判例マンガ
駅前商店街の55メートル — 薬事法距離制限違憲判決
憲法/最高裁判所大法廷 昭和50年(1975年)4月30日判決
薬局の距離制限が、憲法22条1項の職業選択の自由に違反するか
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昭和38年(1963年)、広島県福山市。国鉄山陽本線・福山駅前の商店街。
レイこの商店街に、新しく薬局を開こうとした会社がありました。
みょうぶ駅前の商店街なら、お客さんも来やすそうだね。
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角吉商店(仮名)。福山市と広島市でスーパー・化粧品・薬品の販売業を営んでいた。
角次(仮名)駅前の店舗に、薬局を出したい。福山保健所に開設許可を申請します。
レイ昭和38年6月25日、福山市築切町の店舗を場所とする薬局の開設許可申請が出されました。
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ところが、申請の場所は薬局が密集する一角だった。
レイ一番近い既存の薬局まで、水平距離でわずか55メートル。半径200メートル以内には、13軒もの薬局がありました。
みょうぶ13軒!? そんなに薬局が集まってる場所なんだ……
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申請の翌日、法律が変わった。
レイ申請が受理された翌日の7月12日、改正薬事法が施行されました。薬局の許可条件に『配置の適正』——つまり距離制限が加わったんです。
レイ具体的な距離の基準は、広島県の条例に委ねられました。
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昭和39年(1964年)1月27日。広島県からの通知。
県担当者県条例の配置基準に適合しないため、不許可とします。
角次(仮名)……もう店舗の準備まで進めていたのに。近くに薬局が多いというだけで、開業できないのか。
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角次(仮名)は、不許可処分の取消しを求めて提訴した。
みょうぶでも、県にも言い分はあるんじゃないの? 薬局が増えすぎたら何か困ることがあるとか。
レイここが今日の核心です。『職業選択の自由』という経済的な自由権は、どこまで法律で制限してよいのか、という問題なんです。
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憲法22条1項。職業選択の自由。
レイ22条1項は『何人も、公共の福祉に反しない限り、職業選択の自由を有する』と定めています。
レイでも職業は社会や経済と関わりが深いぶん、精神的自由より規制が及びやすい、とも言われてきました。問題は、その規制が行き過ぎていないかどうかです。
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一審・広島地裁(昭和42年)は原告勝訴、二審・広島高裁(昭和43年)は逆転して県が勝訴した。
裁判長(高裁)薬事法の配置規制は、憲法22条に違反するものではない。
角次(仮名)納得できない。最高裁まで争う。
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昭和50年4月30日。最高裁判所大法廷。
裁判長原判決を破棄する。被上告人(県)の控訴を棄却する。
みょうぶ角次さん側の勝ち……!
レイ薬事法6条2項・4項の配置規制は、憲法22条1項に違反し無効、と結論づけたんです。
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最高裁は、まず規制の目的を2つに分けて検討した。
レイ主たる目的は『不良医薬品の供給の防止』。国民の生命・健康を守るための、消極的・警察的な目的です。
レイ副次的な目的は、無薬局地域・過少薬局地域への薬局進出を間接的に促すこと、とされました。
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そのうえで、目的と手段が釣り合っているかを、事実に即して検査した。
レイ判決はこう言います。薬局が偏在して競争が激しくなり、経営が不安定になり、その結果不良医薬品が供給される——この因果関係は『単なる観念上の想定にすぎず、確実な根拠に基づく合理的な判断とは認めがたい』。
みょうぶ『きっとそうなるはず』という想像だけじゃダメ、ってことだね。
レイそして、不良医薬品対策なら、行政の立入検査や監督といった、開業そのものを制限しないもっと緩やかな方法があるはずだ、としたんです。
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距離制限のような強い規制は、それだけの根拠がなければ許されない。
レイ『無薬局地域等の解消を促進する目的のために、設置場所の地域的制限のような強力な職業の自由の制限措置をとることは、目的と手段の均衡を著しく失する』。
レイこれが、最高裁が示した結論の核心です。
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この判決を受けて、昭和50年7月、薬事法から距離制限の規定が削除された。
みょうぶ『安全のため』って言われたら、なんとなく納得しちゃいそうなのに。
レイでも最高裁は、その『なんとなく』を許さなかったんです。目的が立派でも、手段が釣り合っているかは別に検査する——この判決は、憲法上の自由を守る法律が実際にどう働いたかを示した戦後2例目の法令違憲判決になりました。
この判例のポイント
この判決の一番の見どころは『規制目的の二分論』そのものよりも、目的が正当だと認めたあとに、手段が本当にその目的のために必要かつ合理的かを、最高裁が具体的な事実に下りて検証した点です。『薬局が偏在→競争激化→経営不安定→不良医薬品の供給』という県側の理屈を、最高裁は一段ずつ検討し、どの段階でも『観念上の想定にすぎない』と切り返しています。抽象的な当てはめではなく、事実に基づいて審査した判決として読むと理解が深まります。
答案で規制目的二分論を使うときは、①その規制の目的は消極目的(警察目的)か積極目的(社会経済政策目的)かを認定し、②消極目的なら、より緩やかな規制手段で目的を達成できないか(この判決でいえば行政監督・立入検査)を具体的に検討し、③目的と手段のあいだに合理的な関連性・必要性があるかを、事実に即して書く、という順序を踏むと筋が通ります。『消極目的だから厳しく審査する』という結論だけを書いて終わらせないことが大切です。
薬局の適正配置規制はこの判決の翌年、法律そのものから削除されました。憲法上の権利を制限する法律は、裁判で違憲と判断されれば効力を失う、という制度の実例としても押さえておく価値があります。ちなみにこの判決は、尊属殺重罰規定違憲判決(昭和48年)に続く、戦後2例目の法令違憲判決です。
会話は読みやすさのための脚色です。原告となった会社・経営者の名前はすべて仮名(角吉商店(仮名)・角次(仮名))とし、判決文に現れる実在の名称は用いていません。事実関係と数値は判決文および関連する裁判記録の認定にもとづいています。