孫子の兵法で目標設定をする — 始計・軍形・虚実の3篇を「準備→形→余白」の順に使う
<!-- intent: 孫子の兵法を読んだ(または引用で見た)うえで、来期や来年の目標を立てる前に、古典の型をそのまま自分の目標設定の手順として使いたい | satisfied: 始計(廟算)・軍形(先為不可勝)・虚実(先處戰地)の原文・読み・篇名・底本・現代語訳と、準備→形→余白の3段階で紙1枚に書く手順・余白の量の目安・崩れたときに戻る段まで揃い、「孫子の兵法 目標 立て方」「孫子 虚実篇 意味」を再検索しなくてよい状態 | excluded: 孫子13篇の全体解説と名言一覧(言葉が増えるだけで、今日書く紙が1行も進まないため) / 企業の経営計画・マーケティング戦略への応用事例(組織の意思決定の話で、個人一人の目標には縮尺が合わないため) -->

孫子の兵法を目標設定に使うなら、13篇の全部ではなく、始計・軍形・虚実の3篇だけを「準備→形→余白」の順に使うのが早いです。 始計篇は目標を決める前に自分の条件を数えること、軍形篇は崩れない形で目標を置くこと、虚実篇は予定に余白を残すことを教えています。
多くの解説は「戦わずして勝つ」などの名言を並べて終わります。しかし目標設定で効くのは言葉ではなく、3篇が示す順番です。
この記事では3篇の原文(漢文)・読み・篇名・現代語訳を示し、紙1枚でできる6手順まで落とします。底本は金谷治 訳注『新訂 孫子』(岩波文庫)です。
孫子の兵法を目標設定に使うなら、始計・軍形・虚実の3篇です
結論は、目標を「準備→形→余白」の3段で組み立てることです。順番を入れ替えないことが要点で、孫子はこの3つをそれぞれ別の篇の冒頭近くに置いています。

ふつうの目標設定は、まず到達点を決めて、そこから逆算します。孫子の順番は逆で、先に自分の側の条件を数え、その条件で崩れない形を作り、さらに余白を残してから動きます。 到達点はその後です。
第1段「準備」— 始計篇は、動く前に勝ち目を数えよと言います
始計篇が求めるのは、やる気を出すことではなく、数えることです。原文は次の一節です。
夫未戰而廟算勝者,得算多也;未戰而廟算不勝者,得算少也。多算勝,少算不勝,而況於無算乎。
読み: 夫れ未だ戦わずして廟算して勝つ者は、算を得ること多ければなり。未だ戦わずして廟算して勝たざる者は、算を得ること少なければなり。算多きは勝ち、算少なきは勝たず。而るを況んや算無きに於いてをや。
現代語訳: 戦う前の廟算で勝つと出る者は、有利な条件を多く数えられたからである。勝たないと出る者は、少なかったからである。条件が多ければ勝ち、少なければ勝たない。まして数えてもいない者はどうなるか。
廟算(びょうさん=出陣の前に祖先を祀る廟で開いた、条件を数え上げる会議)は当時の実務でした。兵の数・兵糧・季節・地形・将の力量を数えて、足りなければ出陣そのものを見送ります。孫子にとって計画とは、意気込みではなく勘定でした。
人生への変換は、目標を書く前に「いま自分の側に何があるか」を数えることです。週に使える時間、すでに持っている技能、頼れる人、使えるお金の4つで足ります。5つの観点で自分を測る型は孫子の「五事」で自己分析するにまとめました。
第2段「形」— 軍形篇は、負けない形を先に作れと言います
軍形篇が言うのは、勝ちは探すものではなく、形として先に用意するものだということです。原文は次の一節です。
昔之善戰者,先為不可勝,以待敵之可勝。不可勝在己,可勝在敵。
読み: 昔の善く戦う者は、先ず勝つべからざるを為して、以て敵の勝つべきを待つ。勝つべからざるは己に在り、勝つべきは敵に在り。
現代語訳: 昔の戦いの上手な者は、まず自分が負けない態勢を作り、そのうえで相手に隙ができるのを待った。負けない態勢は自分の側にあり、勝てるかどうかは相手の側にある。
ここで孫子は、自分で決められること(不可勝)と、相手次第のこと(可勝)をはっきり分けています。同じ篇の「勝兵は先ず勝ちて而る後に戦いを求む」という一節も同じ構造で、詳しくは「先ず勝ちて後に戦う」の意味と、人生での使い方で扱いました。
人生への変換は、目標の本体を「結果」から「自分の側だけで回る行動」に置き換えることです。 合格・内定・昇進・体重は、相手や運が混ざるので可勝の側です。毎週かならず回る1行は不可勝の側で、自分だけで守れます。
ただし行動でも曖昧だと効きません。目標設定の研究では、具体的で難しい目標のほうが「ベストを尽くす」より成果が高いことが、35年分の実験の統合として報告されています(Locke & Latham, 2002, American Psychologist)。不可勝の側に置いたうえで、数を入れて書いてください。
第3段「余白」— 虚実篇は、先に場に着いた側が楽だと言います
虚実篇が示すのは、主導権は余力を持っている側にあるということです。原文は次の一節です。
凡先處戰地而待敵者佚,後處戰地而趨戰者勞。故善戰者,致人而不致於人。
読み: 凡そ先に戦地に処りて敵を待つ者は佚し、後れて戦地に処りて戦いに趨く者は労す。故に善く戦う者は、人を致して人に致されず。
現代語訳: 先に戦場へ着いて相手を待つ側は楽であり、後から戦場へ駆けつける側は疲れる。だから戦いの上手な者は、相手を自分の思うところへ来させ、自分は相手の思うところへ行かされない。
佚(いつ=休んでいて余力がある状態)と労(ろう=疲れている状態)の差は、強さではなく到着の順です。当時は行軍そのものが消耗だったので、先に着くことが条件づくりでした。
人生への変換は、予定を埋め尽くさないことです。余白のない計画は、割り込みが来た瞬間に「後から駆けつける側」になります。 余白があるから、急な残業や体調不良のあとでも自分の順番で戻れます。
3段を紙1枚に書く手順(20分)
手順は6つで、上から順に書くだけです。紙とペンだけで終わります。
