会社の借金の保証人になった社長は、会社が潰れたらどうなるのか ― 個人保証の重さと外す道
銀行から会社が融資を受けるとき、社長が個人として連帯保証人になるよう求められることがあります。もし会社の経営が行き詰まり、借金を返せなくなったら、保証人になった社長自身はどうなるのでしょうか。結論から言うと、会社が破産して法人として消滅しても、社長個人の保証債務はそれだけでは消えません。会社の債務のうち返せなかった分を、社長が自分の財産から支払う義務を背負い続けます。ただし、それを前提にしたうえで、保証の重さを軽くしたり外したりするための公的な道筋も用意されています。この記事では、その仕組みを条文と裁判例、そして国の制度から整理します。

結論 ― 会社が消えても、保証は消えない。外すには別の手続がいる
なぜそうなるのか ― 保証は「会社が払えなくなったとき」のための契約
保証という制度は、そもそも主たる債務者が払えなくなったときのために存在します。民法446条1項は次のように定めています。
保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う。
つまり「会社が潰れて払えなくなった」という事態こそ、保証人である社長の責任が現実のものになる場面そのものです。会社の経営が悪化したこと自体は、保証人の責任を減らす理由にはなりません。保証人の負担が軽くなるのは、主たる債務の範囲を超えた部分に限られます。
保証人の負担が債務の目的又は態様において主たる債務より重いときは、これを主たる債務の限度に減縮する。
言い換えると、保証人の責任の上限は「会社が本来払うべきだった金額」であり、それより重くなることはなくても、会社が倒産したことを理由に保証人の負担が軽くなるわけでもないのです。
社長は「知らなかった」が通用しない保証人
2020年施行の民法改正では、個人が会社の事業のための借金の保証人になるとき、公証人の前で保証の意味を理解していると口頭で示し、公正証書を作らなければ契約の効力自体が生じない、という安全装置が新設されました。
事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約又は主たる債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約は、その契約の締結に先立ち、その締結の日前一箇月以内に作成された公正証書で保証人になろうとする者が保証債務を履行する意思を表示していなければ、その効力を生じない。
(e-Gov法令検索 民法465条の6(新しいタブで開く))
ところが、この安全装置には例外があります。
前三条の規定は、保証人になろうとする者が次に掲げる者である保証契約については、適用しない。
(e-Gov法令検索 民法465条の9(新しいタブで開く))
その一号に挙がるのが「主たる債務者が法人である場合のその理事、取締役、執行役又はこれらに準ずる者」です。会社の総株主の議決権の過半数を持つ者も、同条二号で同じく除外されます。社長(代表取締役)や、会社の実質的な持ち主である大株主は、この公正証書の手続がなくても保証契約が有効に成立します。法律は「経営者は会社の実情を自分で把握しているはずだ」という前提に立ち、素人の保証人を守るための手続を経営者には及ぼしていないのです。
実際にこう判断された裁判がある ― 「知っていたのに」でなければ保証は外れない
限度額や期間を定めない継続的な連帯保証をめぐり、主たる債務者の経営が行き詰まった直後に、債権者が保証人に無断で巨額の融資を重ねた事案があります。綿花の取引会社が、ある企業の借金について限度額・期限の定めのない連帯保証をしていたところ、取引銀行が約束手形の支払いを拒絶される数日前に、合計約248万円もの手形貸付・割引を行いました。保証人は、債権者がその時点で会社の経営破綻を知っていたはずだとして、自分には責任がないと主張しました。
大阪高等裁判所は、昭和38年9月5日の判決で、まず一般論として次のように述べました。
継続的金融取引きによつて生ずる現在ならびに将来の債務について、その限度額および期限を定めずに連帯保証をした場合における連帯保証人の責任は、取引慣行や信義則に照らして衡平の観点からこれを判定すべく、殊に契約締結当時における当事者の諒解を重視し、これを基礎として考えなければならない。
(裁判所ウェブサイト 判例検索 昭和37(ネ)1578(新しいタブで開く))
そのうえで、主たる債務者の資産信用状態が信頼関係を破る程度に極度に悪化したことを債権者が知りながら、保証人に無断で巨額の融資をした場合には、信義則上、保証人の責任を追及できないとの考え方を示しました。一見すると、保証人に有利な判決に見えます。しかし結論は逆でした。裁判所は、本件の債権者が融資の際に会社の破綻を「知っていた」とまでは認められないとし、保証人の主張を退けました。重大な過失があったとしても、知らなかった以上は話が別だという理由です。
債権者に過失があつたに止まるときは、それが重大な過失にあたる場合でも、故意とは異なり、保証責任の追及を許さないとする理はないと解するのが相当である。
この判決が示すのは、保証人が救われるのは「債権者が主債務者の破綻を知りながら、保証人に隠して追加の融資をした」という、かなり限られた場面だけだということです。単に会社の経営が悪化していた、気づかなかった、では保証人の責任は動きません。個人保証の重さは、こうした裁判例の積み重ねによっても裏付けられています。
会社が破産しても、保証債務だけは残る
会社が法的整理の手続を経て清算され、法人格を失ったとしても、それによって会社が負っていた借金そのものが消えるわけではありません。請求する相手(会社)がいなくなるだけで、債権者が持っていた権利自体は残り、保証人に対しては引き続き行使できます。これを裏付けるのが、破産法253条2項です。この条文は、個人の債務者が破産手続の中で「免責」(裁判所の決定で残った借金の支払い義務を免れること)を受けた場面について、次のように定めています。
