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賃貸の更新料は払わなくていいのか — 更新料事件(最高裁平成23年7月15日判決)と消費者契約法10条

賃貸の更新料は、契約書に書いてあれば払う約束として有効です。最高裁判所第二小法廷は平成23年7月15日の判決で、賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は、額が高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、消費者契約法10条では無効にならないと判断しました(民集第65巻5号2269頁)。論点は、消費者契約法10条の後段(信義則に反して消費者の利益を一方的に害するか)の判断枠組みです。京都市内のアパートで家賃3万8000円・更新料は賃料2か月分という契約を争った事件で、高等裁判所は無効としましたが、最高裁はそれを覆しました。

更新料は払うのか — 最高裁が示した2つの条件

更新料事件とは — 最高裁判所第二小法廷 平成23年7月15日判決

項目内容
裁判所最高裁判所第二小法廷
裁判年月日平成23年(2011年)7月15日
裁判種別判決
事件番号平成22年(オ)第863号
事件名更新料返還等請求本訴、更新料請求反訴、保証債務履行請求事件
判例集民集第65巻5号2269頁
原審大阪高等裁判所 平成22年2月24日判決(平成21年(ネ)第2690号)
論点更新料条項の消費者契約法10条該当性
結論更新料条項は無効でない(原判決の該当部分を破棄・自判)

裁判所の裁判例検索が掲げる判示事項は、「賃貸借契約書に記載された更新料条項の『消費者契約法10条にいう民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの』該当性」です。争っているのは更新料そのものの是非ではなく、更新料を払う約束が法律で無効にされるかどうかだけです。

何が起きたのか(事案)

平成15年4月1日、借主(仮名・拓海さん)は京都市内の共同住宅の一室を借りました。期間は平成16年3月31日までの1年、賃料は月額3万8000円、更新料は賃料の2か月分、そして定額補修分担金が12万円という契約です。同じ日に連帯保証契約も結ばれました。

契約書の更新料条項は3つの内容でした。①期間満了の60日前までに申し出れば更新できる、②更新するときは法定更新か合意更新かにかかわりなく、1年経過するごとに更新料として賃料の2か月分を払う、③入居期間にかかわらず更新料の返還や精算には応じない。

拓海さんは平成16年から18年の毎年2月ころ、3回にわたって1年ずつ合意更新し、そのたびに7万6000円を払いました。3回で合計22万8000円です。

4年目だけが違いました。平成19年4月1日以降も、更新料を払わずに住み続けたのです。期間満了の通知がないまま使用が続いたため、契約は同じ条件で更新されたものとみなされました(借地借家法26条の法定更新)。

そこから裁判になります。拓海さんは、更新料条項が消費者契約法10条または借地借家法30条で無効だとして、払った更新料22万8000円と定額補修分担金12万円の返還を求めました。払う理由のなかったお金を返せという不当利得返還請求です。貸主は逆に、未払いの7万6000円を請求し、連帯保証人にも支払いを求めました。

争点 — 更新料を払う約束は、消費者契約法10条で無効になるか

消費者契約法10条は、判決当時こう定めていました(e-Gov法令検索)。

民法、商法(明治三十二年法律第四十八号)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

物差しは二段です。前段が「法律の初期設定(任意規定=当事者が別の約束をしなければ使われる規定)より消費者に不利か」、後段が「信義則(民法1条2項)に反して一方的に害するか」。両方に当たったときだけ、その条項は無効になります。

つまり争点は、更新料条項が二段目に当たるかどうかでした。

「無効」と考えた側の理由

高等裁判所は、更新料条項を消費者契約法10条により無効とし、拓海さんの請求を認めていました。ただしこの原審判決(大阪高判平成22年2月24日)は裁判所の裁判例検索に掲載されておらず、理由の中身は最高裁判決文の1文からしか分かりません。

そこで、同じ時期に更新料特約を無効とした別の事件の判決文を見ます。京都地方裁判所平成21年7月23日判決(平成20年(ワ)第3224号)は、更新料特約を無効としてこう述べました。

本件更新料を賃借人に負担させる場合は,その旨が具体的かつ明確に説明され,賃借人がその内容を認識した上で合意されることが必要であり,そうでない以上,民法1条2項に規定する基本原則(信義則)に反して賃借人の利益を一方的に害するものというべきである。

つまり、契約書に金額が書いてあるだけでは足りず、「何のためのお金か」まで具体的に説明されていなければ無効だ、という立場です。この判決は、貸主が主張した更新料の性質(更新拒絶権放棄の対価・賃借権強化の対価・賃料の補充・中途解約権の対価)をひとつずつ否定し、趣旨は不明瞭だと判断していました。

なおこれは本件の原審ではなく、別の事件の判決です。

裁判所は何と言ったか(判旨)

最高裁は、まず更新料が何のお金なのかを整理しました。

更新料は,一般に,賃料の補充ないし前払,賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有するものと解するのが相当である。

