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判例マンガ

旗掛けの松 — 信玄公旗掛松事件

民法/大審院 大正8年(1919年)3月3日判決

権利の行使として鉄道を運行しても、その方法が『適当な範囲』を超えれば不法行為になる事件

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    山梨県、日野春。線路のそばに、一本の老松が立っていた。

    レイ武田信玄が軍旗を立て掛けたと伝わる松です。地元では『信玄公旗掛松』と呼ばれていました。

    みょうぶ軍旗を掛けた松! 歴史がありそう……

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    松が生えていたのは、ある地主、治郎(仮名)の土地。

    レイ持ち主は治郎(仮名)さんです。大切な松を、ずっと守ってきた人でした。

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    そこへ、国が鉄道を敷いた。本線と、停車用の回避線。

    レイ線路は、松のすぐそばを通ることになりました。根元から1間(約1.8メートル)未満の距離です。

    みょうぶ1間って、目と鼻の先じゃない!

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    治郎(仮名)は、線路の位置を変えてほしいと申し入れた。

    治郎(仮名)この松は、わしの先祖から守ってきた大事な木じゃ。線を少し離してくれんか。

    鉄道の担当者(仮名)申し入れは承りました。ただ、線路の位置は変えられません。

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    その後、松は少しずつ弱っていった。

    レイ原因は、機関車の煤煙と蒸気、それに振動です。大正3年(1914年)12月、松は枯れてしまいました。

    みょうぶ煙と振動で、木が枯れるなんて……

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    治郎(仮名)は、国に損害賠償を求めて訴えた。

    治郎(仮名)松を枯らしたのは国のせいじゃ。償ってもらおう。

    鉄道の担当者(仮名)鉄道を走らせるのは、国の正当な業務です。煙が出るのは営業に伴うことで、やむを得ません。

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    ここが、この事件の一番むずかしいところ。

    みょうぶでも、国は鉄道を走らせていただけでしょ? 悪いことはしてないよね。

    レイそうですね。鉄道を運行するのは、権利の行使にあたります。だからこそ、判断の焦点は『どんな方法で』行使したかになるんです。

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    大審院の法廷。大正8年3月3日。

    レイ大審院は、権利の行使について次の原則を示しました。

    レイ権利を行使する場合には、法律で認められた適当な範囲の中で行わなければならない。故意または過失によってその範囲を超え、不適切な方法を用いたために他人の権利を侵害したときは、侵害の程度に応じて不法行為が成立する。

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    判断のかなめは、松の位置と、国がとれた手段だった。

    レイ松は線路のすぐ脇で、煙や振動の害を受けやすい位置にありました。

    レイ予防の方法はあったのに、国はそれを講じず、松を枯らしてしまった。ここで、権利の行使は社会通念上許される範囲を超えた、と判断されたんです。

    みょうぶあ、『どうしても避けられない』わけじゃなかったんだ。

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    上告は棄却された。国は、賠償を支払うことになった。

    レイ国の上告は棄却され、治郎(仮名)の勝ちが確定しました。

    治郎(仮名)松は戻らんが、ようやく筋は通ったのう。

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    この判断は、いまの条文では『権利の濫用』と呼ばれている。

    レイ今の民法1条3項は『権利の濫用は、これを許さない』と定めています。ただ、この判決の時点ではまだその条文はありませんでした。

    レイそこで大審院は、不法行為(民法709条)の枠で判断したんです。

    みょうぶ条文がなくても、『やりすぎは責任を負う』という考え方はもう見えていたのね。

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    松は枯れた。権利の使い方は、法の目で問われた。

    レイ権利は、適当な範囲で使うもの。これが、信玄公旗掛松事件の教えです。

    みょうぶ権利を持っていても、やり方を誤れば責任がついてくる、ってことね。

この判例のポイント

この事件でおさえるべきなのは、「権利の行使」であることと「違法でないこと」は別だという点です。国は鉄道を運行する権利を持っていました。それでも、その行使の方法が適当な範囲を超えると、他人の権利を侵害した不法行為になりえます。

判断の材料は3つに整理できます。①松が線路のすぐ脇にあり、煤煙や振動の害を受けやすい位置にあったこと、②予防の方法がありえたのに講じられなかったこと、③その結果、松が1914年に枯れたこと。これらを合わせて、権利行使の範囲の逸脱が認められました。

答案では、まず鉄道運行が権利の行使にあたることを認めたうえで、「その方法が適当な範囲を超えたか」を検討する順序で書きます。いきなり「権利濫用だから不法行為」と書くと、権利行使の適法性と、その逸脱の判断の関係が消えてしまいます。

会話は読みやすさのための脚色です。人物名はすべて仮名で、判決の引用と判例解説にもとづく事実関係を書いています。線路と松の距離の数字は、資料によって記載が異なるため省いています。

出典