本文へスキップ
(更新 )判例読了 約8分

会社を辞めたいと言ったら「後任が決まるまで辞めさせない」と言われた ― 退職の申し入れから2週間の意味

会社に退職を申し出たら「後任が決まるまで辞めさせない」と言われた――この言葉は、法律のうえでどこまで意味を持つのでしょうか。民法627条1項の条文を読む限り、期間を定めずに働いている契約であれば、退職を申し入れた日から2週間が過ぎることで雇用は終了し、そこに会社の同意や後任の有無は条件として書かれていません。この記事では、条文と裁判所の判例集に収録された判決だけを手がかりに、この2週間の意味を整理します。

後任が決まるまで辞められない? — 民法627条の2週間ルールを条文で整理

結論 ― 条文上、終了の条件は「申入れから2週間」だけ

なぜそうなるのか ― 民法627条が定める退職の自由

退職の根拠になっているのは、民法627条1項です。

当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。(民法627条1項)

(e-Gov法令検索 民法(新しいタブで開く))

言い換えると、「期間の決まっていない雇用なら、働く側も雇う側も、いつでも『やめます』と伝えてよい。伝えた日から2週間たてば、雇用は終わる」という意味です。

ここでいう「解約の申入れ」は、会社に「受け入れてもらう」ための申し込みとしては書かれていません。条文の文言は、申入れの日から2週間を経過すれば雇用は終了するというもので、その間に相手の承諾を得ることを求めていないからです。法律学では、このように一方的な意思表示だけで法律関係を動かせる権利を形成権(けいせいけん、相手の承諾を要さずに一方的な意思表示だけで効力が生じる権利)と呼び、627条の解約申入れもこの性質を持つものとして説明されます。会社が「認めない」と答えたことは、条文が定める終了の仕組みの中には登場しません。

なお、「退職願」という名前の書面を出した場合でも、その文面が一方的に雇用を終わらせる意思表示(辞職)であれば、627条1項の申入れとして読むことになります。これに対し、会社と話し合って退職日を決める「合意退職」は、会社の承諾があって初めて成立する、別の仕組みです。同じ「退職願」という書面でも、どちらの意味で出したのかによって、会社の返事を待つ必要があるかどうかが変わり得ます。迷う場合は、書面の文言を「◯月◯日をもって退職します」のように、一方的に終了させる意思がはっきり読める形にしておくのが一つの方法です。

条文には2項・3項もありますが、これは読み違えやすいところです。

期間によって報酬を定めた場合には、使用者からの解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。(民法627条2項)
六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、三箇月前にしなければならない。(民法627条3項)

2項の主語は「使用者からの解約の申入れ」で、3項はその「前項の解約の申入れ」を受けています。つまり条文の文言上、予告期間が延びるのは会社の側から雇用を終わらせる場合です。「月給制だから1か月前、年俸制だから3か月前でないと辞められない」という説明を見かけることがありますが、現在の条文は、労働者からの申入れについては1項の2週間だけを定めています。

就業規則に「会社の許可が必要」と書いてあったら

よく問題になるのが、就業規則に「退職するには会社の許可を得ること」「退職は3か月前までに申し出ること」といった定めがある場合です。

就業規則が働く人をどこまで縛るかについて、最高裁判所の大法廷は次のように述べています。秋北バス事件(最高裁判所大法廷・昭和43年12月25日判決、民集22巻13号3459頁)です。

就業規則は、当該事業場内での社会的規範であるだけでなく、それが合理的な労働条件を定めているものであるかぎり、法的規範としての性質を認められるに至つているものと解すべきである。

(裁判所ウェブサイト 判例検索 昭和40(オ)145(新しいタブで開く))

平たく言えば、「就業規則は職場のルールにとどまらず、中身が合理的である限りは法的な拘束力を持つ」ということです。この考え方は現在、労働契約法7条に条文として置かれています。

労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。(労働契約法7条本文)

(e-Gov法令検索 労働契約法(新しいタブで開く))

