頼んでいない商品が届いた ― 送り付けられた物は、すぐ処分してよいのか
注文した覚えのない商品が、ある日いきなり届いた――箱を開けると請求書が入っていて、「不要な場合はご連絡ください。ご連絡がなければお買い上げとみなします」と書かれている。このような「送り付け商法(ネガティブ・オプション)」に遭ったとき、すぐに処分してよいのでしょうか。結論から言うと、今すぐ処分してかまいません。代金を支払う義務もありません。これは2021年(令和3年)の法改正により、特定商取引法の条文ではっきりと定められています。

結論 ― 送付した業者は、返還を請求できない
なぜそうなるのか ― 契約は「申込み」と「承諾」がそろって初めて成立する
まず前提として、契約がどうやって成立するのかを民法で確認します。民法522条1項は、次のように定めています。
契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
業者が一方的に商品を送り付けてくる行為は、法律上は「売買契約の申込み」にすぎません。申込みがあっただけでは、契約は成立しません。相手方(受け取った側)が、これに対して「承諾」をして初めて契約になります。商品が家に届いた、箱を開けた、というだけでは、何も承諾していないのですから、契約はまだ成立していないのです。
もっとも、民法527条は、承諾の通知そのものを必要としない場合があることも定めています。
申込者の意思表示又は取引上の慣習により承諾の通知を必要としない場合には、契約は、承諾の意思表示と認めるべき事実があった時に成立する。
これは、たとえば継続的に取引している相手から来た見慣れた注文に対して、黙って商品を発送すれば、その発送という行為自体が「承諾」と認められる、というような場面を想定した規定です。一方的に送り付けられた覚えのない商品について、受け取った側が何もしていないのに、この条文を使って「承諾があった」と業者が主張することはできません。
2021年の法改正で何が変わったのか ― 特定商取引法59条・59条の2
以前は、送り付けられた商品について、受け取った側が「保管」の負担を負う期間がありました。業者に商品の引取りを請求すれば7日間、請求しなければ商品が届いてから14日間は、下手に使ったり処分したりできない、という仕組みです。日本弁護士連合会が2020年に出した意見書は、この当時の問題点を次のように整理しています。
現行法においては、七日又は十四日より前であれば、商品を送付した者が所有権に基づく返還請求権を行使することができる。そのため、商品の送付を受けた者は、七日又は十四日が経過するまでは「自己の財産に対するのと同一の注意」(民法六五九条)をもつて当該商品を保管すべきこととなり、自分には不要な物であつても勝手に処分するわけにいかない。
(日本弁護士連合会「送り付け商法(ネガティブ・オプション)の全面的な禁止を求める意見書」2020年12月17日(新しいタブで開く))
この保管期間の仕組みは、2021年の特定商取引法改正で撤廃されました。消費者庁は、この改正規定(特定商取引法59条・59条の2)が令和3年7月6日に施行されたことを案内しています(消費者庁 特定商取引法の改正について(新しいタブで開く))。改正後の特定商取引法59条1項は、次のように定めています。
販売業者は、売買契約の申込みを受けた場合におけるその申込みをした者及び売買契約を締結した場合におけるその購入者(以下この項において「申込者等」という。)以外の者に対して売買契約の申込みをし、かつ、その申込みに係る商品を送付した場合又は申込者等に対してその売買契約に係る商品以外の商品につき売買契約の申込みをし、かつ、その申込みに係る商品を送付した場合には、その送付した商品の返還を請求することができない。
(e-Gov法令検索 特定商取引に関する法律(新しいタブで開く))
「14日間待ってから」という条件が無くなり、業者は送付したその時から商品の返還を求められません。待つ必要が無いので、受け取った側は、届いたその日のうちに自由に使っても、捨ててもよいことになります。
さらに、業者が「契約はもう成立しています」と嘘をついて商品を送り付けてきた場合についても、特定商取引法59条の2第1項が同様のルールを定めています。
販売業者は、売買契約の成立を偽つてその売買契約に係る商品を送付した場合には、その送付した商品の返還を請求することができない。
(e-Gov法令検索 特定商取引に関する法律(新しいタブで開く))
契約が成立したという業者の言い分が事実かどうかにかかわらず、送付した商品の返還は求められません。なお、特定商取引法59条2項は、商品の送付を受けた側が事業者で、その事業のために契約を結ぶことになる場合には、1項の規定を適用しないとしています。企業間の取引で誤発注・誤納品が起きた場合などは、この一般消費者向けのルールの対象外になる点には注意が必要です。
実際にこう判断された裁判がある
「物が自分の手元にあるという事実だけでは、契約は成立しない」という考え方を、最高裁判所大法廷が別の場面で示した例があります。NHKの受信契約をめぐる事件です。放送法64条1項は、受信設備を設置した人に受信契約の締結を義務付けていますが、設置しただけで自動的に契約が成立するのかが争われました。
最高裁判所大法廷は平成29年12月6日、次のように判断しました。
