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「破棄差戻し」と「破棄自判」は何が違うのか

ニュースで「最高裁が原判決を破棄し、事件を高裁に差し戻した」という記事と、「最高裁が原判決を破棄し、被告人を無罪とした」という記事の両方を見て、同じ「破棄」なのに結末が違うのはなぜだろうと思ったことはありませんか。

破棄差戻しと破棄自判の違い — 最高裁が自分で決める時、戻す時
裁判所の廊下に向かい合う二つの扉

結論 ― 「誰が答えを出すか」の違い

破棄後に事実認定のやり直しが必要かで差戻しと自判に分かれる
分かれ目は事実認定をやり直す必要の有無

結論から言うと、破棄差戻しは、上告審が原判決を取り消したうえで、事件を原裁判所(またはこれと同格の裁判所)に送り返し、そこで改めて裁判をさせる方法です。破棄自判は、原判決を取り消した上告審自身が、送り返さずにその場で結論(有罪・無罪や勝訴・敗訴)まで出す方法です。そして原則は差戻しで、自判ができるのは条文が定めた一定の場合に限られます。

なぜ「差し戻し」が原則なのか

上告審(最高裁判所、あるいは高等裁判所への上告の場合は高等裁判所)は、事実認定をやり直す「事実審」ではなく、法律問題だけを扱う「法律審」です。原判決の事実認定に誤りがあり、改めて証拠から事実を認定し直す必要があるときは、上告審が代わりにその作業をするのではなく、事実審である下級裁判所に差し戻すのが筋になります。民事訴訟法325条1項はこう定めています。

第三百十二条第一項又は第二項に規定する事由があるときは、上告裁判所は、原判決を破棄し、次条の場合を除き、事件を原裁判所に差し戻し、又はこれと同等の他の裁判所に移送しなければならない。

同条4項は「原判決に関与した裁判官は、前項の裁判に関与することができない」と定めており、差し戻された後の審理は、原判決を書いた裁判官とは別の裁判体が担当します。刑事事件でも構造は同じです。刑事訴訟法413条はこう定めています。

前条に規定する理由以外の理由によつて原判決を破棄するときは、判決で、事件を原裁判所若しくは第一審裁判所に差し戻し、又はこれらと同等の他の裁判所に移送しなければならない。

これが原則で、続けてただし書きが自判できる場合を定めています。

上告裁判所は、訴訟記録並びに原裁判所及び第一審裁判所において取り調べた証拠によつて、直ちに判決をすることができるものと認めるときは、被告事件について更に判決をすることができる。

自判が許されるのは、どういうときか

民事訴訟法326条は、破棄自判ができる場合を2つに絞っています。

一 確定した事実について憲法その他の法令の適用を誤ったことを理由として判決を破棄する場合において、事件がその事実に基づき裁判をするのに熟するとき。 二 事件が裁判所の権限に属しないことを理由として判決を破棄するとき。

つまり民事では、下級審が認定した事実そのものは動かさず、その事実への法律の当てはめだけが誤っていて、かつ「その事実に基づけばもう結論が出せる(熟する)」場合に限って自判が許されます。事実認定自体をやり直す必要があるなら、この要件を満たさないので差し戻しになります。刑事訴訟法413条ただし書も同じ発想で、「訴訟記録及び取り調べ済みの証拠だけで、上告審が直ちに判決できる」と認められるときに限って自判を認めています。なお、原判決が不法に管轄を認めていた場合は、刑事訴訟法412条により事件は管轄権のある裁判所へ移送されると定められており、これは差戻しとも自判とも別の扱いです。

民事と刑事の対比

原則自判ができる場合根拠条文
民事訴訟破棄差戻し・移送事実は確定済みで法令の当てはめだけが誤り、かつ事件が裁判をするのに熟するとき/裁判所の権限違いのとき民事訴訟法325条・326条
刑事訴訟破棄差戻し・移送訴訟記録と取り調べ済みの証拠だけで直ちに判決できると認めるとき刑事訴訟法413条(管轄違いは412条で移送)