ここから言えるのは、就業規則の定めが契約の内容になるには「合理的な労働条件」であることが前提になる、という枠組みまでです。退職に会社の許可を求める定めや、2週間より長い予告期間の定めが、この「合理的」に当たるのか、そもそも民法627条1項の2週間を当事者の取り決めで動かせるのかについては、考え方が分かれ得る問題です。本記事では、裁判所ウェブサイトの判例検索に収録された判決の中から、この点を直接判断した最高裁判所の判決を確認できていません。そのため、「就業規則のこの規定は無効だ」と一律に言い切ることはここではしません。

ただし、少なくとも次の点は条文から言えます。627条1項は、労働者からの申入れについて会社の承諾を終了の条件にしていません。就業規則に許可制が書かれていても、それは「条文が求めていない条件を会社側が追加しようとしている」状態であり、その追加が契約として有効かどうかが別に問われることになります。

自分の場合はどうなるのか

以下は、条文から読み取れる範囲の整理です。個別の事案の結論を断定するものではありません。

条文上、1項の2週間がそのまま当てはまる場面別の条文・別の検討が必要になる場面
雇用契約に終了の期限が定められていない(正社員・無期雇用パートなど)雇用契約に期間が定められている(有期契約。民法628条は「やむを得ない事由があるとき」に直ちに解除できると定める)
退職の理由を会社に説明することは、627条1項の要件になっていない明示された労働条件が事実と違う場合は、即時に労働契約を解除できる(労働基準法15条2項)
後任の有無・引き継ぎの完了は、627条1項の要件になっていない就業規則に許可制・長い予告期間の定めがあり、その効力が争われる場合

有期契約で働いている場合や、退職を理由に損害賠償を求められそうな場合は、一般論ではなく弁護士や労働基準監督署などの専門家に相談してください。

受験生向けに一言

答案でこの論点を書くときは、まず雇用契約に期間の定めがあるかどうかを確認し、無期なら民法627条1項、有期なら628条という条文の切り分けを示すのが型です。そのうえで、627条の解約申入れが相手方の承諾を要しない一方的な意思表示であることを条文の文言から示し、就業規則による制限については労働契約法7条(秋北バス事件の「合理的な労働条件」)の枠組みで、その定めが契約内容になるかを検討する、という順序で書くと筋が通ります。規範を条文の趣旨から作る手順自体は、「規範を立てる」とは何をすることかの記事で扱っています。

「レイの法廷」では、条文の趣旨から規範を立てて事実に当てはめていく過程をアニメで解説しています。

よくある質問

Q. 退職届を出したのに、会社が受け取りを拒否したらどうなりますか?

民法97条1項は「意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる」と定め、同条2項は、相手方が正当な理由なく通知の到達を妨げたときは「通常到達すべきであった時に到達したものとみなす」と定めています。退職の意思が会社に届いたことを後から示せるよう、郵送する場合は配達の記録が残る方法を使うと安心です。

Q. 2週間の間は、会社の指示通り働く必要がありますか?

627条1項の文言では、雇用が終了するのは申入れから2週間を経過した時なので、その間は雇用契約が続いています。年次有給休暇が残っていれば、その期間に休暇を取得することも考えられます。

Q. 退職によって会社に損害が出た場合、損害賠償を請求されますか?

退職の効力の問題と、損害賠償の問題は別に考えます。627条1項自体は、申入れをした労働者が賠償責任を負うとは定めていません。一方、有期契約を期間の途中でやむを得ない事由によって解除する場合について、民法628条は、その事由が当事者の一方の過失によって生じたときは相手方に対して損害賠償の責任を負うと定めています。具体的な事情によって結論が変わるため、心配な事情があれば専門家に相談してください。

Q. アルバイトや契約社員でも、2週間で辞められますか?

雇用契約に終了の期限が定められていない場合は、アルバイトや契約社員(無期雇用)であっても民法627条1項の対象になります。一方、「◯年◯月まで」のように期間が決まっている有期契約では、民法628条の「やむを得ない事由」があるかどうかが問題になります。


本記事は、e-Gov法令検索で確認した条文と、裁判所ウェブサイトの判例検索に収録された判決にもとづく一般的な情報であり、法的助言ではありません。個別の事案については弁護士や労働基準監督署などの専門家にご相談ください。

コメント

コメントは即時公開されます。不適切な内容は予告なく削除します。

#レイの法廷#コラム#民法#退職の自由

最近更新した記事

公開後に中身を書き直したものです。日付は更新日。