つまり、更新料は「家賃の一部を先に払うもの」でもあり「借り続けるための対価」でもある、混ざった性質のお金だということです。ひとつの性質に決めなければ有効にならない、とは考えませんでした。ここが下級審との分かれ目です。

次に10条の前段については、当たると認めます。

更新料条項は,一般的には賃貸借契約の要素を構成しない債務を特約により賃借人に負わせるという意味において,任意規定の適用による場合に比し,消費者である賃借人の義務を加重するものに当たるというべきである。

つまり、民法601条の賃貸借は「使わせる」と「賃料を払う」の約束なので、更新料はその要素にない負担を特約で足したものであり、前段には当たるということです。判決は、前段の「任意規定」には明文の規定だけでなく一般的な法理等も含まれるとも述べています。

そのうえで後段について、一般の規範を示しました。

そうすると,賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は,更新料の額が賃料の額,賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り,消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」には当たらないと解するのが相当である。

条件は2つです。契約書に、誰が読んでも一通りにしか読めない形で具体的に書いてあること。そして賃料の額や更新までの期間に比べて高すぎないこと。この2つを満たすなら、消費者契約法10条では無効にならない。

本件へのあてはめはこうです。

これを本件についてみると,前記認定事実によれば,本件条項は本件契約書に一義的かつ明確に記載されているところ,その内容は,更新料の額を賃料の2か月分とし,本件賃貸借契約が更新される期間を1年間とするものであって,上記特段の事情が存するとはいえず,これを消費者契約法10条により無効とすることはできない。

借主に不利な特約を無効とする借地借家法30条にも反しないと判断されました。結果、拓海さんの返還請求は棄却され、未払いの7万6000円と遅延損害金(年5分・平成19年9月19日から)を連帯保証人とともに支払うよう命じられました。貸主側は「消費者契約法10条は財産権を侵害し憲法29条1項に違反する」とも主張しましたが、これも退けられています。

ここで押さえておきたい点が1つあります。この判決が判断したのは更新料条項だけです。定額補修分担金12万円については、貸主が上告理由を記載した書面を出さなかったため上告が却下され、高等裁判所の「無効」がそのまま残りました。「最高裁が補修分担金も認めた」わけではありません。

この判決が決めたこと — 同じ物差しが並ぶ判決

最高裁は、賃貸借に付いてくる一時金について、近い時期に同じ枠組みで判断を重ねています。

判決何のお金か使った条文結論
更新料 最高裁第二小法廷 平成23年7月15日(民集第65巻5号2269頁)更新のたびに払う更新料(賃料2か月分・1年更新)消費者契約法10条無効ではない
敷引き① 最高裁第一小法廷 平成23年3月24日(民集第65巻2号903頁)退去時に保証金から差し引く敷引金(賃料の2倍弱ないし3.5倍強)消費者契約法10条無効ではない
敷引き② 最高裁第三小法廷 平成23年7月12日(集民237号215頁)同じ敷引金(60万円・賃料の3.5倍程度)消費者契約法10条無効ではない(裁判官1名の反対意見あり)
学納金 最高裁第二小法廷 平成18年11月27日(民集第60巻9号3437頁)大学の入学金・授業料の不返還特約消費者契約法9条1号入学金は返らない。授業料は3月31日までの辞退なら返る
通常損耗 最高裁第二小法廷 平成17年12月16日(集民218号1239頁)退去時の修理代を借主に負担させる特約特約が成立したかどうかの解釈特約は成立していない(破棄差戻し)

共通しているのは、「借主は弱い立場だから一律に無効」とは言わない点です。決め手は2つに絞られます。契約書に金額がはっきり書いてあるか。そして、賃料に比べて高すぎないか。敷引きの2件で最高裁が高すぎない側に置いたのは賃料の2倍弱から3.5倍程度の水準で、更新料では1年ごとに賃料2か月分でした。

ただし最高裁は「高額に過ぎる」の上限となる数字を示していません。上に挙げた倍率は、それぞれの事案についての評価であって基準ではありません。

違う部分もあります。学納金の判決が使ったのは消費者契約法10条ではなく9条1号で、物差しは「大学に実際に生じる平均的な損害を超えるか」でした。3月31日までの辞退なら大学は代わりの入学者を確保できて損害がないため、授業料の不返還特約はその範囲で無効になります。同じ「返さない約束」でも、当てる条文が変わると結論の向きも変わります。

通常損耗の判決は、さらに前の段階を扱っています。10条で無効かどうかではなく、そもそも特約が成立したのかを問いました。

建物の賃借人にその賃貸借において生ずる通常損耗についての原状回復義務を負わせるのは,賃借人に予期しない特別の負担を課すことになる

だから契約書の条項自体に具体的に明記されているか、明確に合意されていることが必要だ、という判断です。道具は違いますが、「契約書にはっきり書いてあるか」を重く見る点は更新料の判決と同じ向きを向いています。

退去時の負担については、2020年4月施行の改正で民法621条が原状回復義務から「通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化」を除くと定め、622条の2が敷金の返還を条文にしました。本件の当時はいずれも条文になっておらず、判例が線を引いていた領域です。

