本文へスキップ
(更新 )判例読了 約7分

時効は何年で完成するのか ― 5年と10年、そして「知った時から」の数え方

友人に貸したお金や、まだ払ってもらっていない代金を何年も請求しないままにしていると、消滅時効によって請求できなくなることがあります。民法166条1項により、お金を返してもらう権利(債権)は、権利を行使できることを知った時から5年、または権利を行使できる時から10年のどちらか早い方が来た時点で、時効が完成します。

5年と10年どっちが先? — 債権の時効を2つの数え方で整理します。
テーブルに置かれた古い封筒

結論 ― 「知った時から5年」と「行使できる時から10年」の早い方

民法166条1項 5年と10年の数え方
5年と10年、早い方で時効が完成する

なぜそうなるのか ― 「知った時」と「行使できる時」を両方みる理由

民法166条1項は、次のように定めています。

債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。(1号) 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。(2号)

(e-Gov法令検索 民法(新しいタブで開く))

2020年4月に施行された民法改正で、この2本立ての数え方が整理されました。10年(②・客観的起算点)だけであれば、債務者はいつまで請求され得るかを計算でき、安定した取引ができます。しかし、債権者がいつ権利を行使できる状態になったか分からないまま10年を待たせるのは、債権者にとって酷な場面もあります。そこで、債権者が実際に権利行使できることを知った時から数える5年(①・主観的起算点)を併用し、どちらか早い方で時効を完成させる仕組みになっています。

返済期日を決めて貸したお金や、支払期日が決まっている代金のように、いつ請求できるようになるかが契約の時点ではっきりしている債権では、①の「知った時」と②の「行使できる時」は同じ日(期日の翌日)になるのが通常です。この場合、5年と10年のどちらが先に来るかは自明で、短い5年の方で時効が完成します。②が①より早く来ることはない(知らないのに行使できる状態にはならない)ため、実務上は5年の経過が先に問題になる場面がほとんどです。

どの条文が使われるのか ― 166条・724条・167条の違い

なお、この166条の2本立ては、お金を返してもらう権利のような通常の債権についてのルールです。殴られた・物を壊されたといった不法行為による損害賠償請求権には別の条文(民法724条)が適用され、「損害及び加害者を知った時から三年間」「不法行為の時から二十年間」という異なる数え方になります。また人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権は、民法167条により、166条2号の「十年間」が「二十年間」に延長されます。どの条文が適用されるかで、数え方そのものが変わる点に注意が必要です。

実際にこう判断された裁判がある

供託金取戻請求権の起算点
起算点は供託を維持する必要がなくなった時

消滅時効の起算点は、必ずしもカレンダー上の出来事の日とは限りません。ある人が、債権者にお金を返そうとしたところ受け取りを拒まれたため、法務局に「弁済供託」(受け取ってもらえないお金を預けて、支払ったのと同じ扱いにしてもらう手続き)をしました。その後、事情が変わって供託したお金を取り戻そうとしたところ、申請は却下されます。却下した側は、供託した日から数えて既に10年以上が経っているため、取戻請求権はもう消滅時効にかかっている、という理屈でした。

これに対し本人は、供託を続ける必要がまだある間は、取り戻す権利を行使できる状態にはなかったはずだと主張して、却下の取消しを求めました。争点は、消滅時効の「数え方」をどの日から始めるかです。

名古屋高等裁判所は昭和42年1月17日、次のように判断しました。

弁済供託金取戻請求権は民法所定の一般債権に関する一〇年の消滅時効にかかる。 右消滅時効の起算点は供託者において供託を維持する必要のなくなつたときと解するのが相当である。

(裁判所ウェブサイト 判例検索(新しいタブで開く))

つまり、供託をした日そのものを起点にするのではなく、「供託を続ける必要が無くなった日」を起点にする、という判断です。166条の「権利を行使することができる時」が、出来事があった日の暦をそのまま指すのではなく、法律上その権利を実際に使える状態になった日を指すことを示した一例といえます。

