共犯関係の解消の判例 —「おれ帰る」と告げて帰った男は、なぜ責任を負ったのか
仲間と一緒に暴行を加えたあと、「おれ帰る」とだけ言って先に帰った男は、その後に仲間が加えた暴行から生じた死について責任を負うのか。最高裁判所第一小法廷は平成元年6月26日の決定で、負うと判断しました。帰った時点で仲間がなお制裁を加えるおそれは消えておらず、それを防ぐ手立てを何一つ講じないまま「成り行きに任せて現場を去つた」にすぎない以上、当初の共犯関係は解消していない——これが理由です。共犯関係の解消(共犯からの離脱)について、最高裁が正面から判断枠組みを示した決定として知られています。

事件の基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 裁判所 | 最高裁判所第一小法廷 |
| 判断 | 平成元年(1989年)6月26日 決定・上告棄却(裁判官全員一致) |
| 事件番号 | 昭和63年(あ)第948号 |
| 事件名 | 傷害致死、死体遺棄 |
| 判例集 | 刑集43巻6号567頁 |
| 原審 | 東京高等裁判所 昭和63年7月13日 |
| 論点 | 共犯関係の解消(共犯からの離脱) |
| 参照法条 | 刑法60条・205条1項 |
書誌は裁判所ウェブサイトの裁判例情報(新しいタブで開く)で確認できます。以下、決定文の表記にならい、被告人の兄貴分をA、被害者をBと記します。
何が起きたのか
決定文が認定した事実は、次のとおりです。被告人はAの舎弟分でした。両名は、昭和61年1月23日深夜、スナックで一緒に飲んでいたBの酒癖が悪く、再三たしなめたのに逆に反抗的な態度を示したことに憤慨し、謝らせるために車でA方へ連行します。
一階八畳間でBの態度を難詰し、謝ることを強く促しましたが、Bは頑として応じませんでした。二人は激昂し、Bの身体に対して暴行を加える意思を通じ合ったうえで、翌24日午前3時30分ころから約1時間ないし1時間半にわたり、竹刀や木刀でこもごもBの顔面や背部を多数回殴打しました。
被告人が現場を出たのは、同日午前5時過ぎころです。決定文は、そのときの様子をこう書き残しています。
その際「おれ帰る」といつただけで、自分としてはBに対しこれ以上制裁を加えることを止めるという趣旨のことを告げず、Aに対しても、以後はBに暴行を加えることを止めるよう求めたり、あるいは同人を寝かせてやつてほしいとか、病院に連れていつてほしいなどと頼んだりせずに、現場をそのままにして立ち去つた
その後ほどなくして、AはBの言動に再び激昂し、「まだシメ足りないか」と怒鳴って八畳間でBの顔を木刀で突くなどの暴行を加えました。Bは、そのころから同日午後1時ころまでの間に、A方において甲状軟骨左上角骨折に基づく頸部圧迫等により窒息死します。
ここに、この事件の難しさがあります。Bの死が、被告人が帰る前の二人の暴行によるものか、帰った後のA単独の暴行によるものかは、断定できませんでした。
争点 — 帰った後の暴行から生じた死に、帰った男は責任を負うか
第1審(東京地方裁判所 昭和62年7月27日)も原審も、被告人が立ち去った後にAが暴行を加えた時点で共犯関係は解消していないとして、傷害致死罪の共同正犯を認めました。
これに対する弁護人の主張には、筋が通っていました。共謀に基づく暴行は被告人が帰った時点で終わっており、その後のAの暴行は共謀の外にある。共犯関係はすでに解消していたのだから、Aの暴行によって生じた可能性のあるBの死の責任を被告人に問うことはできない、というものです。
共同正犯には「一部実行の全部責任」が働きます。刑法60条は「二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする」と定めており、共謀してその一部を実行すれば、仲間が生じさせた結果についても正犯として責任を負う。傷害致死罪(刑法205条「身体を傷害し、よって人を死亡させた者は、三年以上の有期拘禁刑に処する」)のように、傷害から重い結果が生じる型の罪でも同じです。だからこそ、「抜けた」と認められるかどうかが、そのまま死の責任の有無に直結しました。
最高裁は何と言ったか
最高裁は上告を棄却し、職権による判断として次のように述べました。
被告人が帰つた時点では、Aにおいてなお制裁を加えるおそれが消滅していなかつたのに、被告人において格別これを防止する措置を講ずることなく、成り行きに任せて現場を去つたに過ぎないのであるから、Aとの間の当初の共犯関係が右の時点で解消したということはできず、その後のAの暴行も右の共謀に基づくものと認めるのが相当である。