- 【準備】週に使える時間を数える。実際に空いている時間を、曜日ごとに書き出す
- 【準備】すでに持っている技能・頼れる人・使えるお金を、1行ずつ書く
- 【形】達したい結果を1つ書き、その横に「相手や運が混ざる部分」に印を付ける
- 【形】印の付いていない部分から、毎週かならず回る1行を作る(数を入れる)
- 【余白】期限を自分の見積もりの1.6倍に伸ばし、週に1日は何も入れない日を決める
- 【今日】その1行を今日の分量に割り、今日やることを1つだけ書く
書き終えたら、3段がそろっているかを確かめます。準備だけなら動き出せず、形だけなら割り込みで崩れ、余白だけなら前に進みません。
| 目標の例 | 準備(数えた条件) | 形(毎週回る1行) | 余白(空ける場所) |
|---|---|---|---|
| 資格に合格する | 平日夜に計4時間・過去問集あり | 過去問を週60問解く | 日曜は入れない・期限は6か月→10か月 |
| 転職する | 週末に計5時間・同業の知人2人 | 職務経歴書を週1回だけ直す | 土曜の午前のみ・面接期間は他を止める |
| 体調を整える | 朝に計3時間・徒歩圏にジム | 週2回、20分だけ歩く | 雨の日は振り替え枠に回す |
目標が崩れたら、どの段に戻るか
崩れ方によって戻る段が違います。原因を気力に求めず、3段のどこが欠けたかで見ます。
- 始められない → 準備に戻ります。手持ちの時間を数えていないので、分量が現実に合っていません
- 始めたのに続かない → 形に戻ります。目標が可勝の側(結果)に置かれていて、自分だけでは守れません
- 続いていたのに急に止まった → 余白に戻ります。割り込みの吸収先が無かっただけです
崩れたときに足すのは気力ではなく、3段のどれかの書き直しです。
先勝(Sensho)ではこうなる
私たち JurisCode.AI は、軍形篇の一節から名前を取ったアプリ「先勝(Sensho)」を作っています。上の6手順は紙で完結しますが、続けていくと準備の欄・毎週の1行・今日の一手が別の紙に散っていきます。
先勝では、この並びを「軍略→目標→今日の一手」という1つの流れに置きました。数えた条件から今日やることまでが同じ画面にあるので、どの段を書き直したのかが後から追えます。続いた日数は連続記録として残ります。
いまは無料・広告なしのベータとして公開しています。現在の機能と画面は先勝(Sensho)のページ(新しいタブで開く)で確認できます。紙でもこの記事の手順は最後まで回りますので、道具は必要になってからで十分です。
よくある質問
Q. 孫子は戦争の本です。目標設定に使うのは的外れではないですか。
篇を選べば的外れになりません。始計の廟算・軍形の不可勝・虚実の佚労は、どれも「限られた資源で損を小さくする」構造の話で、個人の計画にそのまま縮尺が合います。一方で行軍篇の布陣や火攻篇は、比喩に言い換えた時点で原文の意味を離れます。
Q. 「戦わずして勝つ」なら、高い目標は立てないほうがよいのですか。
逆です。孫子が避けよと言っているのは、消耗の大きい戦い方であって、大きな目的ではありません。到達点は高く置いたまま、そこへ向かう形を消耗の少ないものにしてください。
Q. 余白を2割も残すと、目標が緩くなりませんか。
緩くなるのではなく、完走率が変わります。予定を100%埋めた計画は、1回の割り込みで予定表そのものが意味を失い、書き直す手間で止まります。余白は、休むための枠ではなく割り込みの吸収先です。
Q. SMART や OKR とは、どちらを使えばよいですか。
併用できます。SMART や OKR は目標の書式で、孫子の3篇は目標を立てる順番です。手順4で毎週の1行に数を入れるところは SMART の指標と重なり、結果と行動を分ける考え方は OKR の Objective と Key Results の関係に近いです。順番を先に決め、書式は好きなものを使ってください。
Q. 原文(漢文)まで確認する必要がありますか。
必要はありません。載せているのは訳が1通りではないからで、「致人而不致於人」を「主導権を握る」と訳すか「相手を動かす」と訳すかで受け取る意味が変わります。原文と篇名があれば、別の解説と自分で突き合わせられます。
出典
- 金谷治 訳注『新訂 孫子』岩波文庫、2000年改版(篇名・原文・訓読・語釈の底本)
- 荻生徂徠『孫子詳解』大日本教育書院、1920年 — 国立国会図書館デジタルコレクション(新しいタブで開く)(『孫子国字解』の改題。インターネット公開)
- Locke, E. A., & Latham, G. P. (2002). Building a practically useful theory of goal setting and task motivation: A 35-year odyssey. American Psychologist, 57(9), 705–717. doi:10.1037/0003-066X.57.9.705(新しいタブで開く)
- Buehler, R., Griffin, D., & Ross, M. (1994). Exploring the "planning fallacy": Why people underestimate their task completion times. Journal of Personality and Social Psychology, 67(3), 366–381. doi:10.1037/0022-3514.67.3.366(新しいタブで開く)
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#孫子の兵法#目標設定#先勝
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