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離婚と別居期間 — 何年別居すれば離婚できるのか、最高裁の判断を読む

「何年別居すれば離婚できるのか」という問いに、法律は年数で答えていません。離婚の条文である民法770条1項には、別居期間の数字がひとつも書かれていないからです。最高裁判所も、別居の長さを単独では見ておらず、当事者の年齢と同居していた期間と並べて、長いか短いかを判断してきました。実際に、別居36年の夫婦について判断した最高裁判所大法廷 昭和62年9月2日判決(民集41巻6号1423頁)も、「36年だから離婚できる」とは言っていません。

離婚に必要な別居期間は何年か — 最高裁が別居の長さをどう見てきたか
作りかけの人形と針箱のある小部屋

結論 — 別居期間に「何年から」という線はない

ここで出てきた「有責配偶者」という言葉は、浮気や家出などで夫婦関係を壊した原因をつくった側の配偶者を指します。壊した本人が「もう壊れているから離婚させてほしい」と求めてよいのか —— 別居が何年続いたかが議論されるのは、たいていこの場面です。

なぜそうなるのか — 条文には年数が書かれていない

民法770条1項の四号と別居の位置づけ
別居は四号の判断材料のひとつ

離婚の裁判について定めているのは民法770条です。現在の条文(令和6年法律第33号により令和8年4月1日から施行)は、こうなっています。

夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。 一 配偶者に不貞な行為があったとき。 二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。 三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。 四 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

つまり、「別居◯年」という号は用意されていません。別居は、四号の「婚姻を継続し難い重大な事由」があるかどうかを裁判所が判断するときの、材料のひとつという位置づけです。条文は e-Gov法令検索の民法(新しいタブで開く) で確認できます。

注意が必要なのは、判決文を読むときの号数がずれていることです。後で出てくる昭和62年の判決は「770条1項5号」と書いていますが、これは当時の四号(強度の精神病)が令和6年の改正で削られ、五号が同じ文言のまま四号に繰り上がったためです。中身は変わっていません。

実際にこう判断された裁判がある

昭和24年の夏、ひとりの夫が家を出ました。ほかに好きな人ができたからです。妻がその関係を知ったのは、同じ年のことでした。

残された妻には生活の手立てがありませんでした。昭和25年2月、妻は夫名義の建物を24万円で売って生活にあてます。生活費を保障する趣旨で、あらかじめ夫から処分の権限を与えられていた建物でした。判決が認定したところでは、妻がこの代金のほかに夫から生活費等を受け取ったことは、一度もありません。

夫は昭和29年に一度、離婚の裁判を起こし、退けられています。妻は兄の家の一室に住み、人形を作る技術を身につけて人形店に勤めました。判決の認定では、妻は現在は無職で資産もなく、一方の夫は会社2社の代表取締役などを務め「極めて安定した生活」を送っていました。

昭和58年12月ごろ、夫が34年ぶりに妻を訪ね、離婚を求めます。妻は断りました。翌年の家庭裁判所の調停で夫が示した条件は、判決によれば現金100万円と油絵1枚です。調停は不成立となり、夫はふたたび訴訟を起こしました。一審・二審とも、請求は退けられます。

別居は、昭和24年8月ごろから原審の口頭弁論終結まで約36年。二人が同じ家で暮らしたのは、約12年でした。

この事件が、最高裁判所大法廷 昭和62年9月2日判決(事件番号 昭和61(オ)260・事件名「離婚」・民集41巻6号1423頁・courts.go.jp(新しいタブで開く))です。最高裁は、原判決を破棄して東京高等裁判所に差し戻しました。裁判官15人の全員一致です。

それまでの判例 — 壊した側からの離婚請求は認められなかった

それまでの最高裁は、逆の立場でした。同じように不貞をして家を出た夫の離婚請求について、最高裁判所第三小法廷 昭和27年2月19日判決(民集6巻2号110頁)は、こう述べていました。

もしかかる請求が是認されるならば、被上告人は全く俗にいう踏んだり蹴たりである。法はかくの如き不徳義勝手気儘を許すものではない

「踏んだり蹴ったり」の側、つまり置いていかれた妻を守るために、壊した側からの請求は認めない —— という考え方です。昭和62年の大法廷判決は、この判決を含む3件の判例を変更しました。

最高裁が示した規範 — 別居の長さは単独では測らない

昭和62年と平成元年の別居期間と同居期間の対比
同じ年数でも同居期間との比で変わる

大法廷が示した判断の枠組みは、次のとおりです(判決文の引用)。

有責配偶者からされた離婚請求であつても、夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び、その間に未成熟の子が存在しない場合には、相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない限り、当該請求は、有責配偶者からの請求であるとの一事をもつて許されないとすることはできない。

つまり、「壊した側からの請求だから」という理由だけで門前払いにすることはできない、ということです。そのうえで最高裁は、歯止めとして3つの点を並べました。歯止めの根拠に置かれたのは、民法1条2項の信義誠実の原則(権利を使うときは誠実にしなければならない、という一般的なルール)です。

裁判所が順に確かめること
  1. 別居が、当事者の年齢と同居期間との対比で「相当の長期間」に及んでいるか
  2. その間に未成熟の子(まだ経済的に独り立ちできていない子)がいないか
  3. 相手方が離婚によって精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態に置かれるなどの特段の事情がないか