つまり、最高裁が見たのは二点です。第一に、被告人が帰った時点で、Aがなお制裁を加えるおそれが消えていたか。第二に、消えていないのなら、被告人はそれを防止する措置を講じたか。 どちらも満たされていないから、共犯関係は続いている——そう判断しました。
裏を返せば、この二点のどちらかが満たされていれば、結論は変わり得たということでもあります。決定文が、被告人が「しなかったこと」(暴行をやめるよう求める・寝かせてやってほしいと頼む・病院に連れていってほしいと頼む)をわざわざ一つずつ書き並べているのは、そのためだと読めます。
裁判所が公表している裁判要旨も、この構造をそのまま述べています。
甲が、乙と共謀のうえ、こもごも丙に暴行を加えたのち、現場から立ち去るに際し、乙において丙に対しなお暴行を加えるおそれが消滅していなかつたのに、格別これを防止する措置を講じなかつたときは、甲乙間の当初の共犯関係は、右の立ち去つた時点で解消したものということはできない。
着手前に抜けても、結論は同じだった — 最高裁平成21年6月30日決定
「暴行の途中で帰ったから厳しく見られたのだ」と考えたくなりますが、そうではありませんでした。最高裁判所第三小法廷 平成21年6月30日決定(平成19年(あ)第1580号・住居侵入、強盗致傷被告事件・刑集63巻5号475頁)は、強盗に着手する前に離脱した被告人についても、解消を否定しています。
被告人は以前にも数回、同じ共犯者らと民家に侵入して家人に暴行を加え金品を強奪していました。犯行の前夜には被害者方とその付近を下見し、共犯者7名との間で「明かりが消えたら2名が屋内に侵入し、内側から入口のかぎを開けて侵入口を確保したうえで、被告人を含む他の者も屋内に入って強盗に及ぶ」という住居侵入・強盗の共謀を遂げています。
当日午前2時ころ、共犯者2名が窓から侵入し、内側からドアの施錠を外して侵入口を確保しました。ところが見張り役が現場付近に人が集まってきたのを見て、屋内の共犯者に電話をかけ、「危ないから待てない。先に帰る。」と一方的に伝えて電話を切ります。車内で待機していた被告人ら3名は話し合って一緒に逃げることにし、被告人の運転する車で立ち去りました。残った共犯者らは、午前2時55分ころ、そのまま強盗を実行し、被害者2名を負傷させています。
最高裁は、こう判示しました(原文の読点は「,」)。
被告人が離脱したのは強盗行為に着手する前であり,たとえ被告人も見張り役の上記電話内容を認識した上で離脱し,残された共犯者らが被告人の離脱をその後知るに至ったという事情があったとしても,当初の共謀関係が解消したということはできず,その後の共犯者らの強盗も当初の共謀に基づいて行われたものと認めるのが相当である。
着手前で、抜けることを伝えており、残った仲間もそれを知っていた。それでも足りない、と最高裁は言ったわけです。求められたのは、ここでも「それ以後の犯行を防止する措置」でした。犯罪のどの段階で抜けたかという時期の問題については実行の着手をめぐるクロロホルム事件の記事もあわせてどうぞ。
なお、この事件で被告人が去った時点では、住居侵入はすでに既遂です。争われたのは、その後の強盗致傷の部分でした。
「解消」ではなく「新たな共謀」で解いた事件 — 最高裁平成6年12月6日判決
三つ目は、無罪になった事件です。最高裁判所第三小法廷 平成6年12月6日判決(平成2年(あ)第335号・傷害被告事件・刑集48巻8号509頁)は、原判決と第1審判決を破棄し、被告人を無罪としました。
昭和63年10月23日午前1時30分ころ、被告人は同級生らと路上で雑談していました。そこへ酩酊した男性(当時45歳)が通りかかり、同級生の車のアンテナに上着を引っかけて曲げたまま謝りもせず立ち去ろうとします。声をかけられた男性は戻ってきて、同級生の前にいた女性の長い髪をつかみ、幅員約16.5メートルの幹線道路を横断して引き回しました。
被告人ら4名は、女性の髪から手を放させようと男性を殴る蹴るなどし、被告人も脇腹や肩を二度ほど足蹴にしています。やがて男性は髪から手を放しましたが、悪態をつきながら駐車場の奥へ後ずさりし、4名も追っていきました。その途中、仲間の一人が殴りかかろうとするのを別の一人が二度にわたって制止しています。しかしその直後、別の同級生が男性の顔面を殴打し、男性は転倒して頭部を打ち、入通院加療約7か月半を要する外傷性小脳内血腫、頭蓋骨骨折等の傷害を負いました。被告人は、この後半の場面では自ら暴行を加えていません。