放送法六四条一項は、日本放送協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者に対しその放送の受信についての契約の締結を強制する旨を定めた規定であり、日本放送協会からの上記契約の申込みに対して上記の者が承諾をしない場合には、日本放送協会がその者に対して承諾の意思表示を命ずる判決を求め、その判決の確定によつて上記契約が成立する。
(裁判所ウェブサイト 判例検索 平成26年(オ)第1130号(新しいタブで開く))
これは放送法という特別な法律が受信設備の設置者に契約締結そのものを義務付けている場面の話であり、特定商取引法59条とは条文も争点も異なります。しかし、「設備を設置している」という事実の状態だけでは契約は当然には成立せず、申込みに対する承諾(またはそれに代わる確定判決)が無ければ契約は成立しない、という考え方の筋は共通しています。放送法のような特別な締結義務が無い一方的な商品の送り付けであれば、なおさら、受け取っただけで契約が成立することはありません。
同じように「申込みへの対応次第で契約や取消しが変わる」という通信販売のルールを扱った記事に、「お試し」のつもりが定期購入だった記事があります。
自分の場合はどうなるのか(境界線)
以下は、条文から読み取れる範囲の整理です。個別の事案の結論を断定するものではありません。
| 場面 | 扱い |
|---|---|
| 注文・契約をした覚えのない業者から、代金引換や請求書付きで商品が届いた | 特商法59条1項の対象。業者は返還を請求できない。すぐに使っても捨ててもよい |
| 「契約は成立済みです」という書面と一緒に商品が届いた | 特商法59条の2第1項の対象。業者の言い分の真偽にかかわらず、返還は求められない |
| 代金引換で、家族が注文したものと誤認して支払ってしまった | 契約が成立していない以上、支払った代金の返還を求められる可能性がある |
| 事業を営んでおり、その事業のために注文したつもりで商品が届いた | 特商法59条2項により1項の対象外。通常の契約関係の問題として扱われる |
| 配送業者の誤配達で、他人宛ての荷物が自分に届いた | 送り付け商法とは別の問題(誤配送)。業者は商品の返還を求められる |
心配な事情が実際にある場合は、一般論ではなく消費生活センターや弁護士等の専門家に相談してください。
受験生向けの一言
この論点を答案で書くときは、まず契約の成立要件(民法522条1項の申込みと承諾)から出発し、一方的な送付行為は「申込み」にとどまり「承諾」が無い以上、契約は成立していないことを示すのが基本の型です。そのうえで、特定商取引法59条・59条の2が、契約の未成立とは別に「業者側の返還請求権を否定する」という形で保護を与えている、という条文の役割分担を区別して書くと、論点の所在が採点者に伝わりやすくなります。民法の原則と、特商法という特別法による上乗せの保護を混同しないことが重要です。
よくある質問
Q. 代金を支払うよう電話や督促状で強く求められています。支払わなければいけませんか?
いいえ。注文も契約もしていない以上、民法522条1項が定める契約は成立していません。契約が成立していない商品の代金を支払う義務はありません。
Q. 届いた商品を、開けて使ってしまいました。それでも大丈夫ですか?
特定商取引法59条1項は、業者が送付した商品の返還を請求できないと定めているため、使ったこと自体を理由に商品を取り戻されることはありません。ただし、一方的に送り付けられたものではなく、実際に自分で注文した記憶がある商品と混同していないか、念のため確認することをおすすめします。
Q. 捨ててしまった後で、「返してほしい」と業者から連絡が来ました。応じる必要がありますか?
応じる必要はありません。特定商取引法59条1項により、業者はその送付した商品の返還を請求することができないと定められているためです。
Q. 会社宛てに、注文していない備品が送り付けられました。同じルールが使えますか?
使えない場合があります。特定商取引法59条2項は、商品の送付を受けた者が営業のために又は営業として締結することになる売買契約の申込みについては、1項の規定を適用しないと定めています。事業者間の取引では、誤発注や契約関係の有無を個別に確認する必要があります。
まとめ
- 一方的に商品を送り付けられても、受け取った側が何かを承諾しない限り、契約は成立しない(民法522条1項)
- 2021年(令和3年)の法改正により、業者は一方的に送付した商品の返還を請求できなくなった(特定商取引法59条1項)。以前のような保管期間は不要で、届いた時点ですぐに使っても処分してもよい
- 業者が「契約は成立済み」と偽って商品を送ってきた場合も同様に、返還は請求できない(特定商取引法59条の2第1項)
- 送付を受けた側が事業者で、その事業のために契約することになる場合はこの規定の対象外(特定商取引法59条2項)
本記事は、e-Gov法令検索で確認した条文と、裁判所ウェブサイトの判例検索に収録された判決にもとづく一般的な情報であり、法的助言ではありません。個別の事案については消費生活センターや弁護士等の専門家にご相談ください。
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#レイの法廷#コラム#民法#特定商取引法#ネガティブオプション
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