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法定地上権をわかりやすく — 更地に抵当権を設定した後に家を建てても、なぜ土地を借りられないのか

土地と建物、両方の持ち主が同じ人だったのに、抵当権が実行されて土地だけ、あるいは建物だけが競売にかけられると、建物の持ち主は土地を使う権利を失い、建物を壊すしかなくなってしまいかねません。民法388条はこれを防ぐため、一定の要件を満たせば建物のために地上権が設定されたものとみなすという制度(法定地上権)を用意しました。ただし最高裁判所は昭和36年2月10日、抵当権を設定した時点で土地が更地だった場合には、抵当権者がその建物を建てることを事前に承諾していたとしても、後から建物が建っても法定地上権は成立しないと判断しています。

更地に建てた家なぜ守られない — 法定地上権の成立要件
建物のない平らな更地

法定地上権とは — 民法388条

民法388条は次のように定めています。e-Gov法令検索(民法)(新しいタブで開く)で条文の全体を確認できます。

土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。この場合において、地代は、当事者の請求により、裁判所が定める。

条文の文言から、成立には次の4つの要件が導かれます。

要件内容
①抵当権設定当時、土地の上に建物が存在すること
②抵当権設定当時、土地と建物が同一の所有者に属していること
③土地または建物の一方あるいは双方に抵当権が設定されたこと
④抵当権の実行(競売)により、土地と建物の所有者が別々になったこと

この4要件のうち、実務で最も争われてきたのが①です。「抵当権を設定した時点で建物があったかどうか」を、どこまで厳密に判定するのかという問題です。

何が問題になったのか — 更地への抵当権と、後から建てた建物

土地の所有者が金融機関などから融資を受けるとき、担保に入れる土地がまだ更地であることは珍しくありません。抵当権者は、その土地を「建物の建っていない更地」として評価し、価格を算定して融資額を決めます。

ところが融資後、所有者がその土地に建物を建て、後になって抵当権が実行されたとします。もし法定地上権が成立するなら、土地の買受人は建物のために土地を貸し続けなければならず、更地として評価していたはずの土地の価値は大きく下がってしまいます。抵当権者は、更地の価格を基準に融資したのに、実行段階になって借地権付き土地の価格しか回収できなくなるおそれがあるのです。

本件では、抵当権者が建物の建築をあらかじめ承諾していたという事情がありました。それでも法定地上権は成立するのか、というのが最高裁に持ち込まれた争点です。

裁判所は何と言ったか — 最高裁判所第二小法廷 昭和36年2月10日判決

更地への抵当権から建物収去までの流れ
承諾を得て建てても法定地上権は成立しない
項目内容
裁判所最高裁判所第二小法廷
判決日昭和36年(1961年)2月10日
判例集民集15巻2号219頁
事件名建物収去土地明渡請求事件
論点法定地上権の成立要件(抵当権設定当時の建物の存在)
結論法定地上権は成立しない(建物収去義務を認容)

最高裁は、次のように判断しました。

土地に対する抵当権設定の当時、当該建物は未だ完成しておらず、しかも原判決認定の事情に照らし更地としての評価に基き抵当権を設定したことが明らかであるときは、たとえ抵当権者において右建物の築造をあらかじめ承認した事実があつても、民法第388条の適用を認むべきではない

つまり、抵当権を設定した時点で更地だったことが土地の評価の前提になっている以上、抵当権者が「建物を建ててよい」と言っていたという事情があっても、法定地上権の成立は認められないということです。承諾という当事者間の合意よりも、抵当権設定時に更地として評価されたという客観的な事実が優先されます。

なぜこの結論になるのか — 抵当権者の予測可能性を守る

この判断の理由は、抵当権制度が担保価値の把握を目的とすることにあります。抵当権者は、担保に入れる不動産の価値をどう評価するかによって、貸せる金額を決めます。更地の評価額と、法定地上権の負担が付いた土地の評価額は大きく異なります。

もし「承諾さえあれば法定地上権が成立する」となれば、抵当権者は口頭や書面での承諾の有無まで常に警戒しなければならず、更地への融資そのものが萎縮しかねません。抵当権設定時の担保価値をそのまま実行時にも確保できるようにすることが、法定地上権制度が抵当権者の利益を害さない範囲でしか働かないことの土台になっています。

条文が「土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合」とだけ定め、「承諾」という要件を置いていないことも、この読み方と整合します。承諾は当事者間の主観的な合意にすぎず、抵当権設定当時の建物の存否という客観的な事実に置き換わるものではない、という理屈です。