第1審(東京地方裁判所 平成元年9月12日)は全体を一連の行為として傷害罪の共同正犯を認め、過剰防衛として懲役10月・執行猶予2年としました。原審(東京高等裁判所 平成2年2月27日)も維持します。最高裁は、これを破棄しました。
侵害現在時における暴行が正当防衛と認められる場合には、侵害終了後の暴行については、侵害現在時における防衛行為としての暴行の共同意思から離脱したかどうかではなく、新たに共謀が成立したかどうかを検討すべきであって、共謀の成立が認められるときに初めて、侵害現在時及び侵害終了後の一連の行為を全体として考察し、防衛行為としての相当性を検討すべきである。
つまり、正当防衛として適法な反撃を共同した後の場面では、「抜けたかどうか」ではなく「新たに共謀が成立したかどうか」を問うということです。最高裁は、駐車場が行き止まりではなく男性が逃げ場を失っていたとはいえないこと、仲間の一人が二度も制止に入っていることなどから、被告人について追撃行為の共謀を認めることはできないとしました。正当防衛と過剰防衛の境目そのものについては勘違い騎士道事件の記事で扱っています。
三つの事件を一枚に
| 平成元年決定 | 平成21年決定 | 平成6年判決 | |
|---|---|---|---|
| 抜けた時期 | 暴行の途中(着手後) | 強盗の着手前 | 侵害終了後の追撃に加わらず |
| 抜け方 | 「おれ帰る」とだけ告げて立ち去った | 見張り役が電話で「先に帰る」と伝え、車で立ち去った | 追撃には加わらず、制止もしなかった |
| 防止の措置 | 講じていない | 講じていない | (解消の問題として扱われていない) |
| 裁判所の枠組み | 共犯関係の解消 | 共犯関係の解消 | 新たな共謀の成否 |
| 結論 | 解消を否定・傷害致死罪の共同正犯 | 解消を否定・住居侵入罪と強盗致傷罪の共同正犯 | 追撃の共謀を否定・無罪 |
学説はどう整理しているか
ここから先は、判例が述べたことではなく、学説による整理です。まず用語として、現場を離れるという「事実」を離脱、その後の結果について責任を負わなくなるという「評価」を解消と呼び分けることが多くなっています。
解消が認められる理由づけとして通説とされるのが、因果関係の遮断(切断)という説明です。共犯が処罰されるのは、自分の関与が結果の発生に対して物理的・心理的な因果性を持つからだ(因果的共犯論)と考え、抜ける者がその因果性を取り除いたときは、その後の結果に責任を負わない、と説きます。ここで重視されるのは心理的な因果性で、一緒に一時間以上殴り続けたという事実が残る限り、立ち去っただけでは仲間の中の「勢い」は消えません。
また、影響を完全にゼロにする必要はない、というのも学説の共通了解です。自分の影響をかなりの程度まで低下させ、あとは残った者だけの責任だと評価できる状態を作れば足りる、と説明されます。
かつての実務には、着手の前後で要求を変える整理(学説はこれを離脱時期指標論と呼びます)がありました。着手前なら離脱の意思を伝えて仲間が了承すれば足り、着手後は結果を防ぐ行動が要る、というものです。平成21年決定は、着手前で、離脱を仲間が知っていた事案でも解消を否定したため、時期は決定的な指標ではなく、因果性を断ち切ったかどうかが決定的だと整理されています。
平成6年判決についても、学説は「共犯関係の解消」ではなく、当初の共謀がどこまでの行為に及ぶかという共謀の射程の問題だと位置づけています。侵害を止めるための反撃の共謀と、侵害が終わった後の報復とでは、目的が異なるからです。
ほかに、①因果性を断ち切れなくても正犯としての重要な寄与が失われていれば幇助犯にとどまり得る、②解消が認められ、かつ自分の意思でやめたのであれば刑法43条ただし書の中止犯の余地がある、といった整理も示されています。いずれも学説による説明であり、これらの決定・判決が特定の学説を採用したと述べているわけではありません。
答案ではどう書くか
- 検討対象を特定する(現場を立ち去った後に共犯者が加えた暴行から生じた死の結果について、離脱者に傷害致死罪の共同正犯が成立するか)
- 刑法60条・205条で枠を立て、原則を確認する(共謀と、共謀に基づく実行があれば、一部実行の全部責任により仲間の生じさせた結果にも責任を負う)
- 本件の特殊性を示す(死の結果を生じさせた可能性のある最後の暴行の前に、被告人は現場を去っている)
- 問題提起する(立ち去った後の結果について、なお共同正犯としての責任を負うか。共犯関係の解消が問題となる)