どちらも、上告審が新しい証拠調べをせずに結論を出せるだけの材料がすでに記録に揃っているかどうかが分かれ目になっています。

実際にこう判断された裁判がある

過剰防衛での有罪から最高裁の破棄自判・無罪までの流れ
記録にあった駐車場の構造が自判を支えた

最高裁判所第三小法廷平成6年12月6日判決(刑集48巻8号509頁)は、破棄自判で無罪を言い渡した実例です。同級生数人と飲食していた被告人らが、絡んできた酔客とトラブルになり、駐車場まで追いかけて暴行を加えて負傷させたという事件でした。第一審・控訴審はいずれも、被告人らの一連の行為を過剰防衛と評価し、傷害罪の成立を認めて執行猶予付きの有罪としていました。

ところが最高裁は、弁護人の上告理由とは別に職権で原判決の事実認定を調べ、原判決が「駐車場の奥に追い詰める格好で追って行った」と認定していた点について、これを是認できないとしました。記録上、その駐車場には表通り側と裏通り側の両方に幅6メートル余りの出入口があり、行き止まりの場所ではなかったからです。最高裁はこの事実認定の誤りを理由に原判決を破棄したうえで、事件を差し戻さず、みずから無罪の判決を言い渡しました。

この事件で最高裁が差し戻さずに自判できたのは、争われていたのが新たな証拠調べを要する事実ではなく、すでに記録に現れていた駐車場の構造という、記録だけから確認できる事実だったからです。刑事訴訟法413条ただし書が「訴訟記録及び取り調べ済みの証拠によつて直ちに判決をすることができる」場合に自判を認めている趣旨に沿った実例といえます。

同じ事件は、被告人が現場を離れた後の共犯者の暴行についてどこまで責任を負うかという「共犯関係の解消」という別の論点でも登場します。上告審が事実認定・法律判断のどちらを見直しているのかという整理は、一審・控訴審・上告審で結論が変わるとき、何が争われているのかでも扱っています。

受験生向けの一言

答案で「破棄自判」に触れるときは、要件を省略しないでください。民事なら「事実は確定済みで法令適用のみが誤っており、かつ事件が裁判をするのに熟しているか」、刑事なら「訴訟記録と取り調べ済みの証拠だけで直ちに判決できるか」という条文の言葉を、結論だけでなく理由づけとして書くことが必要です。「差し戻すべきか自判すべきか」を問う出題では、新たな事実認定が必要かどうかを先に判定してから、条文の要件に当てはめる順序で書くと筋が通ります。

動画で見る

上告審がどこまで事実認定に踏み込むかという考え方は、「レイの法廷」の各話でも取り上げています。

よくある質問

Q. 破棄自判と破棄差戻しでは、どちらが多いのですか?

原則は差戻しです。上告審は法律問題だけを扱う法律審であり、事実認定のやり直しが必要な事件は下級裁判所に差し戻されます。自判は、記録上すでに結論を出せるだけの材料が揃っている限られた場合の扱いです。

Q. 差し戻された裁判所は、最高裁の判断に従わなければならないのですか?

民事訴訟法325条3項は、差戻し・移送を受けた裁判所が新たな口頭弁論に基づいて裁判をすることを定めたうえで、上告裁判所が破棄の理由とした事実上及び法律上の判断がその裁判所を拘束すると定めています。刑事訴訟でも同様に、差戻し後の審理は上級審の判断に拘束されます。

Q. 高等裁判所への上告(民事訴訟法311条2項)でも、同じ仕組みですか?

はい。高等裁判所が上告裁判所である場合も、原則は破棄差戻し・移送で、破棄自判ができるのは民事訴訟法326条の要件を満たす場合に限られます。仕組みそのものは最高裁が上告裁判所の場合と同じです。

Q. 控訴審(高等裁判所)でも「自判」という言葉を使いますか?

使います。控訴審が第一審判決を取り消して自ら判決する場合も「自判」と呼ばれます。ただしこの記事で条文を引用したのは、上告審(最高裁判所・高等裁判所)における破棄差戻しと破棄自判の場面です。

まとめ

  • 破棄差戻しは事件を原裁判所などへ送り返して改めて裁判をさせる方法、破棄自判は上告審自身がその場で結論まで出す方法です。
  • 上告審は法律審なので原則は差戻しで、自判が許されるのは民事訴訟法326条・刑事訴訟法413条ただし書の要件を満たす場合に限られます。
  • 分かれ目は、新たな証拠調べをせずに結論を出せる材料がすでに記録に揃っているかどうかです。

本記事は、公開されている判決文にもとづく一般的な解説であり、法的助言ではありません。個別の事案については弁護士等の専門家にご相談ください。

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#レイの法廷#コラム#法律の基礎#上告審