最高裁の「小法廷」と「大法廷」は何が違うのか ― 15人と5人、憲法判断の分かれ目
最高裁判所の判決を読んでいて、「大法廷」と書かれているものと、「第一小法廷」「第二小法廷」「第三小法廷」と書かれているものがあることに気づいたことはありませんか。

結論から言うと、大法廷は最高裁判所の裁判官15人全員による合議体、小法廷は5人ずつの合議体が3つ(第一・第二・第三小法廷)です。事件はまず小法廷で審理されますが、法律や命令が憲法に違反すると判断する場合や、最高裁判所の過去の判断を変更する場合などは、小法廷では裁判をすることができず、大法廷で審理・裁判しなければなりません(裁判所法10条)。

結論 ― 大法廷は15人全員、小法廷は5人×3。違憲判断や判例変更は大法廷でなければならない

| 項目 | 大法廷 | 小法廷 |
|---|---|---|
| 裁判官の人数 | 15人全員 | 5人ずつ(第一・第二・第三の3つ) |
| 定足数(審理・裁判に必要な出席人数) | 9人 | 3人 |
| 主に扱う事件 | 違憲判断・判例変更を伴う事件 | それ以外のほとんどの事件 |
| 根拠条文 | 裁判所法9条・10条 | 裁判所法9条 |
最高裁判所は、長官と14人の裁判官、合計15人で構成されています。このうち大法廷は15人全員の合議体で、審理・裁判に必要な定足数は9人です。小法廷は5人ずつの合議体が3つ(第一小法廷・第二小法廷・第三小法廷)あり、各定足数は3人です(最高裁判所公式サイトの記載による)。定足数とは、その合議体が有効に審理・裁判をするために最低限そろっていなければならない裁判官の人数のことです。事件はまず小法廷に配られて審理されますが、法律・命令・規則・処分が憲法に適合するかどうかを判断する場合などに限り、大法廷でなければ裁判できません。
「15人全員の合議体」と「定足数9人」は、言っていることが違います。前者は大法廷という合議体を構成する裁判官の数であり、後者はその合議体が実際に審理・裁判をするために最低限そろっていなければならない数です。したがって、全員がそろわない回でも9人以上が出席していれば大法廷は有効に裁判でき、小法廷も5人のうち3人以上そろえば裁判ができます。
なぜこうなっているのか ― 条文が「原則は分担、重い判断は全員で」と定めている