- 趣旨から規範を立てる(共犯の処罰根拠は自己の関与と結果との物理的・心理的な因果性にある。したがって因果性を除去したときは解消を認める)
- 規範を判断基準に落とす(①共犯者がなお犯行を継続するおそれが消滅しているか ②消滅していないとき、離脱者がこれを防止する措置を講じたか)
- 要素ごとにあてはめる(①おそれの消滅、②防止措置の有無の順に、認定された事実を挙げて一つずつ検討する)
- 残りの柱をくぐって結論を書く(違法性・責任を打ち消す事情の有無)
書き方で外しやすいのは、決定文が言っていないことを判例の言葉として書いてしまうことです。平成元年決定は「なお制裁を加えるおそれが消滅していなかつたのに」「格別これを防止する措置を講ずることなく」と事案に即して述べるだけで、因果性の遮断という一般論を書いてはいません。判例の言葉と、答案で立てる規範の言葉は層が違うという意識を持つと、書き分けが安定します。
この論点が司法試験・予備試験のどの年度で出題されたかは一次資料で確認できていないため、本記事では出題実績を挙げません。
動画で見る
この事件は「レイの法廷」で映像化しています。物語で事案をたどり、決定文の読み解きから三つの事件の使い分け、答案の型までを扱う構成です。公開状況はレイの法廷でご確認ください。
よくある質問
Q. 「おれ帰る」と言っただけでは、なぜ足りないのですか?
平成元年決定は、帰った時点で共犯者がなお制裁を加えるおそれが消えていなかったのに、被告人がそれを防止する措置を何も講じなかった点を理由に挙げています。立ち去ったという事実だけでは、残った共犯者が暴行を続ける状況は変わらないためです。
Q. 実行に着手する前に抜ければ、責任を負わずにすみますか?
そうとは限りません。平成21年決定は、強盗に着手する前に離脱し、しかも残った共犯者がその離脱を知っていた事案でも、犯行を防止する措置を講じていないことを理由に、共謀関係の解消を否定しました。
Q. 抜けるには、具体的に何をすればよいのですか?
決定はそこまで明示していません。平成元年決定が事実認定の中で挙げているのは、暴行をやめるよう求めること、被害者を寝かせてやってほしいと頼むこと、病院に連れていってほしいと頼むことです。学説では、共犯者を説得する、警察に通報する、被害者に危険を知らせるといった行動が例として挙げられています。個別の場面でどこまで必要かは事案によるため、ここでは断定しません。
Q. 共犯関係の解消が認められたら、まったく処罰されないのですか?
解消が認められるのは、あくまで抜けた後に生じた結果についてです。それまでに自分が加えた暴行が傷害罪にあたるといった責任は残ります。学説には、因果性を断ち切れなくても正犯としての寄与が失われていれば幇助犯にとどまり得る、という整理もあります。
Q. 平成6年判決は、どうして「解消」の問題として扱われなかったのですか?
もともとの共同行為が、女性を助けるための正当防衛として適法な行為だったからです。最高裁は、その後の暴行については共同意思から離脱したかどうかではなく、新たに共謀が成立したかどうかを検討すべきだとし、被告人については追撃行為の共謀を認められないとして無罪としました。
出典: 最高裁判所第一小法廷決定 平成元年6月26日(刑集43巻6号567頁(新しいタブで開く))/ 最高裁判所第三小法廷決定 平成21年6月30日(刑集63巻5号475頁(新しいタブで開く))/ 最高裁判所第三小法廷判決 平成6年12月6日(刑集48巻8号509頁(新しいタブで開く))/ 刑法60条・205条・43条(e-Gov法令検索)。引用は各決定・判決の原文どおりで、平成元年決定の歴史的仮名遣い(「去つた」など)と平成21年決定の読点(「,」)もそのままにしています。第1審・原審の判決文は公式データベースに収録されていないため、最高裁の決定文・判決文が摘示する範囲で記載しました。
本記事は決定文・判決文にもとづく一般的な解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。当事者は決定文・判決文と同じ記号または役割で示し、動画では仮名を用いています。氏名・所在地などの特定情報は扱っていません。
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#レイの法廷#判例#刑法#共犯関係の解消
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