判例マンガ
更地の約束 — 建物収去土地明渡請求事件
民法/最高裁判所第二小法廷 昭和36年(1961年)2月10日判決
抵当権設定当時に土地が更地だった場合、抵当権者が建物の築造を事前に承諾していても、法定地上権(民法388条)は成立するか
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ある平らな更地。まだ、何も建っていない。
レイ今日は、土地と建物、両方の持ち主が同じだったときに起きる話です。
みょうぶ同じ人が持ってるなら、何も問題なさそうだけど?
レイその『同じ』が、あとで『別々』になったときに問題が起きるんです。
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土地の持ち主は、この更地を担保に入れて、お金を借りようとしていた。
地主(仮名)この土地を担保に、融資をお願いしたい。
金主(仮名)更地として評価すると、これくらいの額までお貸しできます。
レイ抵当権者は、担保に入る不動産を『今ある状態』で評価します。更地なら、更地の値段です。
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融資が実行され、土地には抵当権が設定された。
地主(仮名)ありがとうございます。実は、この土地に家を建てたいと思っていまして。
金主(仮名)ああ、それは構いませんよ。建てていただいて結構です。
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抵当権者は、建物を建てることを事前に承諾していた。
みょうぶ承諾してくれたんだ! じゃあ安心して家を建てられるね。
レイここが、今日いちばんの落とし穴です。
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地主は、承諾を得たとおりに、土地の上に家を建てた。
地主(仮名)よし、これでようやく自分の家が持てる。
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しかし、ほどなくして返済が滞り、抵当権が実行された。土地は競売にかけられ、別の人が買い受けた。
買受人(仮名)この土地は、競売で私が買い受けました。建物を取り壊して、土地を明け渡してください。
地主(仮名)そんな……この家は、ちゃんと承諾を得て建てたんだ!
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地主は、民法388条の『法定地上権』を主張して争った。
地主(仮名)土地と建物はもともと私のものだった。抵当権が実行されて別々になったんだから、法定地上権が成立するはずだ。
レイ民法388条前段は『土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において……その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす』と定めています。
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文言だけ見れば、地主の主張は筋が通っているように見える。
みょうぶ土地も建物も同じ人のものだったし、抵当権の実行で別々になった。条文どおりじゃない?
レイはい。ただし条文には、もう一つ隠れた前提があるんです。
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法定地上権には、判例が積み上げてきた要件がある。
レイ①抵当権設定のときに土地の上に建物が存在すること。②そのとき土地と建物が同じ所有者であること。③抵当権が設定されたこと。④実行により所有者が分かれたこと。
みょうぶ①が引っかかる……。抵当権を設定したときは、まだ更地だった。
レイそうなんです。承諾があったのは『あとで建てていいよ』という話で、『設定時にすでに建物があった』ことにはならないんです。
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最高裁判所第二小法廷 昭和36年2月10日。
裁判長上告を棄却する。
地主(仮名)承諾があったのに、それでも認められないのか……
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最高裁は、こう述べた。
レイ『土地に対する抵当権設定の当時、当該建物は未だ完成しておらず……更地としての評価に基き抵当権を設定したことが明らかであるときは、たとえ抵当権者において右建物の築造をあらかじめ承認した事実があつても、民法第388条の適用を認むべきではない』。
みょうぶ承諾があっても、関係ないって言い切ってる……
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なぜ、承諾があっても結論は変わらないのか。
レイ抵当権者は、融資の額を決めるとき、土地を『更地』として評価しています。もし後から法定地上権が成立すると認めてしまうと、その評価が土台から崩れてしまうんです。
みょうぶ更地の値段で貸したのに、あとから『借地権付きの土地』の値段しか回収できなくなる、ってこと?
レイまさにそれです。抵当権制度は、設定時に把握した担保価値を、実行のときまで守ることを前提にしています。
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『承諾』という当事者間の約束と、『客観的な評価』という抵当権の土台。
レイ承諾は、地主と抵当権者という当事者ふたりの間の主観的な合意にすぎません。でも、抵当権設定当時に土地が更地だったという事実は、誰の目にも動かせない客観的な事実です。
みょうぶ動かせない事実の方が、あとからの口約束より強いんだ。
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この基準は、建物が先にあった場合には、逆向きに働く。
レイ反対に、抵当権を設定したときにすでに建物があれば、抵当権者はその建物がある前提で担保価値を評価しています。その場合は、法定地上権は成立しうるんです。
みょうぶ分かれ目は、いつも『抵当権を設定した、その瞬間』なんだね。
レイはい。法定地上権は建物を守る制度であると同時に、抵当権者が最初につかんだ担保価値を後から減らさないための制度でもあるんです。
この判例のポイント
この事件でおさえるべきなのは「所有者が同じだったか」ではなく「抵当権を設定した、その時点で土地に建物があったか」という一点です。民法388条は『土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合』と定めていますが、判例はここに『抵当権設定当時、すでに建物が存在すること』という時点の限定を読み込んでいます。
本件で特に重要なのは、抵当権者の承諾があったという事情が結論を変えなかったことです。承諾は当事者間の主観的な合意にすぎず、抵当権設定当時に更地として担保価値が評価されたという客観的な事実には勝りません。この優先関係を理解しているかどうかが、応用問題で問われます。
答案では、①民法388条の文言から4要件(建物の存在・所有者の同一性・抵当権の設定・実行による所有者の分離)を確認し、②本件で問題になるのが①の建物の存在であることを特定し、③抵当権制度が担保価値の把握とその後の予測可能性を守る趣旨であることから規範を立て、④抵当権設定当時の土地の客観的な状態をあてはめ、⑤承諾などの主観的事情が結論に影響しないことを述べる、という順序で書くと筋が通ります。承諾の有無から書き始めると、客観的な基準点を見失います。
会話は読みやすさのための脚色です。人物名はすべて仮名で、事実関係と判旨の引用は判決文の認定にもとづいています。
出典
- 最高裁判所第二小法廷 昭和36年2月10日判決(民集15巻2号219頁・建物収去土地明渡請求事件)
- 民法388条(法定地上権)(新しいタブで開く)