建物が先にあった場合はどう違うのか

更地だった場合と建物があった場合の対比
分かれ目は抵当権設定時の土地の状態

反対に、抵当権設定当時にすでに建物が存在していれば、抵当権者はその建物の存在を前提とした価格で担保価値を評価しているはずです。この場合は要件①を満たし、他の要件(②〜④)も充足すれば法定地上権が成立します。老朽化した建物を建て替えた場合でも、抵当権者の担保価値把握への期待を著しく害しない限り、判例上は法定地上権の成立が認められる傾向にあります。

なお、土地に複数の抵当権が設定されている場合、成立の有無を判定する基準時は最も先順位の抵当権が設定された時点とされています(最高裁昭和53年9月29日判決・民集32巻6号1210頁)。1番抵当権の設定時に更地であれば、2番抵当権の設定時に建物が建っていても、法定地上権は成立しません。抵当権の順位に応じて配当を受ける後順位の抵当権者よりも、最初に更地として担保価値を把握した先順位抵当権者の期待が優先される構造です。

この判例が決めたこと(意義)

法定地上権が成立するかどうかは、抵当権設定時点の客観的な状態で決まります。要件を整理すると、次のようになります。

  • 抵当権設定当時に建物が存在しなければ、原則として法定地上権は成立しない
  • 抵当権者の承諾があっても、この結論は覆らない
  • 複数の抵当権がある場合は、最先順位の抵当権設定時を基準に判定する

法定地上権は、建物を守るための制度であると同時に、抵当権者が更地として把握した担保価値を後から目減りさせないための制度でもあります。両者のバランスを取る基準点として、抵当権設定時という一時点に成立要件を固定したのが、この判例の意義です。

今の生活にどう効くか

不動産を担保に融資を受ける場面や、更地を購入して家を建てる場面では、この判例の考え方が実務上の注意点として現れます。

  • 更地を担保に融資を受けたあとで建物を建てる場合、その土地に将来抵当権が実行されれば、建物の所有者は土地を使う権利を失うリスクがある(抵当権者の承諾を得ていても同じ)
  • 中古の土地・建物をセットで購入する際は、抵当権がいつ、どの状態(更地か建物ありか)で設定されたのかを登記事項証明書で確認することが、将来のトラブルを避ける手がかりになる
  • 建築請負契約や住宅ローンの実務では、土地の担保評価と建物の完成時期の順序が、法定地上権の成否を左右する重要な情報として扱われている

答案ではどう書くか

法定地上権の成否を論じる順序
  1. 民法388条の文言から4要件を確認する(①建物の存在 ②所有者の同一性 ③抵当権の設定 ④実行による所有者の分離)
  2. 本件で問題となる要件を特定する(多くは①抵当権設定当時の建物の存在)
  3. 抵当権制度の趣旨(担保価値の把握と抵当権者の予測可能性)から規範を立てる
  4. 抵当権設定当時の土地の状態(更地か、建物ありか)を客観的な事実としてあてはめる
  5. 承諾等の主観的事情が結論に影響しないことに触れる
  6. 複数の抵当権がある場合は、基準となる抵当権の順位を確定する
  7. 結論として法定地上権の成否を述べる

動画で見る

法定地上権の成立要件は「レイの法廷」の制作キューにおける今後の候補です。最新の公開状況はレイの法廷でご確認ください。

よくある質問

Q. 抵当権者が建物を建てることをあらかじめ承諾していれば、法定地上権は成立しますか?

成立しません。最高裁は、抵当権設定当時に更地としての評価にもとづいて抵当権が設定されたことが明らかな場合には、抵当権者による事前の承諾があっても民法388条を適用すべきではないと判断しています。

Q. 法定地上権が成立しないと、建物はどうなるのですか?

土地の買受人から建物の収去(取り壊し)と土地の明渡しを求められる可能性があります。本件も「建物収去土地明渡請求事件」として争われました。

Q. 建物が先に建っていた場合はどうなりますか?

抵当権設定当時にすでに建物が存在していれば、要件①を満たします。他の要件(所有者の同一性・抵当権の設定・実行による所有者の分離)も充足すれば、法定地上権が成立します。

Q. 土地と建物の両方に抵当権が設定されている場合の基準はどうなりますか?

複数の抵当権が設定されている場合、成立の有無は最も先順位の抵当権が設定された時点を基準に判定されます(最高裁昭和53年9月29日判決)。

Q. 法定地上権の地代はどう決まりますか?

民法388条後段は、当事者の請求により裁判所が地代を定めると規定しています。当事者間の協議がまとまらない場合の解決手段として、裁判所が関与する仕組みが条文上組み込まれています。


本記事は判決文および公表資料にもとづく一般的な解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。

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