有給休暇を取る理由は、会社に言わなければならないのか ― 会社が言える「別の日にして」の範囲
有給休暇の申請書に「旅行のため」「私用のため」などと理由を書かされたことはないでしょうか。結論から言うと、理由を会社に告げる法律上の義務はありません。有給休暇をいつ取るかを決める権利(時季指定権)は労働者にあり、法律上当然に成立するもので、会社の承認を条件にしていません。会社が対抗できるのは、その休暇が事業の正常な運営を妨げる場合に限って認められる「時季変更権」(別の日にしてもらう権利)だけです。この記事では、労働基準法39条の条文と、裁判所の判例検索に収録された最高裁判決から、この時季変更権が使える範囲を整理します。

結論 ― 理由を言う義務はない。ただし請求のタイミングが遅いと話は変わる
なぜそうなるのか ― 条文は「与えなければならない」が原則
有給休暇について定める労働基準法39条5項は、次のように規定しています。
使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。
条文の原則は「請求した時季に与えなければならない」であり、会社が休暇を拒める場面は「事業の正常な運営を妨げる場合」という、ただし書きの例外に限られています。この条文のどこにも、労働者が理由を述べることを義務づける文言はありません。
実際にこう判断された裁判がある
ある会社の就業員2名が、それぞれ別の日に有給休暇を請求した事件があります。1人は当日の朝8時40分ごろ、出社せずに電話で宿直職員を通じて理由を述べないまま1日分の休暇を請求しました。もう1人も同じように、当日の朝7時30分ごろ、宿直職員を通じて理由を述べずに午前中2時間の休暇を請求しています。
いずれも、所属長の課長は「事務に支障が生ずるおそれがある」と判断しましたが、休暇を必要とする事情によっては業務に支障があっても認めるべき場合があると考え、すぐには時季変更権を行使せず、本人に理由を聴取しようとしました。ところが、どちらの労働者も出社後に理由を明らかにすることを拒んだため、課長はその時点で初めて、遅滞なく休暇の不承認(時季変更権の行使)を通知しました。
最高裁判所第一小法廷は、昭和57年3月18日の判決で、まず有給休暇の権利の性質について次のように述べました。
年次有給休暇の権利は、労働基準法三九条一、二項の要件を充足することにより、法律上当然に労働者に生ずるものであつて、その具体的な権利行使にあたつても、年次有給休暇の成立要件として使用者の承認という観念を容れる余地はないものであり(略)
つまり有給休暇は、労働者が時季を指定した時点で成立し、会社の「承認」という手続きを挟む必要がないということです。そのうえで裁判所は、今回のケースで時季変更権の行使を適法と認めましたが、その理由づけには重要な歯止めが付いています。
使用者が時季変更権を行使するか否かを判断するため労働者に対し休暇の利用目的を問いただすことを一般的に許容したもの、あるいはまた、労働者が休暇の利用目的を明らかにしないこと又はその明らかにした利用目的が相当でないことを使用者の時季変更権行使の理由としうることを一般的に認めたものでない(略)
つまり「理由を言わなかったから時季変更権を行使してよい」という一般論を認めたわけではありません。このケースで時季変更権の行使が認められた本当の理由は、就業規則で定められた「前々日の勤務終了時まで」という請求期限を守らずに、当日の朝になって初めて請求したため、代わりの人員を手配することが客観的に難しかった、という事情にあります。理由を聞いたのは、本来は期限を過ぎた請求であっても、事情次第では認めてあげようという会社側の配慮であって、理由を聞くこと自体が適法な条件になっているわけではないのです。
自分の場合はどうなるのか(境界線)
以下は、条文と判決から読み取れる傾向の整理です。個別の事案の結論を断定するものではありません。
| 場面 | 会社が「別の日にして」と言える可能性 |
|---|---|
| 就業規則の請求期限(前日・前々日まで等)を守って、理由を言わずに請求した | 低い(会社は代わりの人員を手配する時間があるため) |
| 請求期限を大きく過ぎて、当日や直前になって初めて請求した | 上がりうる(代替要員の確保が客観的に難しくなるため) |
| 同じ部署で同じ日に複数人が重なって請求し、業務が回らなくなる | 上がりうる(事業の正常な運営を妨げる具体的な事情があるため) |
| 会社が理由を聞き、拒んだことだけを根拠に拒否してきた | 低い(理由の不開示それ自体は時季変更権の一般的な理由にならない) |
受験生向けの一言
この論点を答案で書くときは、「年次有給休暇の権利は請求と同時に法律上当然に発生し、使用者の承認を要件としない(形成権)」という原則と、「使用者が対抗できるのは事業の正常な運営を妨げる場合の時季変更権に限られる」という例外を分けて書くのが型になります。会社の「承認」や「理由の提出」は、権利の成立要件そのものではなく、時季変更権を行使するかどうかを判断するための事実上の手がかりにすぎない、という位置づけを押さえておくと、退職の申入れが会社の承諾なく一定期間で効力を生じる退職の自由の論点とも共通する「労働者の一方的な権利行使に会社の承認を要件としない」という構造が見えてきます。
よくある質問
Q. 有給休暇の申請書に理由欄があるのですが、書かないと申請は通らないのですか?
申請書の理由欄への記入は会社の運用上の取り扱いにすぎず、法律上は休暇の成立要件ではありません。理由を書かないことだけを理由に会社が休暇を拒否することは、判例の考え方に照らすと一般的には認められません。
Q. 会社はどんなときに「別の日にしてほしい」と言えるのですか?
労働基準法39条5項のただし書きにより、請求された時季に休暇を与えると事業の正常な運営を妨げる場合に限られます。代わりの人員を確保できないなど、具体的な支障が必要です。
Q. 就業規則で「3日前までに申請すること」と決まっている場合、守らないと休暇は取れませんか?
請求期限の定め自体は、記事中の判決が触れているとおり合理的な範囲で有効とされます。ただし期限を過ぎたからといって休暇の権利が消えるわけではなく、期限を過ぎた請求に対して会社が時季変更権を行使できるかどうかは、代替要員の確保が実際に難しかったかなど、個別の事情によります。
Q. 理由を正直に話したほうが、休暇は通りやすくなりますか?
法律上は理由の開示を義務づけられていませんが、記事中の判決のように、請求が期限に間に合わなかった場合に会社が時季変更権を行使するかどうかを判断する材料として、理由を考慮してもらえる場面はあります。
本記事は、裁判所ウェブサイトの判例検索に収録された判決と、e-Gov法令検索で確認した条文にもとづく一般的な情報であり、法的助言ではありません。個別の事案については弁護士等の専門家にご相談ください。
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#レイの法廷#コラム#労働基準法#年次有給休暇
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