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民法の事例問題は、請求を一つ立てるところから書く ― 誰が誰に何を求めるのか

民法の事例問題で、最初の一文に何を書けばいいのか迷ったことはありませんか。

請求を一つ立ててから書く — 誰が誰に何を求めるか、答案の出発点を整理します

結論から言うと、いきなり論点(権利濫用の規範、要件の解釈など)を論じてはいけません。答案の最初に書くべきは、「誰が、誰に、何を、どの請求権に基づいて求めているのか」という請求の特定です。論点は、その請求の要件を検討する過程で初めて意味を持つ道具にすぎません。

結論 ― 論点の前に「誰が・誰に・何を・何の請求権に基づいて求めるか」を書く

なぜこの順番が必要なのか

理由は単純で、民法の条文は「〇〇の要件を満たせば、△△を請求できる」という形で、請求権ごとに成立要件を定めているからです。たとえば所有権に基づく明渡請求と、賃借権に基づく明渡請求と、抵当権に基づく明渡請求とでは、同じ「明け渡してほしい」という結論を目指していても、検討すべき要件がまったく違います。何の請求権に基づく主張かを決めずに要件の話を始めると、条文のどの要件を当てはめているのかが、書いている本人にも採点者にも見えなくなります。

論点(たとえば「占有者に妨害排除請求をするための要件は何か」)は、特定の請求権の、特定の要件を事案に当てはめる過程で初めて立てられるものです。請求を特定する前に論点から書き始めると、採点者には「これはどの請求権についての話か」が伝わらないまま議論が進んでしまいます。

書かないと何が起こるか ― 実際の事件で見る

この順番の重要性がよく分かる例が、最高裁平成17年3月10日第一小法廷判決(平成13年(オ)第656号・建物明渡請求事件、民集59巻2号356頁)です。裁判所ウェブサイトの判例検索(新しいタブで開く)に全文が収録されています。

建設会社Xは、D社所有の土地に大型のホテルを請負代金約17億9000万円で建築しましたが、D社は代金の大部分を支払いませんでした。そこでXとD社は、残代金を分割で支払うことや、残代金債権を担保するため建物と敷地に抵当権と停止条件付賃借権(競売が申し立てられたときに備える、使用収益を目的としない賃借権)を設定することを合意し、Xは建物を引き渡しました。ところがD社は分割金の支払いを一切行わないまま、Xの承諾を得ずにE商事へ賃貸し、E商事はさらにYへ転貸しました。賃料は適正額を大きく下回り、敷金・保証金だけが著しく高額という内容でした。

Xは、建物からYを退去させ、お金も受け取りたいと考えました。しかし「望む結果」が一つでも、それを基礎づける法律上の根拠は一つではありません。Xは第1審で、賃借権が侵害されたことを理由に、賃借権に基づく妨害排除請求として明渡しを求め、さらに賃借権侵害の不法行為に基づく賃料相当損害金の支払いを求めました。第1審は、この2つの請求をいずれも棄却しました。

控訴審でXは、同じ「明渡してほしい」「お金を払ってほしい」という望みについて、今度は抵当権が侵害されたことを理由に、抵当権に基づく妨害排除請求として明渡しを求め、抵当権侵害の不法行為に基づく賃料相当損害金の支払いを選択的に追加しました。控訴審は、この追加した2つの請求をいずれも認めました。

同じ事実関係から、法律上の根拠が違う4つの請求が立てられたことになります。最高裁は、この4つを一つずつ別に判断しました。

まず、抵当権に基づく明渡請求についてです。最高裁はこう述べています。

抵当権に基づく妨害排除請求権の行使に当たり,抵当不動産の所有者において抵当権に対する侵害が生じないように抵当不動産を適切に維持管理することが期待できない場合には,抵当権者は,占有者に対し,直接自己への抵当不動産の明渡しを求めることができるものというべきである。

つまり、所有者が抵当権への侵害を防ぐように建物を管理することが期待できないときは、抵当権者自身が直接明渡しを受けてよい、という判断です。D社が合意に違反して長期の賃貸借を重ねていたことなどから、この要件を満たすとして、明渡請求を認めた控訴審の判断は維持されました。

ところが、抵当権侵害を理由とする賃料相当損害金の請求は、最高裁が職権で取り上げ、認められませんでした。

抵当権者は,抵当不動産に対する第三者の占有により賃料額相当の損害を被るものではないというべきである。

抵当権者はもともと抵当不動産を自分で使ったり、その使用による利益を得る権利を持っていないから、というのが理由です。さらに、選択的にされていた賃借権侵害を理由とする賃料相当損害金の請求も認められませんでした。この停止条件付賃借権は、そもそも使用収益を目的とするものではなかったため、Yの占有によってXが賃料相当額の損害を被るとは言えないとされたのです。