裁判所法9条は、こう定めています。
最高裁判所は、大法廷又は小法廷で審理及び裁判をする。(裁判所法9条1項)
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大法廷は、全員の裁判官の、小法廷は、最高裁判所の定める員数の裁判官の合議体とする。但し、小法廷の裁判官の員数は、三人以上でなければならない。(同条2項)
つまり法律が定めているのは、大法廷が裁判官全員の合議体だということと、小法廷の人数は最高裁判所自身が決めてよいものの、最低でも三人以上にしなければならないということだけです。「5人ずつ・3つ」という現在の具体的な体制は、法律の条文そのものではなく、最高裁判所自身の判断で決められています。
複数の小法廷を置く理由は、単純に事件数の多さです。最高裁判所には毎年数多くの上告・抗告が持ち込まれ、そのすべてを15人全員の合議体で審理していては処理が追いつきません。事件を3つの小法廷に分担させることで、通常の事件を少ない人数・少ない定足数で効率的に処理できるようにしています。
一方で、法律を違憲と判断すること、あるいは最高裁判所が過去に示した判断(判例)を変更することは、社会全体に影響する重い判断です。一部の裁判官だけの合議体で決めてよいものではありません。そこで裁判所法10条は、こうした場合に小法廷では裁判をすることができないと定めています。同条が挙げる要件は次の3つです(e-Gov法令検索より)。
- 当事者の主張に基づいて、法律・命令・規則・処分が憲法に適合するかしないかを判断するとき(ただし、その意見が既に大法廷でした裁判に反しないときを除く)
- 前号の場合を除いて、法律・命令・規則・処分が憲法に適合しないと認めるとき
- 憲法その他の法令の解釈適用について、意見が前に最高裁判所のした裁判に反するとき
1号のただし書に注目してください。過去に大法廷が「合憲である」と判断した論点について、同じ結論を繰り返すだけなら、小法廷でも憲法判断ができます。小法廷が絶対にできないのは、新たに違憲と判断する場合と、過去の最高裁判所の判断そのものを変える場合です。
3つの要件は、読む順番を決めておくと混乱しません。まず1号で、当事者が「この法律は憲法に違反する」と主張しているかを見ます。主張があり、かつ示そうとしている意見が過去に大法廷がした裁判に反するのであれば、小法廷では裁判できません。次に2号で、当事者がそう主張していなくても、裁判所自身が法令を憲法に適合しないと認めるかを見ます。最後に3号で、憲法に限らずあらゆる法令の解釈適用について、これから示す意見が過去の最高裁判所の裁判に反しないかを確かめます。
この3号の条文は「前に最高裁判所のした裁判」と書いており、その裁判が大法廷のものか小法廷のものかを区別していません。条文の文言どおりに読めば、過去の小法廷判決と異なる解釈を示す場合も、小法廷ではなく大法廷で扱うことになります。1号が「大法廷でした裁判」とわざわざ限定しているのと対照的な書き方です。
実際にどう分かれているか ― ほとんどの事件は小法廷で完結する
「レイの法廷」で扱った回のうち、登記を信じて買った家を、後から失うことがあるのはなぜかの記事で紹介した最高裁判所第一小法廷平成18年2月23日判決は、民法94条2項・110条の類推適用という条文の解釈が争点でした。法律そのものを違憲と判断する場面ではなく、既存の条文の解釈を事実に当てはめる事件だったため、小法廷で審理・裁判されています。
この事件を裁判所法10条に当てはめてみると、分かれ目がはっきりします。当事者が法令そのものの違憲を主張した事件ではないので1号に当たらず、裁判所が法令を憲法に適合しないと認めた事件でもないので2号にも当たりません。3号についても、過去の最高裁判所の裁判に反する解釈を示したのであれば小法廷では裁判できなかったはずで、小法廷で判決が出ている事実自体が、どの要件にも当たらなかったことの裏づけになります。
多くの民事事件・刑事事件は、このように小法廷で完結します。大法廷まで進むのは、法律の合憲性そのものが争われる事件や、最高裁判所が自らの過去の判断を見直す必要がある事件に限られます。小法廷での審理中に、担当の裁判官たちが「これは大法廷で扱うべき事件だ」と判断すれば、その事件は大法廷に回され、あらためて15人全員の合議体で審理・裁判されることになります。
答案・受験生向けの一言
憲法の答案で、ある法律の規定を違憲と主張する論点を扱うときは、この制度を知っておくと理解が深まります。判決文の冒頭に「大法廷」と書かれている場合、それは形式的な表示ではなく、裁判所法10条によりその事件が違憲判断や判例変更を伴う、特に重い事件だったことを示しています。逆に「第一小法廷」のように書かれていれば、既存の法解釈の枠内で判断された事件だと見分けられます。判例を引用するときは、大法廷か小法廷かも書誌情報の一部として意識しておくと、その判決が判例の中でどう位置づけられるかを説明しやすくなります。
動画で見る
大法廷と小法廷の違いそのものを扱った回はまだありませんが、実際に小法廷が判断した例として、登記を信じて買った家を、後から失うことがあるのはなぜかの記事(最高裁判所第一小法廷平成18年2月23日判決)を紹介しました。公開済みの回はレイの法廷から見られます。
よくある質問
Q. 大法廷の判決と小法廷の判決で、法的な効力に違いはありますか?
判決としての法的拘束力そのものに差はありません。ただし、法律を違憲と判断する場合や最高裁判所の過去の判断を変更する場合は裁判所法10条により大法廷でなければならないため、実務上「大法廷判決」は判例の中でも特に重要な判断として扱われる傾向があります。
Q. 小法廷では、憲法判断が絶対にできないのですか?
いいえ。裁判所法10条1号のただし書により、その意見が既に大法廷でした裁判に反しない場合、つまり過去に大法廷が示した結論を踏襲するだけの場合は、小法廷でも合憲・違憲の判断ができます。小法廷にできないのは、新たに法令を違憲と判断する場合と、過去の最高裁判所の判断を変更する場合です。
Q. 小法廷はなぜ1つではなく3つあるのですか?
裁判所法9条2項は小法廷の人数を「三人以上」としか定めておらず、具体的に何人の小法廷をいくつ置くかは最高裁判所自身が決めています。現在は5人ずつの3つの小法廷という体制になっており、最高裁判所に持ち込まれる多数の事件を分担して効率的に処理するための仕組みです。
Q. 「大法廷に回付される」とは、どういう状態ですか?
小法廷で審理していた事件が、裁判所法10条の要件(新たな違憲判断や判例変更など)に当たると判断された場合に、その事件の審理・裁判が15人全員による大法廷に移されることを指します。
まとめ
- 大法廷は最高裁判所の裁判官15人全員の合議体(定足数9人)、小法廷は5人ずつの合議体が3つ(各定足数3人)で、事件はまず小法廷に配られる
- 裁判所法10条が挙げる3つの場合に当たると小法廷では裁判できず、大法廷に回付される。小法廷にできないのは新たに違憲と判断する場合と、過去の最高裁判所の判断を変更する場合
- 判決文の「大法廷」「第一小法廷」という表示は形式ではなく、その事件が違憲判断や判例変更を伴うものだったかを示す手がかりになる
本記事は、裁判所法および最高裁判所公式サイトの記載にもとづく一般的な解説であり、法的助言ではありません。
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