免責許可の決定は、破産債権者が破産者の保証人その他破産者と共に債務を負担する者に対して有する権利及び破産者以外の者が破産債権者のために供した担保に影響を及ぼさない。
免責の申立てができるのは「個人である債務者」に限られており(破産法248条1項)、法人である会社自体が免責を受ける制度はありません。会社の場合は、免責という形ではなく、清算の手続を終えて法人格そのものが消えることになります。それでも、この条文が示す「主たる債務者側の事情だけでは保証債務は消えない」という考え方は変わりません。会社が清算で消滅しても、債権者が保証人である社長に対して持つ請求権には影響しないのです。
外す道 ― 経営者保証に関するガイドライン
この重さに対して、国も手をこまねいているわけではありません。日本商工会議所と全国銀行協会を共同事務局とする研究会が、中小企業・経営者・金融機関が自主的に守ることを想定して「経営者保証に関するガイドライン」を定めています。法律のような強制力はありませんが、金融庁・中小企業庁が金融機関に遵守を求めており、実務上は広く使われている枠組みです。会社が法的整理や私的整理の手続に入ると同時に、保証債務についてもこのガイドラインに沿って整理することで、保証人である社長の個人破産を避けつつ、一定の資産を手元に残して再出発できる可能性があります。
経営者保証に関するガイドライン
- 対象債権者は保証債権を持つ金融機関・信用保証協会・サービサー・リース債権者等に限られる
- 整理には対象債権者全員の同意が必要
- 信用情報機関には登録されない
- 自由財産に加えてインセンティブ資産(一定期間の生計費・華美でない自宅等)を残せる可能性がある
個人破産
- 対象債権者は全債権者
- 債権者の同意は不要
- 信用情報機関に登録される
- 残せるのは自由財産のみ
(出典:金融庁・中小企業庁「経営者保証に関するガイドラインを活用してみませんか」(新しいタブで開く))
このガイドラインに基づく保証債務整理を申し出るには、主な要件として、①会社が破産・民事再生等の法的整理か、これに準じる私的整理の手続を開始申立済みであること、②対象債権者に経済合理性が期待できること、③会社と保証人が弁済について誠実であり、財産状況等を適時適切に開示していること、の3つを満たす必要があるとされています。同資料は、廃業の決断が早いほど、事業の毀損を防げる分だけ金融機関側にも経済合理性が生まれ、保証人の手元に残せる資産が増える可能性があるとも説明しています。
自分の場合はどうなるのか
| 場面 | 社長の保証債務への影響 |
|---|---|
| 会社が破産して清算・消滅した | 自動的には消えない。債権者は保証人に未払分を請求できる |
| 公正証書を作らずに保証契約を結んでいた(社長・過半数株主の場合) | 契約は有効。公正証書の不作成を理由に無効を主張できない |
| 経営者保証に関するガイドラインの要件を満たして整理を申し出た | 対象債権者全員の同意があれば、保証債務を整理し、一定の資産を残せる可能性がある |
| 保証を外さないまま放置した | 時効等の事情がない限り、保証債務はそのまま残り続ける |
受験生向けの一言
継続的保証・根保証の論点は、条文の規範だけでなく、事実認定の当てはめが結論を左右する典型です。答案では、まず「限度額・期限の定めのない継続的保証において、信義則上、保証人が解約告知権を取得する」という規範を立てたうえで、本件の事実が「債権者が主債務者の破綻を知りながら」という要件を満たすかどうかを、認定できる事実(知った時期・経緯)に即して丁寧に当てはめることが欠かせません。「知らなかった」と「重大な過失により知らなかった」を区別して扱う発想は、社員のミスで会社が損をしたときの求償の記事で扱った、信義則による責任の絞り込み方とも共通しています。
よくある質問
Q. 社長が会社を辞めれば、会社の借金の保証人という立場からも外れますか?
いいえ、辞任や退任それ自体は保証契約を終わらせる理由にはなりません。保証契約は会社との間ではなく、債権者との間で結ばれた別個の契約だからです。保証を外すには、債権者との合意、あるいは経営者保証に関するガイドラインに沿った整理など、別の手続が必要です。
Q. 保証人になるとき、公正証書を作っていませんでした。契約自体が無効ではないですか?
事業のための借金の保証について公正証書を必須とする民法465条の6は、保証人になろうとする人が会社の取締役や過半数株主である場合には適用されません(民法465条の9)。社長自身が保証人になる典型的な場面では、公正証書がなくても契約は有効に成立します。
Q. 会社の借金が時効で消えれば、保証債務も自動的に消えますか?
保証債務は主たる債務に対して付従性を持つため、主たる債務(会社の借金)が時効によって消滅すれば、保証債務も原則として消滅します。ただし、時効の完成には主張(援用)などの手続が必要であり、単に年数が経過しただけで自動的に消えるとは限りません。
Q. 経営者保証に関するガイドラインを使えば、必ず保証債務がゼロになりますか?
そうとは限りません。ガイドラインは対象債権者全員の同意を前提とする自主的な枠組みであり、同意が得られなければ利用できません。また、整理の結果どこまで保証債務が軽減されるかは、各事案の財産状況や交渉の経過によって異なります。
本記事は、e-Gov法令検索で確認した条文と、裁判所ウェブサイトの判例検索に収録された判決、金融庁・中小企業庁が公表する資料にもとづく一般的な情報であり、法的助言ではありません。個別の事案については弁護士等の専門家にご相談ください。
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