までは、区長に予見できなかったとして認められていません。

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    この判決には、補足意見と反対意見がついた。

    レイ伊藤正己裁判官は、前科は最も他人に知られたくない個人情報の一つで、これを保管する機関には厳格な注意義務があると補足しました。

    レイ一方、環裁判官は、区長が照会を官公署に準じて扱ったことにも相当の根拠があり、過失を問うのは酷だと反対意見を述べています。

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    前科照会事件は、プライバシー権をめぐる判例の先駆けとなった。

    みょうぶ弁護士会照会って、いまもある制度だよね?

    レイはい、今も使われています。だからこそ、この判決が示した『格別の慎重さ』という歯止めは、今も生きているんです。

この判例のポイント

この判決でおさえるべきは「制度の存在」と「個別の運用」を分けることです。弁護士会照会(弁護士法23条の2)という制度そのものは合法ですが、区長が犯罪の種類や軽重を問わず前科のすべてを漫然と報告した、という個別の運用が違法と判断されました。制度があるから何を答えてもよい、という話ではありません。

判断の材料は3つに整理できます。①前科等は名誉・信用に直接かかわり、みだりに公開されない法律上の利益がある、②照会への回答が許されるのは、前科等が訴訟の重要な争点で他に立証方法がない場合に限られる、③それでも回答には格別の慎重さが要求される。本件では照会理由が「提出するため」という一行にすぎず、区長はそれ以上の吟味なく全てを報告した点が問題視されました。

答案では、前科等のプライバシー性(名誉・信用にかかわる法律上の利益)を認定したうえで、公権力の行使に過失があったかを「格別の慎重さ」の有無で検討する順序で書きます。「法律に基づく制度だから違法ではない」と短絡させず、制度の存在と個別の運用の適法性を分けて論じることが得点の分かれ目です。伊藤裁判官の補足意見(前科は最も知られたくない個人情報)に触れると、プライバシー権の理解の深さが伝わります。

会話は読みやすさのための脚色です。登場人物の名前はすべて仮名で、事実関係と数値は判決文の認定にもとづいています。

出典