いまの実務 — 更新料は地域でこれだけ違う

更新料は全国一律の慣行ではありません。国土交通省「民間賃貸住宅に係る実態調査(不動産業者)」(平成19年6月)によると、平成17年4月から18年3月に契約した物件で更新料を徴収している割合は、神奈川90.1%、千葉82.9%、東京65.0%、埼玉61.6%、京都55.1%。一方で大阪と兵庫は0%でした。平均の月数では京都の1.4か月が最も高くなっています。

徴収する理由として最も多く挙がったのは「一時金収入として見込んでいる」(53.0%)と「長年の慣習」(50.4%)です。最高裁も「一定の地域において,期間満了の際,賃借人が賃貸人に対し更新料の支払をする例が少なからず存することは公知である」と述べており、本件が京都の物件だったことと符合します。

国土交通省の「賃貸住宅標準契約書」(平成30年3月版)には、更新料の条項が本文にありません。作成にあたっての注意点は、敷金以外の一時金を定めるなら特約条項の欄に記入し、頭書にもその名称と金額を書くよう求めています。最高裁の「一義的かつ具体的に記載」と同じ方向を向いた運用です。

答案ではどう書くか

更新料条項と消費者契約法10条
  1. 問題提起 — 賃貸借契約の要素にない金銭の支払義務を特約で負わせる更新料条項が、消費者契約法10条により無効とならないかが問題となる。
  2. 規範(前段) — 10条前段の「任意規定」には明文の規定のみならず一般的な法理等も含まれる。民法601条の賃貸借の要素を構成しない債務を負わせる更新料条項は、消費者である賃借人の義務を加重するものとして前段に当たる。
  3. 規範(後段) — 後段の該当性は、消費者契約法の趣旨・目的(同法1条)に照らし、条項の性質、契約が成立するに至った経緯、消費者と事業者の間の情報の質および量ならびに交渉力の格差その他諸般の事情を総合考量して判断する。
  4. あてはめ — 更新料は賃料の補充ないし前払、契約を継続するための対価等を含む複合的な性質を持ち、支払におよそ経済的合理性がないとはいえない。契約書に一義的かつ具体的に記載され明確な合意があるなら、看過し得ないほどの格差があるとはいえない。残るのは、額が賃料および更新期間に照らし高額に過ぎるかである。
  5. 結論 — 特段の事情がない限り後段に当たらず、無効とならない。借地借家法30条に反する借主に不利な特約にも当たらない。

書き分けの勘所は、前段を否定しないことです。前段は「当たる」と認めたうえで後段で救うのが、この判決のたどった順序です。

動画で見る

「レイの法廷」第34話で、この事件を物語から扱っています。

各話の一覧は レイの法廷 にあります。契約の条項がどこまで効くのかという論点は、「一切の責任を負いません」は、なぜそのままでは効かないのか でも消費者契約法の側から整理しました。信義則と隣り合う権利濫用の論じ方は 権利濫用の論証 にまとめています。

よくある質問

Q. 更新料は賃料の何か月分までなら有効なのですか?

最高裁は「高額に過ぎる」の上限となる数字を示していません。判決が述べたのは、賃料の額と更新される期間に照らして判断するということだけです。本件の「1年ごとに賃料2か月分」は、特段の事情がない側に置かれました。

Q. 契約書に更新料の金額が書かれていなかった場合はどうなりますか?

最高裁が示した2つの条件のうち、1つめ(契約書に一義的かつ具体的に記載されていること)を満たしません。退去時の修理代の特約について最高裁平成17年12月16日判決は、契約書の条項自体に具体的に明記されているか、口頭の説明を借主が明確に認識して合意の内容としたと認められることが必要だと述べています。もっとも、個別の契約でどうなるかはその契約の事情によります。

Q. 敷金から差し引かれる「敷引き」も同じ考え方ですか?

敷引きについても最高裁は同じ年に2件判断し、いずれも無効ではないとしました(平成23年3月24日・平成23年7月12日)。物差しは「契約書に明示されているか」と「高額に過ぎるか」で共通します。ただし7月12日の判決には、裁判官1名の反対意見が付いています。

Q. 更新料が地域によって違うのはなぜですか?

国土交通省の平成19年の調査では、更新料を徴収している割合は神奈川で90.1%、東京で65.0%、京都で55.1%、大阪と兵庫では0%でした。徴収する理由は「一時金収入として見込んでいる」「長年の慣習」が上位です。最高裁も、更新料を払う例が一定の地域にあることは公知だと述べています。

Q. 支払済みの更新料を返してもらうことはできますか?

本件で借主は、払った22万8000円について不当利得返還請求をしましたが、更新料条項が無効ではないとされたため請求は棄却されました。返還が認められるのは条項が無効となる場合であり、その判断は上の2つの条件と個別の事情によります。

本記事は判決文・法令・公表資料に基づく一般的な解説であり、法的助言ではありません。個別の契約について結論を示すものではないため、具体的な判断は弁護士などの専門家にご相談ください。登場する当事者の呼び名は仮名です。

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