結果として、4つの請求のうち認められたのは、抵当権に基づく妨害排除請求としての明渡し1つだけでした。残り3つ(賃借権に基づく明渡し、賃借権侵害の損害金、抵当権侵害の損害金)はいずれも認められませんでした。同じ「追い出したい」「お金が欲しい」という望みから出発していても、請求権が違えば要件も結論も変わる、ということがよく分かる事件です。

答案ではどう書くか

請求の立て方
  1. 誰が(原告)、誰に(被告)求めるのかを特定する
  2. 何を求めるのかを一文で切り出す ― 「明渡し」と「損害金の支払い」は、同じ事件でも別の請求として扱う
  3. どの権利・どの請求権に基づくのかを明示する ― 所有権、賃借権、抵当権、不法行為など、根拠になりうる権利が複数あるときは、請求ごとに分けて書く
  4. そのうえで、その請求権の要件(要件事実)に事実を当てはめる

この型は長い前置きではありません。多くの場合、各請求の検討に入る冒頭の1〜2行で足ります。むしろこの1〜2行を省くと、後段の要件論がどれだけ正確でも、採点者にはどの請求への当てはめか伝わらないという損をします。

受験生向けの一言

事例問題では、望む結論(明渡し・お金)が一つでも、それを基礎づける法律上の請求権は複数考えられることがあります。答案の冒頭で「◯◯に基づく請求として」と根拠を明示すれば、採点者は以降の論述をどの要件への当てはめとして読めばよいかが分かります。逆に根拠を書かずに要件論から入ると、同じ結論を目指す複数の請求を、書いている本人も混同してしまう危険があります。請求が複数考えられる事案ほど、この一文の有無が答案の読みやすさを左右します。

動画で見る

この事件を題材にした「レイの法廷」第13話では、ホテルの建築代金が支払われないまま建物に次々と人が居座っていく経緯と、抵当権に基づく妨害排除請求が認められるまでを解説しています。

この事件そのものの解説は抵当権に基づく妨害排除請求をわかりやすく、の記事に、答案の書き出しの型を扱った別の回として刑法の答案は「誰の・どの行為に・何罪か」から始まる、の記事もあわせてどうぞ。

よくある質問

Q. 請求を特定しなくても、結論が合っていれば点はもらえませんか?

事案がシンプルで、望む結論を基礎づける請求権が一つしかない場合は、大きな減点になりにくいです。ただし、今回の事件のように同じ結論を目指す請求が複数考えられる事案では、どの請求権への当てはめかが伝わらず、論述の正確さが評価されにくくなります。

Q. 「選択的に請求する」とはどういう意味ですか?

同じ望む結果(この事件では明渡しや損害金の支払い)を、複数の異なる法律上の根拠(訴訟物)で並べて主張する方法です。どちらかが認められれば他方を判断しなくてよい場合もありますが、今回のように根拠ごとに結論が分かれることもあります。

Q. この事件では、結局どの請求が認められたのですか?

抵当権に基づく妨害排除請求としての明渡しだけが認められました。抵当権侵害を理由とする賃料相当損害金の請求と、賃借権侵害を理由とする賃料相当損害金の請求は、いずれも認められませんでした。

Q. なぜ抵当権者は賃料相当の損害金を請求できないのですか?

最高裁は、抵当権者はもともと抵当不動産を自分で使用したり、その使用による利益を得る権利を持っていないからだと説明しています。妨害排除請求によって得る占有も、所有者に代わって建物を維持管理するためのものにすぎないとされています。

Q. 請求権の名前(訴訟物)を書くのは、答案のどこに書くのですか?

多くの場合、各請求の検討に入る冒頭、つまり要件論を書き始める直前の1〜2行です。長い前置きにする必要はなく、「Xは、Yに対し、抵当権に基づく妨害排除請求として、本件建物の明渡しを求める」のように一文で足ります。


本記事は、裁判所ウェブサイトの判例検索に収録された判決にもとづく一般的な解説であり、法的助言ではありません。個別の事案については弁護士等の専門家にご相談ください。

民法の判例を、アニメで観る

判例アニメ「レイの法廷」では、民法の回を全18話公開しています。権利の濫用・取得時効と登記・親の監督責任・損害賠償の額など、暮らしと取引の基本になる判例を扱います。

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