大事なのは1番の書き方です。「別居が◯年以上」ではなく「年齢及び同居期間との対比において」と書かれています。別居の長さは、それ単独では測らない —— これが条文にも判決にも年数が出てこない理由です。

なお、この判決は相手方配偶者の経済的な不利益について、婚姻を続けることではなく、財産分与や慰謝料で解決すべきものだという立場をとりました。信義誠実の原則と並ぶ民法1条の一般ルールについては、権利濫用の論証 — 民法1条3項の使い方でも扱っています。

同じ「約8年」でも結論が分かれている

昭和62年の判決のあと、最高裁は別居期間をどう評価してきたのか。いずれも有責配偶者からの離婚請求の事案です。

判決別居期間(同居期間)あわせて見られた事情最高裁の評価
最高裁大法廷 昭和62年9月2日約36年(約12年)未成熟の子なし有責配偶者からの請求という一事では許されないとできない(破棄差戻)
最高裁 昭和62年11月24日30年未成熟の子なし・住居購入費の一部負担・年金収入あり認容が著しく社会正義に反するといえる特段の事情があるとはいえない
最高裁 平成元年3月28日8年余り(26年余り)夫60歳・妻57歳・二男二女相当の長期間に及ぶとはいえず、認容できない
最高裁 平成2年11月8日約8年夫が妻子の生活費を負担・誠意ある清算の提案相当の長期間に及んだと解すべき(破棄差戻)
最高裁 平成6年2月8日13年余り高校卒業間近の子あり・3歳から妻が監護・送金あり認容されるべき
最高裁 平成16年11月18日約2年4か月(約6年7か月)7歳の子・妻が病気で就労困難信義誠実の原則に反し、認容できない

平成元年と平成2年は、どちらも別居「約8年」です。それでも結論は逆になりました。平成2年の判決は、その理由をこう述べています。

別居期間と両当事者の年齢及び同居期間とを数量的に対比するのみでは足りず

年数を並べて引き算するだけでは判断にならない、ということです。平成6年の判決は、未成熟の子がいた事案で離婚請求を認めています。3歳のときから一貫して妻が育て、夫が送金を続けていたという事情が考慮されました。3つの点はチェックリストではなく、事情の束として見られているわけです。

自分の場合はどうなるのか

上の表は、あくまでそれぞれの事件の事実関係のもとでの判断です。裁判所が「◯年を超えれば長期間」という基準を立てたわけではありません。そのうえで、判決文から読み取れる傾向として、次のことは言えます。

  • 別居期間は、同居していた期間や当事者の年齢と並べて評価される。同居が長いほど、同じ別居年数でも「相当の長期間」と認められにくい方向に働いている
  • 未成熟の子がいることは、それだけで請求を退ける決め手にはなっていない(平成6年判決)。子の年齢、これまで誰が育ててきたか、送金があったかが見られている
  • 別居後に生活費を負担してきたか、財産の清算にどれだけ誠意ある提案をしているかが、評価を分けている(平成2年判決と平成16年判決の対比)
  • 別居期間は、事実審の口頭弁論終結の時までで数えられている(平成16年判決の判示)

離婚を求められる側にとっても、求める側にとっても、判断材料はここに挙げたものだけではありません。実際の見通しは事情ごとにまったく違いますので、具体的な検討は弁護士などの専門家にご相談ください。ここで押さえておきたいのは、「◯年別居したから離婚できる/できない」という数え方を、最高裁自身がとっていないという一点です。

動画で見る

この事件は「レイの法廷」第30話で、物語と答案の書き方の両面から扱っています。

よくある質問

Q. 別居が何年続けば、必ず離婚できますか?

そのような年数の基準は、条文にも判例にもありません。民法770条1項には別居期間の定めがなく、最高裁も別居の長さを当事者の年齢と同居期間との対比で評価しています。実際、別居約8年の事案で結論が分かれた判決があります(最高裁 平成元年3月28日判決と平成2年11月8日判決)。

Q. 相手が離婚に同意してくれません。別居していれば離婚が認められますか?

別居は「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項4号)があるかを判断する材料のひとつです。別居していれば認められる、という関係にはありません。判断は事情の全体を見て行われますので、個別の見通しは専門家にご確認ください。

Q. 自分が家を出た側でも、離婚を求められますか?

最高裁判所大法廷 昭和62年9月2日判決は、有責配偶者からの請求であるという「一事をもつて許されないとすることはできない」と述べました。ただし、別居が年齢・同居期間との対比で相当の長期間に及ぶこと、未成熟の子がいないこと、相手方が極めて苛酷な状態に置かれるなどの特段の事情がないこと、という枠のなかでの判断です。

Q. 判決文の「770条1項5号」と、いまの条文の「4号」は違うものですか?

文言は同じです。令和6年法律第33号(令和8年4月1日施行)で、それまでの4号(配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき)が削られ、5号が同じ文言のまま4号に繰り上がりました。昭和62年の判決文が「5号」と書いているのは、当時の条文によるものです。

Q. 別居期間は、いつの時点まで数えるのですか?

最高裁 平成16年11月18日判決は、「事実審の口頭弁論終結時に至るまで約2年4か月」という形で別居期間を示しています。訴訟の審理が終わる時点までが対象になる、という数え方です。


本記事は判決文・条文などの一次資料にもとづく一般的な解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。記事中の当事者はすべて仮名または「夫」「妻」の呼称で表記しています。

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#レイの法廷#判例#民法#有責配偶者からの離婚請求