自分の場合はどうなるのか(境界線)

以下は、債権の種類ごとに数え方がどう変わるかの整理です。個別の事案の結論を断定するものではありません。

場面5年・10年の数え方
返済期日を決めて貸したお金・支払期日のある代金期日の翌日が「知った時」「行使できる時」の両方になりやすく、通常は短い5年で時効になる
返済期日を決めずに貸したお金貸した時点でいつでも返還を求められる状態にあるとされることが多く、その時点に近い日から数え始められる
給料・残業代など労働基準法上の賃金労働基準法の規定により5年(当分の間は3年とする経過措置がある)で請求できなくなる。固定残業代が無効と分かった場合に遡れる期間も、この数え方が関わる(→「固定残業代込み」の給料なら、残業代はもう出ないのか)
殴られた・名誉を傷つけられたなど、不法行為による損害賠償166条ではなく724条が適用され、知った時から3年、不法行為の時から20年と数え方が異なる
人の生命・身体の侵害による損害賠償167条により、客観的起算点の10年が20年に延びる(知った時からの5年はそのまま)

受験生向けの一言

答案でこの論点を書くときは、まず条文(166条1項1号・2号)の2つの期間を両方あてはめ、どちらが先に完成するかを事実関係から示すのが型になる。知った時(主観的起算点)と行使できる時(客観的起算点)が同じ日になる事案か、ズレる事案かを見分けることが、あてはめの中心になる。時効には、年数が経つと他人の物の所有権を得る「取得時効」(民法162条)もある。年数が経つと権利が消える今回の消滅時効とは逆方向の制度で、20年使い続けた他人の土地は、本当に自分のものになるのかで解説している。

動画で見る

「知った時から」何年と数える起算点の考え方は、相続放棄をいつまでにするかを決める熟慮期間(民法915条)でも同じように争われます。「レイの法廷」第48話は、親の借金を相続してしまった子どもたちが、3か月の熟慮期間をいつから数えるかを争った事件です。

よくある質問

Q. 時効の期間が過ぎたら、何もしなくても請求されなくなりますか?

いいえ。時効の期間が過ぎても、権利は自動的には消えません。時効の利益を受けるという意思表示(援用、民法145条)をして、初めて効果が確定します。

Q. 内容証明郵便で請求すれば、時効は止まりますか?

催告(請求の意思を伝えること)をすると、そこから6か月を経過するまでの間は時効は完成しません(民法150条1項)。ただし催告を繰り返しても、その間は完成猶予の効力は重ねて得られません(同条2項)。確定的に止めるには、裁判上の請求など別の手段が必要です。

Q. 貸した相手が「もう時効だから返さない」と言ってきたら、それで終わりですか?

時効の期間が過ぎていても、相手が時効の完成を知らずに一部でも支払うなど、時効の利益を放棄したと評価される事情があれば、結論が変わる場合があります。個別の事情によるため、心当たりがある場合は専門家に相談することをお勧めします。

Q. 5年と10年のどちらが適用されるか分からない債権は、どう考えればいいですか?

まず、その債権がいつ発生し、債権者がいつその権利を行使できることを知ったか(または知り得たか)を時系列で整理することから始めます。契約書などで期日が明確な債権は数え方も明確になりやすい一方、期日が不明確な債権は争いになりやすいため、早めに専門家へ相談することをお勧めします。


本記事は、公開されている条文と判決文にもとづく一般的な解説であり、法的助言ではありません。個別の事案については弁護士等の専門家にご相談ください。

民法の判例を、アニメで観る

判例アニメ「レイの法廷」では、民法の回を全18話公開しています。権利の濫用・取得時効と登記・親の監督責任・損害賠償の額など、暮らしと取引の基本になる判例を扱います。

コメント

コメントは即時公開されます。不適切な内容は予告なく削除します。

#レイの法廷#コラム#民法#消滅時効

最近更新した記事

公開後に中身を書き直したものです。日付は更新日。